新型コロナウイルス対応関連情報 - 対談 No.1

対談『OPRIリレーメッセージ』

No.1「国際法から見るCOVID-19」

坂元茂樹氏(同志社大学教授)

新型コロナウイルス感染症の影響は世界に、日本に、そして海洋にどのような変化をもたらすのでしょうか。『OPRIリレーメッセージ』は、ポストコロナ時代を見据えて海洋の問題に造詣の深い専門家の方々にお話を聞くシリーズです。
今回は国際法学者で「Ocean Newsletter」編集代表の坂元茂樹氏にお話を伺います。
(聞き手:角南篤 笹川平和財団・海洋政策研究所所長)

*この対談は2020年5月20日にオンラインで行われたものです。

角南:今回の新型コロナウイルス感染症の影響を受け、社会や経済が大きく変化しつつあります。今後、どのような社会になるのか、不安を含めて何かが変わるという予感を多くの方が持っているように思います。ポストコロナ時代を見据え、海洋政策について専門家の方々と共に考えたいというのが、今回の趣旨です。第1回目は、国際法がご専門の坂元先生にお願いをさせて頂きました。今日はよろしくお願いします。
 もともと2020年は「海洋のスーパーイヤー」と呼ばれており、海洋に関する重要な会議が次々と開催される予定でしたが、その多くが延期や中止になっています。例えば、SDGs14(海洋と海洋資源の持続可能性)に関する課題を議論する国連海洋会議も今年6月に開催される予定で、海洋の持続可能な利用に向けた議論が進展することが期待されていましたが、延期になっていますね。

坂元:はい、2015年にSDGsが採択されたときは、国際社会には連携を進めていこうという機運がありました。しかしコロナ危機が映し出した世界は、WHOを巡る米中の対立など、国際連携とは逆方向のものです。
 私たちの研究対象の海は「One Ocean」であって、それぞれの国が連帯の精神を持って取り組む必要がある分野です。日本は海洋立国、科学立国としてポストコロナ時代にどう向き合っていくのか。そして今後の研究活動についても今日は話し合っていきたいと思います。


坂元茂樹氏(同志社大学教授)

<COVID-19と国際法>

角南:まず、今回のコロナ危機が投げかけたさまざまな問題について、先生のご専門である国際法の視点を伺いたいと思います。国際法の原点といえば、三十年戦争を機に生まれたウェストファリア条約(1648年)かと思います。それまでの「強いものが弱いものを支配する」という弱肉強食、ジャングルの法則が当たり前の国際社会に少しでも変化をもたらすかもしれないと思われた条約です。ですがコロナ危機を機に、新たな国際秩序の構築を巡り覇権国争いが顕著になってきたと思うのですが、このあたり、いかがでしょうか。

坂元:たしかにウェストファリア条約の時代は現代とは違います。三十年戦争はカトリック教国とプロテスタント教国の争いでしたから、この講和条約の結果、それぞれの国に宗教的少数者が生まれました。宗教の自由を守る条約としても広く知られていますが、それは人権としてではなく、国際関係の調整の結果として取り決められたのです。
 国内法は権力装置が見えません。一方で国際社会は分権化した社会であり、各国が主権を持ちつつも、国際法というひとつのルールを守らなければならない。国際法の遵守というのは、非常に根源的なものなのです。ウェストファリア条約以降、新たな国際規範が成立するときは、権力的背景が必要だったのです。
 現代は、国際会議でいかに多数派を形成するかが勝負です。海洋の世界を見ても、「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約を採択した1973年から1982年の第三次国連海洋法会議まで、中国はサイレントマジョリティでした。しかし、海洋強国を目指す中国は、自国に都合のいいルールを作りたいと考え、近年は、BBNJ(国家管轄権外区域における海洋生物多様性)などの議論にも積極的に参画していくことになります。

<ポストコロナの世界と日本-SDGsの更なる推進に向けて>

坂元:ポストコロナの世界では、国際社会における日本の立ち位置は非常に重要です。新型コロナウイルスへの対応を巡りアメリカとヨーロッパ、さらにアメリカと中国の間に分断が生じても、日本とヨーロッパ、日本と中国との関係が悪化したわけではありませんから。

角南:はい、日本がポストコロナの世界で重要な役割を担うことが期待されています。あまり報道されていないようですが、欧州委員会の呼びかけで始まった新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬開発のための国際的な取り組みに対して日本も積極的に支援することを表明しています。この混乱した状況においても、国際社会を結びつける役割を日本が担っていけると思っています。

坂元:一方で国内に目を向けると、最近では日本でも「コロナ差別」が問題になっています。残念ながら中止になってしまいましたが、今年4月に開催予定だった京都コングレス(第14回国連犯罪防止刑事司法会議)では「ハンセン病と人権」に関するサイドイベントや、ユースフォーラムを行う予定でした。ハンセン病への差別は、コロナ差別にも通じるものです。人権教育啓発推進センターでも「STOP! コロナ差別」というキャンペーンを行っており、ウェブサイトでも、新型コロナウイルスの蔓延に伴って生じる不当な差別・いじめをなくすべく、情報を発信しているところです。
 コロナ差別が世界的に広がりつつある今、国際社会の一員としては、SDGs(持続可能な開発目標)を再度見直すべきだと思います。SDGsは開発目標でありながら、「誰一人取り残さない」ことを目指しており、基本的人権を守る取組みでもあるのです。
 国際社会においても国内においても、コロナ危機は連帯、国際協力が試される試金石だと思いますね。この成果は半年後に見えてくるのではないかと思っています。

角南:こういう状況でこそ、海洋問題もグローバルアジェンダとして世界で協力して取り組みたいですね。せっかく準備を進めてきた国際会議が中止や延期になったのは残念ですが、最近はSDGs関連の国連の会議もオンラインで実施されるものもあり、最新の議論をフォローする動きはあります。SDGsの機運は引き続き高めていきたいですね。


角南篤(海洋政策研究所所長)

<サイエンスと意思決定>

坂元:コロナ危機においては、科学にも注目したいところです。ニューヨークのクオモ知事はデータに基づく意思決定を行いながら、うまく市民を鼓舞しています。海洋の世界も、2021年から開始される 「国連海洋科学の10年」 への準備が進んでいるところで、持続可能な海洋に向けた科学の貢献が大いに期待されています。また、科学的証拠に基づいて海洋問題の議論ができる政策決定者も求められています。

角南:星野俊也国連大使が 「STI for SDGs」の会議 に出席された際にもおっしゃっていましたが、科学技術イノベーションはSDGsを推進する重要なツールでもあります。サイエンスと政治の関わり方について考えるとき、海洋に関する最新の研究を政策に変換して提言するシンクタンクであるOPRIへの国際社会からの期待は高まっていると思います。
 コロナ危機は、新たな課題を発見し、新たな挑戦に取り組む機会かもしれません。日本が海洋立国として海洋の世界でもイニシアティブを取り、世界との連携を深めていくために、OPRIも新たな研究活動や情報発信を推進していきます。ぜひこれからも注目して頂きたいと思います。

<研究者の問題発見能力>

角南:最後に、先生から海洋政策研究所(OPRI)の海洋法を専門とする研究員へのメッセージをお願いします。

坂元:問題を発見する能力を伸ばしていけるといいと思いますね。OPRIの研究員は国内外で行われる海洋関係の国際会議に出席する機会が多く、大規模な会議ではサイドイベントなども行って研究内容を発信しています。だからこそ、いま何が問題になっているかを身近に感じられると思うのです。それは大学にこもっている研究者よりも問題発見がやりやすい環境にあるということです。研究の過程においては、問題発見を意識することがとても大事なのです。
 国際法は常に新しいサブジェクトを研究領域にしています。昨年、若い人たちと懇談しているときに「研究者として何が一番大事ですか?」と聞かれたので、「頼まれていない課題を見つけること、誰も気づいていない課題を整理すること、ではないか」と話しました。内発的な研究関心が大切なのです。それがないと研究活動はなかなか長続きしませんね。
 また、新しい課題に向き合ったとき、国際法体系のなかでどういう位置づけになるのかを考えてみてほしいですね。逆に、この問題は国際法体系にどう影響するか、ということについても考えられる研究者になってほしいと思います。
 OPRIで海洋政策を実現するということを考えたときにも、国際法的視点で説得性を持たせることが重要だと思います。国際法はスタティック(静的)でなくダイナミック(動的)。このダイナミズムを生み出しているのは何なのかを考えてほしいのです。だからこそ、国際法形成能力を持つことはとても重要なことです。研究員の皆さんには、常にアンビシャスであってほしいと思いますね。

(海洋政策研究所 情報発信課 石島知美)


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坂元茂樹氏:同志社大学教授。国際法学者。(公財)人権教育啓発推進センター理事長を務め、現在は「STOP! コロナ差別」のキャンペーンを推進中。笹川平和財団理事、OPRI発行「Ocean Newsletter」の編集代表も務める。


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