Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第503号(2021.07.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆「海の日記念号」にふさわしい論稿が集まった。2021年1月1日に開始された「国連海洋科学の10年」は、ユネスコ政府間海洋学委員会の主導の下、人類が海と共に生きる豊かな社会の実現を目指すものである。日本は、いち早く国内委員会を立ち上げ、5月17日に第1回会議を開催した。その直前の 3月、人類の共有資源である海を持続可能な仕方で利用していくために必要な考え方をまとめた(公社)日本工学アカデミーの「海洋テロワール」提言がまとめられた。
◆藤井輝夫東京大学総長より、同提言の理念に基づく海の将来像である「豊穣の海」についてご説明いただいた。ワイン好きにはなじみの「土地の個性」を示す「テロワール」という用語は、自然と文化、社会を統合し、そこに価値を認める理念でもある。「自然から収奪しないシステム」など「海洋テロワール」を実現するための技術開発における4つの考え方については本誌に譲るとして、提言の実現に向けて社会一般の共感的理解を得ることが不可欠という指摘は、「国連海洋科学の 10年」にも通じる重要な指摘である。ぜひご一読を。
◆(一財)次世代環境船舶開発センター理事長の大和裕幸東京大学名誉教授より、喫緊の課題である国際海運の温室効果ガスの排出削減につき、ゼロエミッション国際海運に対応するわが国造船業への提言をご寄稿いただいた。重油を燃料とするディーゼル機関からはCO₂が大量に排出されるので、機関と利用燃料の転換がその中心課題であるという。CO₂を排出しない水素燃料やアンモニア燃料にするのか、内燃機関から燃料電池に転換するのかといった技術オプションがあるが、船舶の設計はそれらが決まれば可能という。同時に、運賃高騰に伴う新たなファイナンス制度の必要性とともに、造船業界がゼロエミッション化に向けたロードマップを示し、国際海運のステークホルダー・バリュー・ネットワークを構築する必要があるとの提言はまさに傾聴に値する。
◆NPO法人TEAM旦波の小山元孝氏から、われわれがよく知る浦島太郎や山椒大夫の説話は、古代や中世の丹後の人々と海との関係が背景にあること、京丹後市にある九品寺や広通寺、天橋立にある智恩寺のご本尊が漂着した神仏であることを教えていただいた。また、同地域の海辺で行われている水無月神社の海の祭礼や東一族による岩の祭礼が浅茂川や竹野川の「川裾」で行われるので「かわっそさん」、「かわそそ」に転訛したという丹後の海と神仏の関係にはロマンがそそられる。(坂元茂樹)

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