Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第539号(2023.01.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆一口に海洋観測機器といっても、気球に取り付けて飛ばし、高層大気の気温・湿度・気圧などを測定し、測定値を無線で地上に送信するラジオゾンデ、ケーブルにつないで海中に投下し、海水の塩分、水温、圧力(深度)を測り、海水の特性や流れの解析などに用いるCTDセンサー、海底地形調査に用いられるマルチナロービーム音響測深機、さらには潜水調査船に搭載され、水中で、生物や岩石などの試料を水ごと吸い込んで採取するスラーブガン(吸引式深海生物採集機)など用途に応じたさまざまな機器がある。
◆渡健介(同)オフショアテクノロジーズ代表社員からは、海洋観測の自動化、海洋観測機器の小型化による海洋観測機器の普及を目指すベンチャー企業立ち上げの狙いについてご寄稿いただいた。地球環境変動研究のための海洋観測の重要性が増す中で、たくさんの人手とコストがかかる観測の自動化を推進する必要があるとの認識の下、研究者との対話の中で技術開発を進めるこのベンチャー企業の将来に期待したい。
◆小森雄太(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員からは、岸田文雄内閣が推進する経済安全保障政策の中での新たな海洋政策の在り方について論じてもらった。海洋ガバナンスの構築のためには、開発、安全保障、環境はトリレンマの関係性をもつという。海洋における持続可能な経済である「ブルーエコノミー」や気候変動に伴う災害の激甚化という「気候安全保障」など新たなテーマにどう向き合うかという課題が浮き彫りになる現状を説明する。
◆大塚耕司大阪公立大学大学院現代システム科学研究科教授からは、2022年4月1日に大阪市立大学と大阪府立大学が統合して生まれた大阪公立大学の海洋に関する研究体制についてご説明いただいた。同大学では、水中ロボットや海洋環境計測機器開発に携わる海洋システム工学分野、都市流域圏生態系機構解明にあたる都市学分野、海産バイオマス有効利用システムなどの環境共生科学分野などの教授8名、准教授8名から成る海洋関連の研究体制があるという。大塚教授が指摘するように、海洋の教育研究は、SDG13(気候変動)やSDG14(海の豊かさ)だけでなく、SDG2(食糧資源)、SDG4(教育)、SDG6(水資源)、SDG7(再生可能エネルギー)など多くのゴールに密接に関わっており、大学全体のSDGsへの貢献に対して重要な役割の担う存在である。2027年に整備される新しい実験施設を活用した、ますますの研究の発展を望みたい。(坂元茂樹)

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