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オーシャンニューズレター

第511号(2021.11.20発行)

世界自然遺産奄美トレイル

[KEYWORDS]奄美群島/長距離自然歩道/地域の魅力
鹿児島県環境林務部自然保護課奄美世界自然遺産登録推進室参事付◆岩本千鶴

2021年7月、ついに世界自然遺産に登録された奄美大島と徳之島。その2島が属する奄美群島には、8つの有人島の自然や文化を歩いてじっくり楽しむことができる「世界自然遺産奄美トレイル」という長距離自然歩道がある。
奄美トレイルは、持続的な観光を計画的に進めながら、自然環境の保全、環境文化の保全と継承、地域活性化を目指している。

世界自然遺産への登録

2021年7月26日、第44回世界遺産委員会において、南西諸島に属する4地域の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産への登録が決定されました。世界自然遺産を目指すことが決まってから約18年、多くの方々の努力と思いがようやく実りました。
登録に値すると評価された点は、世界でもここにしかいない生きものをはじめとする多種多様な動植物が生育・生息していることです。南西諸島は、亜熱帯気候に属し、地殻変動や気候変動等によってユーラシア大陸と分離・結合を繰り返し、今の形になりました。また、暖流である黒潮と、夏は太平洋から、冬は大陸から海を渡って吹いてくる季節風によって、年間を通じて温暖で雨が豊富です。このような条件のもとで、各島では大陸や他の島から切り離された動植物が独自に進化するなどして、ユニークな生態系ができ上がりました。なかでも特に生物多様性が高い4地域が世界自然遺産に登録されましたが、他の島々も素晴らしいことに変わりはありません。
世界自然遺産への登録は、この貴重な自然環境を維持し、たくさんの人にその素晴らしさを知ってもらい、そして後世に継承していくためのものです。世界自然遺産に登録された後も自然環境を維持することが重要であり、その上で鍵となるのが、「保全と利用の両立」です。奄美大島と徳之島がある鹿児島県では、外来種対策や希少種の保護等に取り組むとともに、2015年度に「奄美群島持続的観光マスタープラン」を策定し、持続的な観光を計画的に進めながら、自然環境の保全、環境文化の保全と継承、地域活性化を目指してきました。このマスタープランの取り組みのひとつに「世界自然遺産奄美トレイル(以下、奄美トレイル)」があります。

世界自然遺産奄美トレイルのエリア

地元の魅力が詰まった奄美トレイル

トレイルマップ

奄美大島と徳之島が含まれる奄美群島には、この2島に加えて、デイゴ並木が美しい加計呂麻島、珍しい昆虫や植物が息づく請島、昔ながらのサンゴの石垣が残る与路島、世界有数のスピードで隆起しているサンゴ礁の島喜界島、花と鍾乳洞が特徴的な沖永良部島、白い砂浜とヨロンブルーの海が美しい与論島の計8つの有人島があります。奄美トレイルは、これらの有人島を結ぶ長距離自然歩道であり、地元の方や訪れる方が奄美群島の自然や文化に親しめること、奄美大島と徳之島が世界自然遺産に登録された効果を奄美群島全体に波及させ、島と島の結びつきをより強くすることを目的に作られました。
奄美トレイルは、有人島8島を14エリアに分け、各エリアに3~6コースを設定しています。このコースを設定するにあたって、集会所や公民館等に地元の市町村役場や地域おこし協力隊、住民のみなさんに集まっていただきました。また、トレイルに詳しい方に講師として来ていただき、みんなでアイデアを出し合いました。美しい海を見渡せる道、巨木を見上げながら歩く道、昔の文化を感じることができる道など、様々な地元の見どころや心地よい道を挙げていきました。さらに、近くに公衆トイレや休憩所があるか、歩くのに危険はないかなど利便性や安全性も踏まえながら、コースの案を作りました。コース案の一部については、実際にみんなで歩いてみて、また意見を出し合いながら、コースを完成させました。
コース確定後は、エリアごとにコース上の見どころ、休憩や給水等ができる施設・お店の紹介、歩く時の注意事項などを掲載したトレイルマップを制作したり、コース上に案内板を設置したりするなどしました。マップのデザインは、各エリアに縁のあるイラストレーターによるもので、マップによってデザインが異なります。
こうして準備が整ったエリアから、順にコースを開通していきました。2016年度から始まったコース選定は、2019年度に14エリア全てで終了し、2021年1月に全線が開通しました(14エリア、51コース、総延長約550km)。
全線開通を祝して、コース選定の際に講師として来ていただいた野元尚巳氏(かごしまカヤックス代表)がトレイルモニターとして、約6週間をかけて全線を踏破されました。その様子は、Facebook「世界自然遺産奄美トレイル」にてご覧いただけます※1

歩いてみて感じるもの、見えるもの

与論島エリアの大金久海岸。与論島の3つのコースは海岸線を中心に選定されました(総延長24.3km)。ヨロンブルーの澄んだ海と白い砂浜に心も身体も癒やされます。

奄美群島の自然環境や文化には、本土や他の島と似ているところもあれば、ユニークなところもあります。一言ではすべてを言い表せない各エリアの魅力が、奄美トレイルのコースのあちこちにちりばめられています。
海や森を眺めながら、生きものの気配を感じながら、歴史や文化、伝説に思いをはせながら、各コースを歩くことで、車やバスからは味わえないものを感じたり、これまで知らなかった景色が見えたりするかもしれません。また、そのエリアの自然や文化だけでなく、道中に出会う人との何気ない会話や交流も奄美トレイルを歩くことの魅力です。
奄美トレイルのコースの中には、山の中を通るコースもあります。特にそのようなコースは、地元のエコツアーガイドと歩くことをお勧めしています。エコツアーガイドの解説を聞きながら歩くことで、そのエリアやコースの魅力をより深く知ることができるでしょう。
現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、思うように移動や旅行ができない日々が続いています。離島である奄美群島は、医療体制が十分ではないため、感染拡大は深刻な問題です。すぐには難しいかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が落ち着いたら、ぜひ奄美群島を訪れ、奄美トレイルを歩いてみてください。
奄美トレイルに関する情報はFacebookの他、鹿児島県ホームページ※2でも紹介しています。(了)

  1. ※1Facebook世界自然遺産奄美トレイル https://www.facebook.com/amamitrail.kagoshima/
  2. ※2鹿児島県ホームページ https://www.pref.kagoshima.jp/ad04/kurashi-kankyo/kankyo/amami/amami-trail.html

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