Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第516号(2022.02.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆今年は、海洋基本法が2007(平成19)年7月20日の「海の日」に施行されてから15年目となる。そして、海洋政策の実現に向けて5年毎に策定される海洋基本計画の第4期の策定が来年、2023(令和5)年に迫っている。その策定に向け、昨今のSDGsの普及やカーボンニュートラルなどの理念を踏まえ、海洋政策、海洋産業、海洋科学、海洋リテラシーの進展と法整備を盛り込んだ提言の発出やシンポジウムなどの年となる。その年初めに、トンガの海底火山が巨大噴火し、空振などによる海面変動が津波となって押し寄せた。現地の情報は海底ケーブルの破断もあり途絶えていた。気象庁が扱う初めての現象であり、突然の津波警報に戸惑った方も多かったろう。海洋自然災害に対する危機管理が海洋基本計画に盛り込まれることが期待される。
◆海況予測の精度向上には、海洋観測、衛星観測、計算技術などの進展だけでなく、産官学のデータ利用体制の整備、さらに予測を利用する社会体制も大事である。小笠原諸島の福徳岡ノ場の海底火山の噴火による軽石の漂着予測が記憶に新しい。2021年8月13日に噴火し、沖縄、伊豆諸島周辺、さらには日本海沿岸に至る可能性が示された。軽石漂着を見事に予測したJAMSTEC付加価値情報創成部門アプリケーションラボの美山透主任研究員より、その現場と予測の今後についてご寄稿いただいた。予測技術は進歩しており、より早く被害を防ぐ社会システムの整備が急がれる。是非ご一読ください。
◆NPO法人気候ネットワークの平田仁子理事より2021年8月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第1作業部会報告書の要点を、2019年9月にIPCCから発表された『海洋・雪氷圏特別報告書』も含めて丁寧にご説明いただいた。これらの報告が示す気温上昇の危機を乗り越える鍵は、日本の場合、エネルギーの9割にもなる化石燃料の使用からの脱却であり、本気で挑戦しなければならないと平田氏は呼び掛ける。
◆離島の保健師は、住民の健康状態だけでなく、健康に影響する生活習慣や保健行動を特定し、その理由も分析する。さらに文化、産業などを含めた島内の環境も生活も、隅々まで把握するという。たいへんな仕事だと思うのだが、それらが離島ならではの保健師活動の魅力であることを、自治医科大学看護学部講師、NPO法人へき地保健師協会理事長の青木さぎ里氏より教えていただいた。保健師不足の問題はあるが、解消への活動も多々なされている。離島に居住して働くゆえの困難さも含めて、やり甲斐に満ちた仕事であることは間違いない。(窪川かおる)

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