我が国は、海洋法に関する国際連合条約(以下、「国連海洋法条約」という。)により国土の10倍以上に及ぶ広大な周辺海域を管轄することとなったが、特に排他的経済水域は、世界有数の好漁場であるとともに、エネルギー・鉱物資源を豊富に含む可能性があり、その他にも海洋再生可能エネルギーの生産の場等として様々な活用の可能性が考えられるフロンティアである。国連海洋法条約のもと、我が国はこの広大な排他的経済水域において生物資源を含む天然資源の探査、開発、保存及び管理のため等の主権的権利を有する一方、海洋環境の保護及び保全等に関する管轄権を有しており、排他的経済水域の開発・利用と海洋環境の保全との調和を図る国際的な責務を負っている。また、国連海洋法条約のもと、沿岸国が探査・天然資源の開発の主権的権利を有する大陸棚に関しては、領海基線から200海里を越える部分について沿岸国の延長申請を大陸棚限界委員会が審査する手続が定められているが、我が国が2008年(平成20年)に行った延長申請に対し、2012年(平成22年)に大陸棚限界委員会からの勧告が行われ、政府において大陸棚の限界設定に向けた取組が行われているところである。
近年、エネルギー資源や鉱物資源の安定供給の確保がますます重要となる中で、我が国の広大な排他的経済水域及び大陸棚(以下「排他的経済水域等」という。)における石油・天然ガスやメタンハイドレート等のエネルギー資源、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、レアアース泥等の鉱物資源の開発、利用等を戦略的に推進していくことが重要課題となっている。現時点ではこれらの資源の大部分が未利用のままとなっているが、2013年(平成25年)に世界初のメタンハイドレートの海洋産出試験が成功する等、調査・研究が着実に進められており、将来の商業化が期待されるところである。また、洋上風力発電や波力発電、海流発電等の海洋再生可能エネルギーについても、近年の我が国のエネルギーを巡る情勢の中で重要性が高まっているところ、現時点で排他的経済水域における海洋再生可能エネルギーの利用は目途が立っていないものの、将来的には技術の進展等により、浮体式洋上風力発電等の利用が実現することが期待される。さらに、現在すでに地球深部探査や二酸化炭素の回収・貯留など、排他的経済水域等において科学的調査研究が行われている事例があり、今後一層こうした事例が増加する可能性がある。また、民間レベルでは、離島が存在しない海域において「洋上基地」を設置し、海洋観測、科学調査、資源探査等の支援基地とする構想もある。現在でも、我が国の排他的経済水域の一部においては、漁業、海上交通に利用されているほか、国際的な音声・データ通信の約95%を担う海底ケーブルや海底高圧電線、海底パイプラインの敷設が行われており、こうした既存の利用と新たな開発、利用との調整は今後ますます重要な課題になってくると考えられる。
一方、我が国は、世界の海洋生物種の約15%が生息する豊かな海洋生態系を有しており、国連海洋法条約や2010年(平成22年)に名古屋で開催された国連生物多様性条約第10回締約国会議において採択された、海洋に占める保護区の割合を10%にするなどの世界目標等を踏まえ、我が国海域においても、海洋環境の積極的な保全に取り組んでいく必要がある。海は水により一体のものとして構成され、また、海水や海洋生物が移動することから、地理的に離れていても、海における様々な問題は相互に密接に関連している。このような特性を踏まえ、海洋においては、陸域以上に環境保全について留意することが必要である。特に、深海におけるエネルギー・鉱物資源開発については、深海の特殊な生態系の保全に配慮しながら進めていくことが求められる。上述のとおり、今後、排他的経済水域等の開発、利用等の進展が予想される中で、排他的経済水域等における開発、利用等と海洋環境の保全との調和を適切に図っていく必要がある。
なお、海洋再生可能エネルギーについては、既に実用段階にある着床式洋上風力発電を中心に、当面は領海において利用が進展していくことが見込まれているが、漁業等の利用が輻輳している領海における利用調整も大きな課題となっている。
国連海洋法条約の発効を受けて制定された現行の「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律(以下「EEZ法」という。)では、排他的経済水域等を設定し、国連海洋法条約に定められた排他的経済水域等における沿岸国の主権的権利・管轄権の行使について我が国の法令を適用することを定めているが、これらの法令は基本的に陸上において適用されることを前提としたものであり、実際に排他的経済水域等において適用するには不十分なものが多い。近年では、鉱業法の改正等、海域での適用を視野に入れた個別法令の改正も行われているが、個別法の改正のみによる対応では、上述のような排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等を推進していくためには限界がある。
相互に密接な関連を有する海洋に関する諸問題に対処するためには、個別法に基づく管轄権を越えて、総合的かつ一体的に取り組む必要がある。陸上においては、個別法に基づく個別の管理主体による空間管理が行われており、一定の空間を区域とする地方公共団体の長が、その空間全体を統括し、計画の策定等を通じて鳥瞰的に管理する仕組みとなっている。一方、海洋においては、そのような管理の仕組みは、現状では存在せず、管理を行う主体も明らかにされていない。排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等を推進していくためには、個別法に基づく管理を各省庁が行うことを前提としつつも、総合的な管理主体がこれらを全体的な視点から束ね、計画的手法を通じて総合的かつ一体的な取組を可能とするための法律整備が必要である。具体的には、諸外国で導入が進んでいる海洋空間計画等を参考としつつ、海域等の特性に応じて区分された海域等ごとの海域等計画の制度を導入し、その中で個別の法律により設定された区域を取り込んだ区域区分等を規定するとともに、各省庁が個別法に基づく許可等を行う場合の権限行使に関する横断的なルールを設けることが必要である。なお、排他的経済水域等における国の役割(地方公共団体との関係)について、領海との違いを踏まえつつ、整理する必要がある。
次に、国連海洋法条約に基づき沿岸国による主権的権利・管轄権の行使として、その規制等を行うことができ、これに関する規則等を定めることができる事項について、我が国では必ずしも関連する法令の制定等の対応は行われていない。具体的には、海洋構築物等の設置、外国による海洋の科学的調査の取扱いといった事項があるが、このように国連海洋法条約に基づく権利の行使及び責務の履行のために不可欠な国内法の整備を行っていない部分について、関連する法整備を行う必要がある。
さらに、排他的経済水域・大陸棚において産業界が事業活動を行なおうとしても、現状では利用調整、環境影響評価等のための枠組が存在せず、これらについて産業界が全面的にリスクを負わなければいけない。排他的経済水域・大陸棚の開発・利用・保全を推進するため、その重要な担い手である産業界が安心して事業活動を行なうことが出来るような利用調整等の枠組(計画制度等)が必要であり、そのための法整備を行う必要がある。
我が国は、2007年(平成19年)に海洋基本法を制定し、その第19条において、「排他的経済水域等の開発、利用、保全等に関する取組の強化を図ることの重要性に鑑み」、「海域の特性に応じた排他的経済水域等の開発等の推進」等のために必要な措置を講じることを規定している。このことにより、我が国において排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等に向けた取組を行うことが初めて法律上に明記された。
なお、2007年(平成19年)には、「海洋構築物等に係る安全水域の設定に関する法律」が制定され、排他的経済水域等における海洋構築物等の周辺に、国が国連海洋法条約に規定する安全水域を設定することができると規定した。また、2010年(平成22年)には、「排他的経済水域及び大陸棚の保全及び利用の促進のための低潮線の保全及び拠点施設の整備等に関する法律」が制定され、国策として離島を拠点とした我が国の排他的経済水域等の保全、利用等が促進されることとなった。しかしながら、これら2つの法律は限られた目的のものであり、EEZ法の不備を十分に補い得るものではない。
一方、海洋基本法制定後の2008年(平成20年)に策定された海洋基本計画等においては、我が国としてどのように排他的経済水域等の総合的管理を行っていくかについての道筋は明らかにされていなかったが、2013年(平成25年)に策定された新たな海洋基本計画においては、海洋の総合的管理について、「領海及び排他的経済水域等の管理については、国際法上、我が国が行使し得る権利がこれらの海域では異なることから、それぞれの特性を踏まえた管理の枠組みについて、必要に応じ法整備も含め、検討する。」とされた。さらに、排他的経済水域等の管理について、「排他的経済水域等の開発等を推進するため、海域の開発等の実態や今後の見通し等を踏まえつつ、管理の目的や方策、取組体制やスケジュール等を定めた海域の適切な管理の在り方に関する方針を策定する。当該方針に基づき、総合海洋政策本部において、海洋権益の保全、開発等と環境保全の調和、利用が重複する場合の円滑な調整手法の構築、海洋調査の推進や海洋情報の一元化・公開等の観点を総合的に勘案しながら、海域管理に係る包括的な法体系の整備を進める。」とされた。
以上の状況を踏まえ、国連海洋法条約に定められた排他的経済水域等における沿岸国の主権的権利・管轄権を適切に行使するとともに、排他的経済水域等における開発、利用等と海洋環境の保全との調和を適切に図り、国際的な責務を果たしていくためには、既存のEEZ法や個別法とは別に、排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等を推進していくための新たな法律を整備する必要がある。
なお、法技術的には、必ずしも新法の制定ではなく、例えばEEZ法の改正やそれぞれの分野における個別法(鉱業法、鉱山保安法、環境影響評価法等)の改正等により対応することも考えられるが、法律上新たに整備すべき内容を明らかにするため、以下では便宜上、新たな法律を一括して制定することを前提とする。また、領海における総合的管理のための法律整備については、排他的経済水域等に係る法律整備の検討内容を参考として、別途検討を行う必要がある。
以上を踏まえ、新たに整備すべき法律として、「排他的経済水域及び大陸棚の総合的な開発、利用、保全等に関する法律」の要綱素案を提示する。要綱素案に示された、新たな法律に規定すべき内容の概要は以下のとおりである。
なお、既存の法制度により排他的経済水域等における諸活動に対する規制等が行われているものについては、新たな法律の制定後も引き続き該当する既存の法制度による規制等が行われることを前提とする。新たに特定の分野における規制等に係る個別法が制定される場合も、同様である。
■目的、基本理念
上記1. 2. を踏まえ、新たな法律の目的、基本理念を規定する。
■国の責務
海洋基本法においては、国が「海洋に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する」こととなっており、一方、地方公共団体は「海洋に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」こととされている。
排他的経済水域等は、その社会的な価値の大きさ等から、国の利害に重大な関係を有する海域であり、一方、地方公共団体がその区域として管理を行うには、管轄区域の設定の仕方や業務体制の上で限界がある。また、そもそも排他的経済水域等における我が国の主権的権利や管轄権は、領土や領海における主権とは異なり、国連海洋法条約により分野を限定して特別に付与されたものであり、地方自治体が排他的経済水域等における固有の権限を有すると解することはできないと思料される。このため、国と地方公共団体との役割分担としては、領海外である排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等に関する業務については、原則として国が行うこととし、地方公共団体の行政権限が及ばないものと整理せざるを得ないと考えられる。(ただし、後述する排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等に係る計画の作成等においては関係地方公共団体が関与することとし、個別法令に基づき地方公共団体の管轄とされている排他的経済水域等に係る業務については、引き続き地方公共団体の管轄とする。)
従って、総則において、国は、排他的経済水域等の開発、利用、保全等が総合的に行われるための施策を策定し、及び実施する責務を有することを規定し、以下の規定においても、排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等に関する業務の主体は国とする。
なお、排他的経済水域等における個別法令に基づく業務は引き続きそれぞれの所管省庁が行うことを前提としつつも、上記の総合的な開発、利用、保全等に係る業務に関しては、単一の行政機関により一元的に対応することが望ましい。現時点でこのような機関を特定することは困難であるため、法制整備の骨子案においては、このような役割を担う機関を、単に「主務大臣」と表現している。具体的にどの大臣が主務大臣になるのかについては、引き続き検討する必要がある。
排他的経済水域等の総合的な開発、利用、保全等に関する基本的な方針を政府が策定し、新たな法制に基づき講じられる措置(海域等計画等)に関する基本的な事項等を示すこととする。
■海域等計画
海洋基本法第19条に「海域の特性に応じた排他的経済水域等の開発等の推進」が規定されている趣旨を踏まえ、我が国の排他的経済水域等の海域等をその特性(地形、自然環境・生態系や生物資源、鉱物・エネルギー資源の状況といった自然的特性、開発、利用等の実態といった社会的特性等)に応じ区分し、それぞれの海域等について、その総合的な開発、利用、保全等を推進するための海域等計画を主務大臣が策定することとする。
海域等計画においては、それぞれの海域等における総合的な開発、利用、保全等に関する方針や目標、当該海域等における区域区分、区域区分ごとの総合的な開発、利用、保全等を推進するための主要な施策に関する事項を定めることとする。区域区分は、海域等計画の対象となる海域等をいくつかに区分する大まかなものとなるが、当該区域における生態系の特質等に鑑みて、環境保全を図るための特別の配慮が必要な特定海域等を定めることができるものとする。特定海域等においては、後述するとおり、鉱業権の設定を受けようとする者は、環境影響評価法の定めるところにより、当該鉱業権の設定に係る環境影響評価を行わなければならないものとする。
区域区分の中に個別の法律に基づく区域の全部又は一部を含む場合、当該区域を示すものとする。具体的には、現行法では鉱業法に基づく鉱区や、海洋保護区に該当する区域(自然環境保全法に規定する自然環境保全地域、水産資源保護法に規定する保護水面、自然公園法に規定する自然公園等)が想定されるが、現行法では、海洋再生可能エネルギー利用のための区域を定めるものはないため、本規定により新たに「海洋再生可能エネルギー利用区域」を創設する。なお、海洋再生可能エネルギーの利用促進に関する法律を別途整備する場合には、当該法律に海洋再生可能エネルギー利用区域に関する制度を定め、本規定においてそれに基づく区域を定めることもあり得る。さらに他の用途の利用について今後個別の法律により利用区域等を設定する場合にも、本法の改正によりそれを取り込むこととする(*)。
これらの区域のうち、海域等計画作成の時点で既存のものについてはそのまま海域等計画に位置づけられることとなるが、海域等計画作成後にこれらの区域を設定する場合には、本規定において調整のメカニズムを導入し、個別法に基づく運用に一定の縛りをかけることとする。すなわち、海域等計画の定められた海域等において、個別法に基づく区域を新たに設定、又は設定を許可等しようとする者は、主務大臣及び関係省庁の長に協議しなければならないものとする。また、主務大臣は、そのような協議を受けた場合、当該区域の設定に関し、海域等計画協議会における協議をし、海域等計画を改正しなければならないものとする。さらに、海域等計画を踏まえ、各省庁が個別法に基づく許可等を行う場合の権限行使に関する横断的なルールを設ける。すなわち、海域等計画の定められた海域等において行われる行為に係る許可等を行う者は、当該行為が、当該行為が行われる海域等の海域等計画に基づく当該海域等における総合的な開発、利用、保全等を阻害しないものであるかどうかを審査しなければならないものとし、そのために主務大臣の意見を聞 かなければならないものとする「横断条項」(参考:環境影響評価法第33条)を規定する。このように海域等計画に係る調整メカニズムを導入することにより、海域利用に係る規制的措置は(4)に述べる届出制度という最小限度のものとしても、総合的な開発、利用、保全等を推進することが可能となると考えられる。
■海域等計画協議会
排他的経済水域等における開発・利用行為と他の開発・利用行為との調整を図るとともに環境保全の調和を図るための調整の仕組みの一環として、計画の策定過程に様々な関係者を関与させるための海域等計画協議会(以下「協議会」という。)を設置する。協議会は、国の関係各地方行政機関及び関係都道府県協議を基本構成員とするが、当該海域等における開発、利用、保全等に関係する事業者、学識経験を有する者その他海域等計画の実施に密接な関係を有する者を参加させることができるものとする。海域等計画の作成に当たっては、協議会における協議を経て、関係行政機関の長と協議しなければならないものとする。
※ 海域の環境影響評価については、深海底機関が定める環境影響評価のガイドラインを参照して、必要であれば修正を施し、特定海域等の内外を問わず、環境影響評価が必要な探査・開発とそうでない規模の探査・開発とを区別することについて検討する必要がある。
国連海洋法条約に基づく権利の行使及び責務の履行のために不可欠な国内法の整備を行っていない部分のうち、海洋構築物等の設置に対する規制的措置として、許可制度を導入する。海洋構築物等については、2007年(平成19年)に「海洋構築物等に係る安全水域の設定に関する法律」が制定されたが、同法律では海洋構築物等の設置自体については規制されていない。海洋構築物等の設置等は、海域等における一定の部分を占用することによって、海域等計画に基づく総合的な開発、利用、保全等を阻害する恐れもあることから、許可制度により主務大臣が、海域等計画との整合性を確認する必要がある。ただし、海洋構築物等の設置を伴う行為のうち、個別法(鉱業法等)に基づく許可等の対象とされているものについては、上記の海域等計画に関する規定中の「横断条項」によって海域等計画との整合性を確認することが可能であるため、規制を必要最小限のものとする観点から、このような場合は本規定による許可の対象から除くこととする。
なお、上記2. の末尾にあるとおり、法律上新たに整備すべき内容を明らかにするため、便宜上、新たな法律を一括して制定することを前提としているが、本規定等については、一括法の中ではなく、個別法の改正又は制定等により対応することも考えられる。
現行の環境影響評価法では、大規模な公共事業等が対象となっているが、エネルギー・鉱物資源の開発は対象となっていない。そもそも同法は、陸域における事業を前提としたものであるが、海底・海中における開発行為等(エネルギー・鉱物資源の開発等)は、陸域で行われる事業に比べて環境への影響が広い範囲に、かつ陸域とは違った形で複雑に及ぶ可能性が高いため、鉱業法に基づく海洋エネルギー・鉱物資源の開発に係る環境影響評価について、環境影響評価法の改正により実施を義務付けることが必要である。その上で、本規定では、前述の特定海域等において、鉱業法に基づき当該特定海域等に全部又は一部の鉱区が含まれる鉱業権の設定を受けようとする者は、改正された環境影響評価法の定めるとことにより、当該鉱業権の設定に係る環境影響評価を行わなければならないものとする。なお、一定規模以上の洋上風力発電ファーム等海洋再生可能エネルギー利用に係る事業は現行環境影響評価法の対象となっているが、これら以外にも海洋の特殊性に鑑みて環境影響評価法の対象に追加すべき事業が今後具体化した場合には、同様に環境影響評価法又は本規定の改正により対応する必要がある。
■調査の推進等
我が国として排他的経済水域等の管理を適切に行うためには、まず、関係行政機関が連携して、海洋の中のそれぞれに特徴ある地形、自然環境、生物の生息状況、開発、利用等の状況など排他的経済水域等の状況について、計画的に科学的情報・データの収集を行う必要がある。
また、収集した情報について、一元的・一覧的に整理・管理(台帳化)し、これを必要とする関係者に提供することにより、有効活用を図ることが、海洋管理に取り組むための第一歩となる。そうした情報を集積する「海洋台帳」については、既に2012年に運用が開始されたところであるが、更なる充実と機能強化の取組が必要である。
■科学的調査の許可制度の創設等
現在、外国による海洋の科学的調査については、外国から申請があった場合には、外交上の問題として処理されている。しかしながら、排他的経済水域等における科学的調査においては、沿岸国と調査実施国とが調査の成果を共有し、ともに海洋に関する科学的知見の充実を図るというのが、国連海洋法条約の趣旨である。我が国としては、外国の調査により得られた情報・データについても適切に収集・管理し、排他的経済水域等の管理に有効に活用していく必要がある。このため、本法律においては、我が国の排他的経済水域等において、海洋における科学的情報の諸外国との共有、適切な管理を推進する観点から、国が科学的調査に関する規制を行うことなどを定める。なお、当該規制について、国連海洋法条約においては「許可」(authorize)という文言も使われているものの、一方では「通常の状況においては、同意を与える」とも規定されている(第260条第3項)ことから、規制の手法について許可制をとるべきかが問題となる。科学的調査については、国連海洋法条約上明確な定義が存在しない一方、第260条第3項の趣旨から、同意レジームの対象となる科学的調査としては「専ら平和的目的で、かつ、すべての人類の利益のために海洋環境に関する科学的知識を増進させる目的で実施する調査」に該当する場合とされているが、科学的調査の行為自体は探査等の他の目的で行う調査と外見上区別することは困難であるため、科学的調査の目的が上記の内容に合致するものかどうかを政府が審査する余地はあるものと考えられる。また、第246条第5項に規定する事由に該当する場合は裁量により同意を与えないことが出来るとされている点からも、届出制等ではなく許可制とすることが適当であると考えられる。なお、国連海洋法条約上、科学的調査に関する規定の対象は外国に限定されていないことから、本規定の対象は、「排他的経済水域等において科学的調査を行おうとする者」とする。ただし、我が国の国の機関が行う科学的調査については、許可を受けることを要しないものとする。