事業紹介

2016年
事業

アジアオピニオンリーダー交流

事業概要

本事業は、アジアのオピニオンリーダーを招へいし、日本の政界、学界、産業界の実務家との対話の機会を増やすことで、日本と対象国の協力関係の強化を目指すことを目的としています。
【事業計画】  ➣ オピニオンリーダー招へい、来日記念講演会の開催

事業実施者 笹川平和財団 年数 3年継続事業の3年目(3/3)
形態 自主助成委託その他 事業費 29,200,000円
ガウハー・リズヴィ教授講演会サマリー(2016年4月7日開催)

概要

笹川平和財団は「アジアオピニオンリーダー交流」事業の一環として、バングラデシュよりバングラデシュ首相顧問であるガウハー・リズヴィ教授を招へいし、「政府は消え失せるのか?―ガバナンスの将来―」と題する講演会を4月7日、都内にて開催いたしました。講演会では、立教大学法学部の竹中千春教授がモデレーターをつとめました。

講演において、リズヴィ教授は、社会経済的な発展を支えるために拡大してきた政府の責務は、市場経済や社会の発展とともに、変容をしてきたが、社会が求める政府の役割自体は変わっていないと説明しました。肥大化する官僚機構への批判から、小さな政府が求められた後、規制や行政サービスの提供などを社会の実情に合った形で効果的に提供することが求められるようになってきたと述べました。国民と信頼関係の上に立った実効的な政府が必要で、多様なステークホルダーを繋ぎ、調整していくといった時代の変容に合わせた柔軟な社会的イノベーションを促す役割を果たしていく必要があると強調しました。バングラデシュの内政や外交に関しては、多元的民主国家として国内の経済社会の発展を促しつつ、南アジア含め、アジア諸国との連携と地域的な発展に寄与していく政策を推し進めていると述べました。



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ガウハー・リズヴィー教授



国家の役割の歴史的変容
国家の歴史的役割を振り返れば、識字率の向上、保健、大規模な住宅開発など、政府は社会の発展に重要な役割を果たし、政府活動は広範に拡大してきた。しかし、1980年代に入り、政府組織や予算の肥大化、非効率性、縁故主義など政府批判の声が高まり、経済学者であるミルトン・フリードマン教授やマーガレット・サッチャー元イギリス首相、ロナルド・レーガン元アメリカ大統領が小さい政府の方針を打ち出し、これまで政府が担ってきた責務のうち市場や民間企業および非営利団体など政府以外の組織が実施できるものについてはそうした組織に業務を委ね、民営化などを通じて体制を整備し、政府はより正統な業務に焦点を置いて、政府業務の効率化が図るようになった。政府の縮小化が進められる中で、2001年の9.11同時多発テロにより、政府が果たさなければならない役割が再認識され、必要な政府機能は強化するといった方向で実効的政府を確立するための組織改革が進められるようになった。

政府に対する信頼の回復
政府はその果たすべき役割を再認識し、社会サービスの提供し、市場や社会の規制、暮らしの保障、健全な経済活動の促進などに努めつつ、政府以外の組織が担える役割はそうした組織に委ねていくという形で国民との信頼関係を再構築する必要がある。健全な市場の活用は重要であり、そのためには、市場の中で競争を確保し、市場の質を高めることが必要である。また、より機能的な政府組織を確立するために、実効力向上に資する組織的変革を進めていく必要がある。

結び
政府の役割については、特定のモデルが存在するわけではなく、個々の国や社会の状況に合わせ、政府の役割を規定し、責務を果たしていかなければならない。現代型の政府は、権威を行使するだけではなく、ステークホルダーを繋ぎ、調整しながら社会の発展を牽引していくことも必要で、政府は自ら実効的な組織として機能を創出(イノーべーション)し、革新的な組織変容を遂げていかなければならない。



基調講演後、リズヴィ教授は、竹中教授のコメントとフロアからの質問に対して、以下の通り回答しました。

リズヴィ教授の講演内容をバングラデシュおよび同国のアジアや日本との関係について敷衍した場合、特に経済格差や周辺イスラム国の政府崩壊や弾圧を踏まえどのような議論ができるのかとの点について、リズヴィ教授は、バングラデシュは多元的民主国家として発展を目指しており、説明責任や生産性の向上を図り、イノベーションを推進していると述べました。アルバングラデシュには、85,000の村があるが、自治体ではITサービスを導入し、行政サービスの向上に努めていると強調した。また、バングラデシュはイスラム教国であるが世俗的で社会的に多元的であり、IS等とは全く異なる社会であることを強調しました。



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竹中千春教授



この他、リズヴィ教授は、日本との経済協力について、国民全てが受益する開発を進める一方、基礎健康皆保険を進め、安定した政治状況と潤沢な熟練労働者の存在により、今後も日本も含め海外投資が堅調に伸びていくことへの期待を表明しました。共産主義・独裁国家への今回の議論の応用については、政府が人権や民主化を保障していく役割が重要となると強調しました。人権や外交については、リズヴィ教授は、バングラデシュは国際労働機関の労働基準や議定書の遵守を進め、インドやミャンマーとの友好を地域の安定と発展に寄与することを目指していると述べました。発展促すための政府の役割について、リズヴィ教授は、様々な側面でイノベーション、つまり革新的な取組を促していくことが重要であると強調しました。



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質疑応答



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会場の様子



ガウハー・リズヴィ教授招へい報告

「アジアオピニオンリーダー交流」事業の2016年度の第1弾として、2016年4月1日から4月8日までの8日間の日程で、バングラデシュ人民共和国の現首相顧問(国際関係担当)である、ガウハー・リズヴィ教授を招へいしました。(訪問地:東京・関西)

現在、バングラデシュのハシナ首相の国際関係担当の顧問であられるリズヴィ教授は、以前は英国オックスフォード大や米国ハーバード大等にて国際関係について長年教鞭をとっておられた、国際関係のエキスパートです。

都内では、外務省をはじめ、日本・バングラデシュ友好議連、国際協力機構(JICA)、日本財団、さらに政策シンクタンクである日本国際問題研究所等を訪れ、バングラデシュと日本とのこれからの関係はもちろん、東アジア・東南アジアにおける安全保障上の課題を含め、アジアのこれからの国際関係等について意見交換を行いました。いくつかのご訪問先に対しては、新しく駐日大使となられるファティマ氏をご紹介される等、日本とバングラデシュの両国の更なる関係強化にもご支援いただきました。7日には、弊財団ビルにて、南アジア・バングラデシュについての日本人専門家らとの交流を行い、その後、「政府は消え失せるのか? ガバナンスの将来」と題し、これからの政府の在り方や政府の方向性についてのご講演をいただきました。



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また関西では造幣局(大阪)を訪問しました。造幣局は、平成24年にバングラデシュの一般流通貨幣の1つである2タカ硬貨5億枚の製造を受注していますが、これは造幣局にとっては戦後初めての外国硬貨の製造であり、また初めてのステンレス硬貨の製造でもあります。造幣局では、硬貨や勲章製造の現場も視察され、日本のモノづくりについての理解を深められました。



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C・ラジャ・モハン氏講演会サマリー(2016年5月19日開催)

概要

笹川平和財団では「アジアオピニオンリーダー交流」事業の一環として、インドよりカーネギー・インディア代表を務めるラジャ・モハン氏を招へいし「アジア統合へ向けて-新しい日印パートナーシップと域内インフラ構想」と題する講演会を5月19日、都内にて開催いたしました。講演会では、東京大学東洋文化研究所の田中明彦教授がコメンテーターを務めました。

モハン氏はアジアにとってコネクティビティ(連結性)は長い歴史がある一方で、現在の喫緊の課題であるとし、本課題におけるインドのアプローチを明らかにするとともに、日印協力の重要性を述べました。資本主義の到来により、域内統合の性質は劇的な変化を遂げましたが、インドと中国が再び世界市場に組み込まれることによって、コネクティビティの形態が根本的に変化してきています。これまでも、地域のコネクティビティに関わるプロジェクトを主導してきた日本にとっても、安全保障の面だけではなく、経済の分野においても近隣地域をインドとともに発展させ、アジアと世界とのコネクティビティをもう1度回復することが重要になっていると述べました。中国の一帯一路イニシアチブが世界的な注目を集める中、日本政府による「質の高いインフラパートナーシップ」(PQI)に必要なものは、政治的なパッケージ化や幅広いPRであると提案しました。日印の関心が一致している歴史的なチャンスを迎えた今日、互いの能力や資源を持ち寄り、アジアにおけるインフラ整備を達成することで、アジア地域全体の再構築に対して大きく貢献するパートナーシップを築くことができると結びました。



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C・ラジャ・モハン氏



アジアにおけるコネクティビティの歴史と現在
「第1次グローバル化」とされる植民地主義の時代には、産品の輸出目的からユーラシアの各地が未曾有のスケールで結ばれました。しかし、植民地時代が終わると、印中ともに再び内向きな枠組みで経済発展を目指しましたが、それは失敗に終わりました。中国では1978年以降、インドでは1991年以降、再び印中が世界市場に組み込まれた現在、世界最大の人口センターと市場がいかに世界と結びつくのか、コネクティビティはアジアにとって無視することができない新たな重要な課題となりました。コネクティビティの課題においては、地理は物理的な要素の一つでしかなく、むしろ政治や経済がどう動くかが重要です。結局は、経済・政治の方向性が地理的空間を定義づけることになるのです。印中が産業化したことから、貿易ルートの発展を巡り、世界のコネクティビティは根本的に変化しています。特に、世界第2位の経済大国となった中国は、これまでにないスケールで世界とつながろうとしています。

インドの現状と日印パートナーシップ
常識的に考えれば、世界第2位の経済大国とまったく関係を持たないということは理にかなわず、除外するということは到底不可能です。インドは現時点において、主権の主張をめぐり、部分的には中国と対立していますが、領土をめぐる紛争のない地域(ミャンマー、バングラデシュ)を通るルートの開発については、喜んで協力したいと考えています。中国との経済的な協力は全ての国の関心であり、近隣諸国と中国との関係は拡大していかざるを得ません。その前提条件の中で、インドが考えるべきことの1つに、日本とのパートナーシップがあります。長い歴史の中で、日本はアジアにおけるコネクティビティに関するプロジェクトを主導して支援してきました。その姿勢は、中国とは基本的に異なるアプローチであり、今後も重要なプレイヤーとして、新しいコネクティビティづくりの中でも認められていくでしょう。「質の高いインフラパートナーシップ」(PQI)というイニシアチブを掲げ、東南アジアを越えた南アジアのコネクティビティにも目を向け、既に経験の蓄積がある日本が、中国に代わり代替的なアプローチを提供し、インドと手を組むことができれば、アジア地域の再建・再構築にもつながると期待します。これは、中国に対抗するためではなく、この地域に選択肢を広げることにつながり、世界からは前向きな貢献としてとらえられるでしょう。そのためには、アイディアを出し続けるとともに、政治的なパッケージ化やPRが必要だと提案します。

結 び
今日、インドと日本は歴史的なチャンスを目の当たりにしています。インドが近隣諸国とのコネクティビティをもう1度回復し、地域全体を発展させること、インド洋のインフラの近代化を図ることは、日本の利益とも一致します。日印が関心を共有し、協力できるアイデアが色々と出てきています。両国が能力や資源を持ち寄り、インフラ整備を協力することにより、さらなる政治的な面での日印の協力につながると大いに期待しています。インドが日本のPQIを支援し、日本が南アジアにおけるインフラ整備の支援を進めれば、この地域の国々に大きなメリットをもたらすことになるでしょう。



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講演の様子



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田中明彦教授



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質疑応答の様子

タイ行政官招へい非公開国際セミナーサマリー(2016年6月22日)

概要

笹川平和財団は「アジアオピニオンリーダー交流」事業の一環として、タイ王国天然資源環境省公害対策局長のウィジャーン・シマチャヤ博士、国立研究評議会・戦略的環境研究開発センターのディレクターであるクワンルディー・チョティチャナタウィウォン博士、タイ公害対策局環境専門官パッタラポーン・スリチュムニ氏、タイ環境研究所研究員サンティコーン・パクディーセッタクン氏ら4名を招へいし、「持続可能な社会づくりのためのパートナーシップ構築に向けて タイの廃棄物処理から見る社会連携の課題と可能性」と題する国際セミナーを6月22日、都内にて開催いたしました。

国際セミナーでは、モデレータとして国連大学サステナビリティ高等研究所 竹本和彦所長、またパネリストとして、日本環境衛生センター 藤吉秀昭副理事長、地球環境戦略研究機構 堀田康彦上席研究員、アジア経済研究所小島道一上席主任調査研究員、日本国際ボランティアセンター 下田寛典タイ担当官、また当財団からは小林正典APOが討論者として参加いたしました。

基調講演では、シマチャヤ局長から、タイでは固形廃棄物の発生量が年間2700万トンの水準からさらに増加することが予想されており、この課題に対して効果的な対策を実施していくにあたっては、特に自治体と地域住民の協働が必須と考えられているが、廃棄物処理施設が迷惑施設(NIMBY - Not in my backyard:自分の裏庭はお断り)との考えが根強く、廃棄物処理施設の稼働が十分でない等の現状が報告しつつ、適切な廃棄物処理を進展させるために、長期的・戦略的視点に立って国家行動計画であるロードマップやマスタープランを作成し、その実施を進める取組が示されました。



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ウィジャーン・シマチャヤ博士・クワンルディー・チョティチャナタウィウォン博士



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竹中和彦所長



タイの現状
現在、年間2700万トンにのぼる家庭固形廃棄物のうち半分だけしか、適切な処理がなされておらず、残りは、公有地や私有地に野積みされているのがタイの現状です。タイには、約400もの廃物処理施設が存在するが、多くは住民の反対により稼働していません。最終処分場は約1900ありますが、その処理は不適切で、その結果、深刻な健康被害、環境劣化、地下水汚染等といった問題を引き起こしています。廃棄物処理を重視していない地方自治体が多く、廃棄物処理施設は迷惑施設/NIMBY(Not in My Backyard)と目され、多くの自治体が埋め立て焼却処分に非協力的な立場を取っています。

政府の取組
タイ政府は、2014年に廃棄物管理のロードマップ(実施要領)を導入し、今年2016年5月には、2016-2021年の6ケ年を対象とした、固形廃棄物と有害廃棄物の管理のための基本計画(マスタープラン)を採択しています。実施要領では、廃棄物に関する既存のものも含めた4つの目標(マイルストーン)を設定しています。ごみ発電等の革新的手法にも着目しています。数値目標を設定しその実現を図る一方、将来世代を意識した廃棄物管理の法整備の見直しを進めています。新しいマスタープランでは、子供や市民、民間セクターに対して、3Rs(Reduce、Reuse、Recycle)を奨励しています。また、集約的施設による廃棄物や有害廃棄物の適切な処理手法の確立を目指しています。他にも、多様なセクターの総合的な関与を重視しています。今後は、毎年、年間行動計画の立案を検討しており、自然資源環境省、公衆衛生省、産業省、教育省や義務教育就学児童をも対象にし、5%の廃棄物削減という数値目標を掲げ、その実現に向けた取り組みを進めています。

地方自治体および市民の意識改革
政府は基本計画を策定し、廃棄物管理の長期計画を提示したものの、地方自治体との協働は依然として非常に重要な課題として残されています。地方自治の原則から中央政府の介入が難しいのも事実で、また、最終処分場でスカベンジャー(ゴミ拾い)として働く児童も含めた人々の健康被害や貧困といった社会問題も見逃せません。焼却や埋め立て自体に反対の立場を表明し、廃棄物処理事業へ協力を手控える地方自治体も現存します。人々の意識改革をいかにして促せるのかが非常に重要な課題となっています。
シマチャヤ局長の基調講演後、チョティチャナタウィウォン博士より、セミナーに先立ち視察した日本の廃棄物処理施設についての報告が行われました。様々な廃棄物処理を視察し、それらの根底に適切なゴミの分別が貫かれている点に感銘を受け、徹底した分別がリサイクルの促進や埋め立て廃棄物の削減に繋がっていると考えられたことを強調しました。また、廃棄物処理施設に学習センターが設置され、多数の児童が視察しているのを目にし、廃棄物処理に関する啓発活動が日本では児童から学生や市民まで幅広く行われていることが大変印象に残ったと報告がなされました。具体的には次の諸点等が指摘されました。

廃棄物処理施設視察の報告概要
山形県長井市で実施されているレインボープランでは、食物残滓のコンポスト化が広域的に実施され、焼却廃棄物の減量化と農業の活性化が進められていることを学びました。最も重要な点は、市民が非常に体系的に考え、協力している点であり、食品廃棄物を町内で収集し、工場でコンポスト化して肥料を作り、それを農家に提供し、農家は農産物にラベルを付けてスーパーで売ると同時に、農作物の一部は学校給食に供されていた点です。市民とNPOそして行政が協働してゴミの減量化と農業の活性化、食育の実践を進めており、大変先進的な取組と考えられました。栃木県那須塩原では、コンクリート殻等の産業廃棄物を砂礫採掘場跡地に埋め立てて処分しており、埋め立て済みの敷地には太陽光パネルを設置するなど多面的な土地利用が森林地帯でなされていたことが印象深いと感じられました。
栃木県宇都宮市茂原町では、1日当たり350トンの焼却容量を有する焼却炉を視察しました。排出係数と発電量を公開していた他、子供達や市民に学習センターが公開されており、大いに興味を惹きました。
栃木県小山市野木町では、食品廃棄物と庭木等の剪定ごみの廃棄物を混合し、農業利用を視野にコンポスト化を進めており、施設は大変衛生的で臭気密閉装置が整備され、非常に参考になりました。
東京のバイオエネルギーの施設では、ス―パーやレストランなどの事業用食品廃棄物を利用し、メタンガスを生成し、発電を行っている様子を視察しました。ここでも住民や子供達に向けた環境教育が提供されていました。電子機器廃棄物処理施設では、政府の補助金なしに、民間企業との間で事業を成立させていました。また、焼却施設の余熱は、植物園や温水プールで利用されていることを学びました。

質疑応答
その後、竹本所長の司会により、報告者に加え、パネリストや討論者を交えての質疑応答が行われました。小島氏は、官民連携やごみの分別等、かつて日本が取り組んだ経験の共有の可能性について、また藤吉氏は、アジアにおける環境配慮型の廃棄物処理とエネルギー利活用の可能性について、堀田氏はリサイクル推進に向けた民間企業と連携について、下田氏からはタイのスカベンジャーへの更なる理解の重要性について、また当財団の小林からは、市民参加と市場メカニズムの利用について指摘がなされ、各々の意見が共有されました。聴衆からは、廃棄物処理と持続可能な開発目標との連携や環境保全措置の徹底、適正な予算配分の重要性などが指摘されました。竹本所長は、廃棄物処理を地域振興や社会問題の解決などと関連して議論することの意義を高く評価しつつ、俯瞰的視点、政策実施体制の強化、ステークホルダーの参画、技術革新、優良事例の共有の重要性など大変参考になる提言がなされたとしてこのセミナーを総括し、登壇者や参加者、更には、本セミナーを主催した笹川平和財団に謝意が表され閉会となった。



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非公開国際セミナーの様子



パルニ・ハディ・カサンプロ氏講演会サマリー(2016年12月13日開催)

概要

笹川平和財団では「アジアオピニオンリーダー交流」事業の一環として、インドネシアで最大規模のNGO団体ドンペット・ドゥアファ(Dompet Dhuafa:「貧しい人々のお財布」という意味)の創始者であるパルニ・ハディ・カサンプロ氏を招へいし「イスラム社会における社会貢献のかたち-インドネシア発ドンペット・ドゥアファの挑戦-」と題する講演会を2016年12月13日、都内にて開催いたしました。

パネルディスカッションでは、ドンペット・ドゥアファの幹部であるイマン・ルリヤワン氏、ユダ・アバティ氏、そしてインドネシア汚職撲滅委員会元副委員長であるバンバン・ウィジャヤント氏が参加しました。 パルニ・ハディ氏は、もともとはジャーナリストであり、教育学を学んできた教師でした。氏は、社会奉仕への義務を感じ、貧困を撲滅する活動を進め、イスラム教徒としての義務の一つであるザカートを通じ、革新的、社会経済的なプログラムを作りました。社会を良くするという命題のもと、組織の透明性や説明責任を明らかにすることで、ザカート組織の信頼を得る努力も続けています。ドンペット・ドゥアファは貧困撲滅を目的としています。現在、1万人のボランティアを抱え、その活動により1300万人の生活を向上させた実績を持っています。また、2016年には「ラモン・マグサイサイ」賞を受賞しました。



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パルニ・ハディ・カサンプロ氏



ドンペットドウアファの活動
パルニ・ハディ氏は、日刊紙の記者でした。1994年9月に友人たちと独立した組織としてドンペット・ドゥアファを立ち上げました。その資金源はザカートという寄付です。ザカートとは、イスラム教徒としての義務のひとつである喜捨で、収入の2.5%を貧しい人に寄付するというものです。小さな組織から始まったドンペット・ドゥアファは23年経った今では、12万8,000人のドナーから寄付を受け、年間2,000万ドルを集めることに成功しています。ひとえにこれは一般の人からの信頼を得られたことが理由だと言えます。ドンペット・ドゥアファは、ザカートを集め、貧しい人に配るだけではなく、人々の自立を目指しています。無料の病院もあり、富めるものとそうでないものの橋渡し役をするなど国がサポートできないところを補っています。保健、教育、経済、社会などあらゆる問題の解決、民族、宗教、人種を超えた自然災害支援にも力を入れています。インドネシア以外では、オーストラリア、アメリカ、日本などの海外にも支部があります。人道組織の基本は信頼であることから、透明性と説明責任を重視しています。ザカートを集め、年次報告書の監査を受けるといった、組織の透明性を保ち、受益者の人達との間で話合いの上、任務を遂行しています。
さらに、ドンペット・ドゥアファは、メディアと緊密に協力しながら活動を続けています。ここには二つの利点があります。一つ目は情報収集、二つ目はプログラムについての情報を発信できることです。

貧困とエンパワーメント
ドンペット・ドゥアファは、津波等の自然災害、汚職といった社会的問題から生まれる貧困を撲滅する使命を持っています。貧困の問題では、世界の貧しい人の70%が女性だと言われています。具体的かつ生産的なプログラムで彼女たちを能力強化することによって、貧困からの脱出を実現させています。また、女性のスキルを向上させ、体系的かつ論理的な考え方を発展させるといった女性のためのトレーニングの必要性を、ラジオやテレビ、新聞、ソーシャルメディアなどを通じて広めています。
 経済的に恵まれていないと健康を損ない、教育を受けることが出来なくなります。そして、文化、価値観、倫理的、宗教的にも貧しくなるわけです。貧困から始まるこの悪循環は、断ち切らねばなりません。能力育成、トレーニング、資本、個人や機関としての政策提言も必要です。


結 び
ドンペット・ドゥアファの資金は主に個人からのザカートです。また、企業のCSRの基金を通じてお金を提供することも可能で、多くの企業家も寄付する先としてドンペット・ドゥアファを選んでいます。パルニ・ハディ氏は「自分たちのできる範囲で手を差し伸べればいいのです。皆さん、寄付できるもの、提供できるものは何でも提供してください。貧しい人たちのために愛情を持ちましょう」と結びました。



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講演の様子



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パネルディスカッションの様子



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バンバン・ウィジャヤント氏



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イマン・ルリヤワン氏(左)、 ユダ・アバティ氏(右)



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質疑応答の様子



バンバン・ウィジャヤント氏講演会サマリー(2017年3月17日開催)

概要
笹川平和財団では「アジアオピニオンリーダー交流」事業の一環として、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)元副委員長であるバンバン・ウィジャヤント氏を笹川平和財団客員研究員として日本へ招へいしました。約10か月間に及ぶ日本での調査研究を終え、同氏による「インドネシアにおける汚職対策の現状と課題」と題する講演会を帰国直前の2017年3月17日、都内にて開催いたしました。
バンバン氏は、インドネシアにおける様々な汚職事件や汚職撲滅への取り組みを紹介しながら、汚職は全世界に蔓延する問題で人権に対する深刻な犯罪であり、民主主義の質を低下させる。そのうえ、選挙のプロセスを傷つけ裁判を弱め、正義・公平性を失うと述べました。


20170317_Summary01.JPGバンバン・ウィジャヤント氏


インドネシアの汚職とKPKの成り立ち
汚職は、「インドネシアの文化」とも言われている。1967年から30年以上にわたり続いたスハルト大統領の時代は、特に腐敗に満ちた時代だった。1997年以降に発生したアジア金融危機においては、中央銀行の流動性支援に関して、インドネシア史上最大規模の汚職が発生し、120億ドル以上が失われたとされる。この不透明性に対する国民の不満は高まり、汚職のない清廉な政府の確立、法の支配の確立要求した人々のピープルパワーによりスハルト大統領は退陣を余儀なくされた。
このような背景もあり、2002年に汚職撲滅のための専門機関としてKPKが設置された。KPKは政府高官の関わる汚職事件等、大規模は事件を扱う。また、汚職の捜査をするだけでなく、訴追の権限を持つ。日本においては捜査と訴追は警察と検察に分かれているが、KPKはその両方の権限を持つため、捜査、訴追と連続的、かつ効率的に行える。ちなみに、2004年から2015年までの間、KPKが取り扱った政府高官の有罪判決率は100%である。その他にも、反汚職に関する教育、啓発、汚職防止のための活動も展開している。
汚職撲滅には、青年、女性、中間層等の市民団体の参画も必要である。またメディアの報道も重要であるし、ムスリム等宗教関係団体など幅広い層を取り込むことが重要であると考え、様々な取り組みを行っている。
また、若者に反汚職をアピールするには、ポップカルチャーを使うことも効果的である。メッセージを5分程度の映像にまとめ、ソーシャルメディアで発信する。
ある調査によると、現在、インドネシアでは警察に対する市民の信頼は56%、KPKへの信頼は80%であり、広く市民の信頼を得ることができている。汚職による腐敗防止を進めていくためには、市民の信頼が必要不可欠である。
汚職を最小化するためには利益相反をコントロールすることが重要で、戦略的な計画やマップなどのツール作成する必要がある。戦略の一つとしては、政府と市民社会との対話に民間セクターを積極的に取り込むことである。なぜならば、インドネシアの汚職の第2のセクターは民間セクターだからだ。政府や市民社会だけでは足りない。

日本の投資とインドネシアの汚職について
日本はインドネシアにおける第2の投資国だ。高速・大量輸送システムだけではなく、海洋国家構想にリンクした海路開発プロジェクトもある。高速鉄道プロジェクトに関しては、中国に受注を持っていかれたが、これは単に入札の金額だけの問題なのか今一度考えてほしい。
今、我々は政策や方針、パートナーシップやネットワーキングの在り方を変えていかなければならない。汚職はインドネシアと日本だけではなく、世界共通の敵である。インドネシアの汚職は日本からの投資にもマイナスに影響する。インドネシアにおける日本企業も、単に投資ということだけではなく、どのように汚職の問題を乗り越えていくか考えるべき時が来ている。ぜひとも協力して汚職を防止したい。
例えば、日本では最近「天下り」が話題になっているが、インドネシアも同様の問題がある。この問題の対策については日本と一緒に考えることができるし、政府の透明性をどのようにして上げていくのか、利益相反のコントロールついて日本から学べると思う。
今、両国が手を合わせて、これまでの課題や良い対策を共有することができるのではないか。汚職に関わっている人に対して双方でビザ発給を拒否したり、国際的な金融システムへのアクセスを制限するなどの協力も検討すべきだ。日本の法執行機関は非常に強力だが、他国との手続が複雑なので簡素化することで、早く取り締まることができると考えている。

結び
汚職の撲滅は、投資の場での公平性を確保するだけではなく、利益を増やし、人、企業、国家に反映と正義をもたらすものである。もちろん、冒頭に述べたように、汚職が人間の生活の根本に関わる人権を傷つけるものだから撲滅する必要があるというのは言うまでもない。





20170317_Summary02.JPG講演の様子



20170317_Summary03.JPG松野明久教授



20170317_Summary04.JPG見市建准教授



20170317_Summary05.JPG質疑応答の様子



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