Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第500号(2021.06.05発行)

『国連海洋科学の10年』日本国内委員会発足に寄せて

[KEYWORDS]海洋科学/社会目標と挑戦課題/海洋の管理
ユネスコ政府間海洋学委員会事務局長◆Vladimir RYABININ

日本における『国連海洋科学10年』のキックオフとなる、シンポジウム「国連海洋科学の10年スタート−「Co-design」に向けて」が2021年2月25日に開催された。
本稿は、シンポジウム開催にあたりウラジーミル・リャビニン ユネスコIOC事務局長より寄せられたビデオメッセージの日本語訳である。

『国連海洋科学の10年』開始

日本で『国連海洋科学の10年』(UN Decade of Ocean Science for Sustainable Development)※1の国内委員会が動き出したこと、そして日本における『国連海洋科学10年』のキックオフとなる、シンポジウム「国連海洋科学の10年スタート−「Co-design」に向けて」が2021年2月25日に開催されることを、心よりお祝いします※2
私たちは現在、海洋科学や海洋の持続可能性の問題において、非常に重要な変化に直面しています。2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、世界中がより良い生活をめざすための国連プログラムです。それを踏まえ2016年の「世界海洋評価」(WOA)※3は、海洋の健全性が低下しており、持続可能な海洋の管理に取り組むために私たちに残された時間は少ないのだという、非常に重要なメッセージを世界に発信しました。「海洋の管理」には、科学の力を駆使する必要があります。しかし、これまでの科学研究では、適応・緩和の観点で気候変動に対処するための沿岸域の海洋管理法が、まだ見出せていません。
海洋には、私たちが取り組むべき課題がたくさんあります。この課題に立ち向かう科学研究の成果があれば、海洋を持続的に利用し、保全することが可能です。そこで、ユネスコ政府間海洋学委員会(ユネスコIOC)は、『国連海洋科学の10年』を提案し、皆さんと一緒に取り組み始めました。『国連海洋科学の10年』の計画策定管理者委員会に多大な貢献をしてくださった日本の科学者、植松光夫・東京大学名誉教授に感謝を表します。
『国連海洋科学の10年』の実行計画のために、何千人もの人々、何百もの組織が参加し、何十回もの会議を重ねて参りました。包括的なプロセスにより策定された計画は、ユネスコIOCから国連総会に提出され、2020年の大みそかの日に受理されました。そして、2021年1月1日から国連海洋科学の10年間が始まることが宣言されました。
『国連海洋科学の10年』は、もう始まっているのです。

『10年』が取り組む課題

この『国連海洋科学の10年』の計画は、絶えず更新されるものであると思います。この『10年』で、海洋、そして人間に新たな質的価値を与えたいと考えています。「きれいな海」「健全で回復力のある海」等からなる7つの社会目標は、「私たちの望む海」の姿であり、まさに私たち人類の課題なのです。
この『10年』で、私たちは10の挑戦課題に取り組みます。それは10の領域にまたがります。まず初めに、海洋汚染の減少を目指します。それにより、海洋生態系を健全にします。海の生態系が健康になれば、より多くの海の恵み、食料資源を得ることができます。そして海洋経済を発展させることで、海からより多くの利益を生み出すことができます。これらすべては、海洋酸性化や、日本を脅かしている強烈な台風、海面上昇といった、気候変動がもたらす変化の下で行うことになります。私たちが達成しなければならないパリ協定の国際交渉において、海洋経済は注力すべき領域です。そして、災害にも対処しなければなりません。日本であれば当然、津波も忘れてはなりません。これらの問題に対処するには、海洋観測システムを開発し、過去・現在・未来、そして私たちの意思決定の「結果」としての海洋の状況を知るためのデータを整備する必要があります。それによってはじめて、新たな海洋科学の発展が可能だと思います。

ウラジーミル・リャビニン ユネスコIOC事務局長

(左)7つの社会目標と(右)10の挑戦課題
(Brand guidelines および“ The Science We need for the Ocean We Want”
https://www.oceandecade.org/assets/The_Science_We_Need_For_The_Ocean_We_Want.pdf)より)

『10年』における日本と世界への期待

海洋の課題に取り組むことが難しい国も、誰一人取り残してはなりません。新しい技術的なデータだけでなく、倫理的な面も重要です。人間と海との関係性を変え、そして人間の行動を変えるのです。私たちは、昨年10月15日に最初の「行動の呼びかけ(Call for Action)」を行いましたところ、200以上の提案がありました。
過去には「世界海洋循環実験(WOCE)」や「熱帯海洋・全球大気研究計画(TOGA)」、「海洋生物センサス」といった素晴らしいプロジェクトやプログラムが行われました。次の10年には、これらに匹敵するような素晴らしいプロジェクトをいくつも実現して、海洋学の様相を変えなければならないと思います。その中では、基礎的な知見を発展させることも重要ですが、得られた知識を海洋問題の解決に応用することも重要です。そして、これらの知見や応用の考えを新しいアイデアでまとめて、今こそ海洋の管理を始めるべきです。
これは日本が参加している「持続可能な海洋経済に関するハイレベルパネル」で得られた合意内容でもあります。ハイレベルパネルには現在14カ国しか参加していませんが、2025年までに排他的経済水域の持続可能な管理を開始するという非常に重要な宣言です。こうした取り組みを心から賞賛するとともに、他の国々にも、科学的根拠に基づいて実践するよう呼びかけたいと思います。そうすることで、「残り時間がわずかである」というWOAの結論を覆せると思います。
世界中で、問題の進展に追いつき、解決に向けて努力しています。将来には、科学に基づいた持続可能な海洋管理を行うことができるようになるでしょう。
日本の科学力の高さを活かせば、この10年間で問題へのアプローチを大きく変え、リソースを提供し、持続可能な海洋管理に向けて、海と共生しつつ、世界をより良くすることができるものと信じています。(了)

  1. ※1Ocean Newsletter 第455ならびに476号参照
  2. ※2開催にあたってのビデオメッセージを収録。開催報告は、https://www.spf.org/opri/news/20210304.html 参照
  3. ※3https://www.un.org/regularprocess/content/first-world-ocean-assessment

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