新型コロナウイルス対応関連情報 - 対談 No.3

対談『OPRIリレーメッセージ』

No.3「COVID-19とコミュニケーション」

高井研氏(海洋研究開発機構・超先鋭研究プログラムプログラム長)/瀧澤美奈子氏(科学ジャーナリスト)/
竹田有里氏(環境ジャーナリスト)

新型コロナウイルス感染症の影響は世界に、日本に、そして海洋にどのような変化をもたらすのでしょうか。『OPRIリレーメッセージ』は、ポストコロナ時代を見据えて海洋の問題に造詣の深い専門家の方々にお話を聞くシリーズです。
今回は海洋政策研究所が毎年発行している『海洋白書』編集会議委員の高井研さん、瀧澤美奈子さん、竹田有里さんに、科学、ジャーナリズム、メディアなど幅広い視点からお話を伺います。
(聞き手:角南篤 笹川平和財団・海洋政策研究所所長)

*この対談は2020年5月27日にオンラインで行われたものです。

角南:今回は『海洋白書』の編集会議委員をお願いしております、高井さん、瀧澤さん、竹田さんにお越し頂きました。おかげさまで先日、『海洋白書2020』を無事に発行し、好評を頂いております。今日は皆さんそれぞれの状況や知見を頂きながら、ポストコロナの世界について考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

<研究所、ジャーナリズム、マスメディアのいま>

角南:まずは皆さまの現状を伺いたいと思います。高井さん、海洋研究開発機構(JAMSTEC)では通常は海に出て活発な研究・調査活動を行っていると思いますが、テレワークは可能なんでしょうか? 瀧澤さん・竹田さんはジャーナリストとしていつも活発に活動されていますが、現在の状況はいかがですか?

高井:JAMSTECも現在は原則テレワークです。在宅では出来ない実験などもあり、研究者からは早く研究がしたいという声もあります。研究船も6月末までは動かさないことになっています。

瀧澤:私の方は対談企画、印刷物の発行などずれ込んできていますが、オンラインの企画を実施しています。先日、私が副会長を務める日本科学技術ジャーナリスト会議では、北海道大学の西浦博教授に実効再生産数(Rt)を使ったコロナウイルス感染症対策について聞く勉強会を行い、それをニコニコ動画で中継しました。数理モデルなどを使った難しい内容だったのですが、視聴者数は当日で1万人を超え、アンケート結果でも好評でした。
 これまで出版物に数多く関わってきましたが、しばらく営業自粛をしている書店もあり、出版業界は厳しい状況です。電子書籍が今後ますます伸びていくと思いますね。ただ、それ以前に活字離れの加速という問題もあって、そこも対応していかなければならないと実感しているところです。


瀧澤美奈子 氏(科学ジャーナリスト)

竹田:私も現在は基本テレワークです。取材や海外ロケなどの予定もあったのですが、行けなくなってしまって。でもオンラインでできる仕事も結構あります。日本記者クラブも会場での会見はなくなり、オンライン開催になりました。ラジオの仕事も在宅でも問題なくできています。
 映像メディアの状況に目を向けると、社会全体の消費マインドが落ちているので、テレビ番組はスポンサー獲得が厳しくなっており、それが番組のクオリティにも影響してしまいます。映像教材やPVなど、サブコンテンツ制作も同時に進めていかないとメディアの存続は難しいのかもしれません。

<あふれる情報のなかで、信頼できる情報をどう得るか>

角南:日本でも世界でも、さまざまなメディアを通じてコロナウイルス感染症関係の情報があふれています。毎日大量の情報が飛び交うなかで、フェイクニュースも見られました。私たちはどうやって信頼できる情報を選び取ればいいのか。皆さんのお考えはいかがでしょうか。

竹田:取材に行けないので、直に情報を取ってこられないというもどかしさはあります。やはり、現場で取材するからこそ得られる情報があります。情報を発信する側としては正確な情報を提供したいと思ってはいますが、受け取る側も情報の取捨選択が必要なのかもしれません。情報の洪水に溺れないための工夫も必要となります。

瀧澤:どうやって正しい情報を選択するかという問題については、私も重要視しています。そこで日本科学技術ジャーナリスト会議では、「COVID-19 科学ジャーナリストのための情報整理」のウェブサイトを立ち上げました。そこでは、米国スミソニアン協会の記事「COVID-19の誤情報の拡散を防ぐには」の翻訳なども紹介しています。情報を受ける側も、どこが情報源か、論文そのものがピアレビュー(査読)されていて信用できるものかどうか、といったフェイクニュースを見抜くための視点を紹介していますので、参考にして頂きたいと思います。

高井:科学情報の伝え方も重要だと思います。科学者はつい、科学的に正しいことこそが社会的にも正しいんだと思い込みがちです。でも社会との関わりを考えた場合、必ずしも正しいとは限りません。例えば、すべてのデータをつまびらかにするということは科学的には正しいことですが、今回の場合は、膨大なデータを一般の人が自分で分析するのは難しいという問題が生じます。コミュニケーションということを考えたとき、伝えたい情報を伝えるためには、あえて言わないことにする部分もあると思うんです。
 あふれる情報の洪水に溺れないためには、情報を集めすぎないこと。それから、自分が信頼できる人を選ぶこと。友達や家族のなかで、この人なら客観的に物事を見られる、と思える人を見つけるんです。昔なら村の長老の言葉にみんなが信頼を寄せていたと思いますけど、そういう感じでしょうか。家族に一人、理系が必要かもしれませんね(笑)。


高井 研 氏(海洋研究開発機構 超先鋭研究プログラム プログラム長)
(背景は、マリアナ海溝11000m海底でJAMSTECが撮影した映像)

<新型コロナ危機と環境問題>

角南:コロナ危機によって生活の維持が難しくなっている方々が多くいると思います。生活の維持が最優先というこの状況のもとで、どのように海洋や地球環境の問題を取り上げるのか、という葛藤があることも確かです。実際、コロナウイルス感染症に関する情報が世間を席巻しているなかで、海洋環境や気候変動などの長期的な問題にスポットライトが当たることはほとんどなくなりました。このようなアジェンダはコロナ危機で遠のくのか、それとも国際協力はコロナ危機を機に強まるのか。いかがでしょうか。

竹田:映像メディアでは、今は環境問題の番組は視聴率がなかなか取れないですね。経済状況の悪化でスポンサー獲得が厳しいなか、環境問題などコロナ以外の話題をオンエアしにくくなっているという状況は、正直ありますね。
 世界情勢を見ると、米・中・露などによる覇権争いは逆に激しくなっているようにも思えます。以前から潜在していた動きが、コロナ騒ぎの最中に加速した感じもします。コロナ危機を利用したこうした動きを見ていると、世界のアジェンダは複雑化していくのかもしれませんね。


竹田有里 氏(環境ジャーナリスト)

高井:新型コロナウイルスはあっという間に世界を席巻しました。エボラウイルスなどに比べればバイオセーフティーレベルも低いので、当初はあまり真剣に受け取られていなかったようですが*。現実に感染がこれほどのスピードで起きるということは、微生物学者としても驚きでした。ただ、こういった状況下において基礎科学は無力だとも痛感しています。海洋由来の微生物では、例えば今回よく耳にするPCR検査で利用されるDNAポリメラーゼ(注:遺伝子を増幅するPCR用酵素として利用されている)などは、鹿児島県小宝島の硫気孔から見つかった微生物から1997年に発見されたのですが、利用が始まったのはずいぶん後になりました。このように研究が社会の役に立つまでには長い時間がかかります。将来も見通して、腰を据えて海の研究に取り組むことが必要だと思います。
 海洋に関しては、海洋プラスチックごみ問題などが話題になっていますが、地球温暖化や海洋酸性化も大きな問題です。いま海洋プラスチックごみ問題に注目が集まるのは、解決の糸口が比較的見つけやすい問題だからという側面があると思うんです。地球温暖化などの問題は、人類への危機が迫っている問題であるにも関わらず、多くの人は普段の生活のなかで具体的な解決策を意識することができないですからね。

角南:コロナ危機のなか、自分たちのレジリエンスをどう高めるか、というテーマなら関心を持ってもらえるかもしれませんね。緊急時の船の利用可能性などについても引き続き考えていきたいですね。

<ニューノーマルへの展望>

角南:東京でも非常事態宣言が解除されたところですが、今後私たちの生活はどう変わっていくのでしょうか。皆さんの「ニューノーマル」のイメージについてお聞かせ頂ければと思います。私の場合は、大学で持っている講義もオンラインになり、大学の本当の価値について考え直しているところです。実験などを除けば、大学に行って講義を受けなければならない理由は何だろう、それが見いだせない限り、時間に縛られず受講できるオンライン講義を続けるしかないのかと。それに情報の発信源も大学である必要もなくて、JAMSTECが大学をやってもいいんじゃないかとも思ったりします。


角南篤(海洋政策研究所所長)

高井:そうですね、大学の存在意義が問われているようにも思います。オックスフォード大学やケンブリッジ大学のようなチュートリアル教育(1人の先生と少人数の学生が議論を行う)は意味があるかもしれませんが。オンライン講義でも、大人数が参加していると学生は発言しにくくなりますよね。ディスカッションしやすいチュートリアル教育にはオンラインが向いていると思います。

瀧澤:教育はクリエイティブなものだと思います。私は大学でサイエンスライター入門という講義を持っているのですが、社会全体のなかでの情報発信、誰に何を発信するかを考えてみてと学生に課すと、実践的な学びが深まっていくのがわかります。大学よりももっと早くから、例えば小学生くらいから、コンテンツ作りをやってもいいんじゃないかと思いますね。

竹田:OPRIの協力のもと、昨年「海中教室」という遠隔授業のプログラムが横浜で行われました。オンラインで受講できる教育コンテンツは、不登校の子どもたちやコミュニケーションが苦手な子でも参加できるので、教育の機会をより多くの子どもたちに提供できる可能性を感じました。また、大人でも学びたい人や、地方にいて東京で行われるセミナーなどに参加できない人など、多様な人々にとって今後ますます重要になっていくと思います。学べる場所って学校や塾だけじゃないんですよね。

角南:確かに、距離を超えて参加できるという意味でも、オンラインでのイベント開催は多様な人々をつなぐチャンスになり得ますね。OPRIでも今月から海洋フォーラムをオンラインで開催していますが、今まで会場に来ることができなかった遠隔地の皆さんにもご参加頂けるようになり、新たなつながりを生み出していると感じています。
 また、アフターコロナの世界での海や船の可能性も探っていきたいと思います。アメリカでは病院船の活用が大々的に報じられていましたが、高井さん、緊急時の船の利用について、日本でも可能性はあると思われますか?

高井:日本がコロナ危機に入ったきっかけは客船「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染でした。米海軍の空母「セオドア・ルーズベルト」でも同じように集団感染が発生しましたね。船というのは閉鎖空間で換気も良くないので、一旦感染症が発生すると止めにくくなります。
 JAMSTECでも研究航海のルールを検討しています。これからの研究航海では乗船前に隔離を伴うクリアランス期間を設けて、それをクリアした人だけが乗船する、というルールになっていきますね。 学術の世界でも、学会などが頻繁に海外で開催されていましたが、今回移動が制限されたことで、これまで必要以上に世界を移動していたんじゃないかと気づきました。私の周辺では、コロナ危機が収束した後もオンライン会議を活用していこうという動きがあります。新たな社会の規範ができつつあるということだと思います。
 船の利用可能性ということでは、船の特性を逆手にとることで、感染症の研究に貢献できるように思います。日本ではバイオセーフティーレベル4のウイルスを十分に管理して安全に利用できる研究環境は、必ずしも十分ではありません。周辺住民の不安もあると聞いています。このようなとき、船というのは隔離に向いている施設ではないかと思うのです。バイオセーフティーレベル4のウイルスを扱う研究施設として船を利用するというのも新しい考え方かもしれません。
 海は広いので、本来は「密」になりにくいところだと思うんです。船舶も、中小型船の船上は密閉性も低く快適です。外出自粛が呼びかけられているなかでビーチの混雑が問題視されていましたが、今後は、密にならないように注意しながら、マリンレジャーを楽しむことは可能ではないでしょうか。

角南:先日、ある会社が「あつまれ どうぶつの森」を使ってオンライン会議を行って、途中、気分転換に魚釣りをしたという話もありました。コロナ危機だからこそ、釣りなどの自然のなかでのほのぼのとしたレジャーに心のよりどころを求めてしまうところが、人にはあるのかもしれませんね。
 本日は幅広い話題について意見交換をいただきありがとうございました。来年に発行する『海洋白書2021』でも、コロナ危機を踏まえた発信ができればと考えておりますので御協力ください。


*: 新型コロナウイルスはバイオセーフティーレベル3(病原体)または2(感染疑い患者由来の臨床検体)の研究所で扱うことができるとされている(国立感染症研究所より)。なお、エボラウイルス、天然痘ウイルスなどはバイオセーフティーレベル4に指定された施設のみで扱うことができる。


(海洋政策研究所 情報発信課 石島知美)

ページトップ