No.0019

2014年08月01日

自国の歴史を紐解くことで認識の違いを埋める試み「日中若手歴史研究者セミナー」

歴史認識「共有」化に代わる試み

日中両国民の歴史認識には大きな隔たりが残されています。1972年に日中国交が回復され、歴史の精算についてある程度の共通認識ができたかに思えました。しかし、近年にいたっても認識は共通化されるどころか、むしろ差異が際立ってきている感があります。そうした溝をどう埋めればいいのか。たとえば、政府間で実施されたそうした研究会では、研究者間の交流には成功したものの、歴史認識そのものを埋めることはやはり難しく、今後の課題として残されてしまいました。
そこで、SPFがこの問題に取り組むにあたって考えたひとつは、まず両国の若手の研究者たちに広く相手国について関心を持ってもらうことでした。そして、仮に歴史認識について解釈を同じくすることが不可能でも、研究手法や史料を共有するところから一歩ずつ時間をかけて、パイプをつくり、議論の土俵を用意していく必要があるだろうということでした。
その狙いで、2001年に「日中若手歴史研究者会議」をスタート。日中の若手研究者による共同研究や成果の共同出版、英語圏への情報発信などをすすめてきました。それを10年継続したのち、さらに2011年から5年計画で、「日中若手歴史研究者セミナー」を新たに始め、いまも毎年実施しています。
「日中若手歴史研究者セミナー」は、夏に20代~30代の若手研究者を両国から募り、合宿して研究発表やディスカッションを行うものです。開催地も、第1回目(2011年度)は沖縄、第2回目(2012年度)は金門島・アモイで、第3回目(2013年度)は長崎というように、日中の歴史において重要な意味を持つ地を選び、沖縄の戦中・戦後史、中台緊張・海峡問題、原爆、華僑ネットワークといった事例をごく身近に感じ取りながら議論を戦わせました。

第4回目は、8月7日~14日、南京で開催

第4回目となる今夏は、中国・南京において、日本・中国・台湾・アメリカで研究している日本人と中国人など、約40名が出席し、約1週間の日程で各自の研究テーマについて発表、ディスカッションを行いました。
今年の特徴は、まず、日中双方の参加者が「自国史研究者」であったことです。これ以前の3回は、日本の中国研究者と、中国の日本研究者も参加する中での対話でした。つまり、おたがいに相手側の事情についてある程度理解があり、それゆえ議論においても相手側立場をおもんばかることができ、自己の歴史認識との"ずれ"を痛切に感じながら双方の違いを議論し合えるという条件が整っていました。今回は、その条件そのものをはずし、それぞれ自国の歴史を研究している者どうしが「戦争と社会」というテーマのもとで議論したらどうなるかという試みに臨みました。
その結果、あらたな化学反応が生まれました。たとえば、国立歴史民俗博物館・機関研究員中野良氏の「日本陸軍の軍事演習と地域社会」についての発表では、戦前、戦中の日本地域社会と日本陸軍の相互関係が詳細に明らかにされました。それが中央と地方機関双方の緻密な史料探究にもとづいた研究だったこともあり、中国側研究者たちにとっては新たに知った日本の知識であるとともに、斬新な研究手法に映りました。その他、「東京の都市化と軍需工場」(鈴木智行氏)、「朝鮮戦争と米国世論」(高木綾氏)、「浙江の鉄道権益騒動」(岳欽韜氏)など、いくつかの研究の実例を通して、それぞれの政治史や経済史、社会史の手法を学び合い、白熱したディスカッションが毎日続きました。

和解実現を願い、事業担当者の陰なる努力にも注目

発表内容は関係者向けのサイトに公開され、大学や高校をはじめ各種メディアを通じて、じわじわと浸透しており、日中選り抜きの自国史研究者を招いての試みは、和解実現への第一歩と注目されています。また、参加者からも手ごたえのあるセミナーに、「国際会議で報告をする際の報告方法や論理構成について学ぶことができた」「先行研究も少なく今後の進展が期待されるテーマなので、興味深かった」などという感想が寄せられ、開催する側としてはうれしい限りです。
日中両国の若手研究者40名の人選からセミナー開催に至るまでには、大変な労力を要します。しかし、毎回のセミナーを通して新たな出会いと発見があり、互いの理解が深化していくのを実感します。セミナーの次回の課題を追求しつつ、さらなる和解の実現に向け、Progress Nowで引き続きフォローしていきます。

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