Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第498号(2021.05.05発行)

東海大学海洋学部で行われている海洋実践教育

[KEYWORDS]人材育成/海の総合教育/実践教育
東海大学静岡キャンパス長・学長補佐◆山田吉彦

東海大学海洋学部は1962年に創設され、以来、海洋実践教育に重きを置き、58年にわたって海洋に関わる幅広い分野の人材育成に携わってきた。
専門分野に細分化されていた海洋教育も、各領域間との連携・連動が不可欠となっており、本学部ではこれまで実践してきた「海の総合教育」をさらに進化させ、海洋国家を支える人材を育成し続けることを目指している。

日本唯一「海洋学部」の創設

東海大学海洋学部の創設は、1962(昭和37)年である。この頃の海洋に関わる国際社会では、1958年に第一次国連海洋法会議が開催され、領海条約、大陸棚条約、公海条約、公海生物資源保存条約のいわゆるジュネーブ海洋法4条約が採択され、海洋開発、海洋秩序の構築に向けて世界が動き出していた。
当時のわが国は、戦後の混乱から脱却し、再び国力を開花させ始めた。しかし、海洋の分野では、1962年10月、日本船舶振興会が創設され、ようやく造船業の振興を始めとした海事社会の発展に手を付け始めた時期であった。国内の高等教育機関としては、船員養成系、水産系の大学はあるものの、海洋科学、工学、資源開発などを総合的に教える教育機関は存在していなかった。そこで、東海大学では、創設者である松前重義博士の主導により「海洋学部」を設立し海洋に関わる総合的な人材育成に着手したのである。松前博士は海洋の有効利用、適切な管理こそが、日本の平和と繁栄をもたらすとして、未来を見据えた考えの下、海洋学部は創設された。

総合海洋学を学ぶ環境

海洋学部※1のキャンパスは、静岡県静岡市清水区にあり、世界遺産である三保松原に隣接している。校舎からは青く輝く駿河湾と富士山を望み、わが国の海洋教育に適した場所に置かれている。6学科4専攻に分かれた多様な分野の教育が行われ、約2,200人の学生が学ぶ。2002年、文部科学省から学士「海洋学」が認められ、2003年入学生から海洋学部卒業時に学士「海洋学」が授与されている。創設時は理系教育を中心に行ってきたが、近年は海洋世界の国際性、多様性に対応し、社会科学系の教員の充実を図っている。海洋社会科学を教える教員により、海洋科学を補完する法、経済、政策、文化、国際関係など複眼的な海洋教育を推進する体制を整えている。
2004年、海洋学部に海洋文明学科を新設し、他大学に先んじて海洋に関係する文系教育を取り入れた。開設当初の海洋文明学科は、文化人類学、海洋史、マリンスポーツを中心に授業を構成し、「海」に興味を抱く学生に対し、海事思想を持った教育を推進した。また、2006年以降、社会科学分野にも力を入れ、離島や沿岸部の地域経済や国際的な海洋問題について学ぶ環境を整えた。現在は水中考古学教育にも力を入れている。3人の考古学教員がチームを組み、さらに文化人類学やダイビング、年代測定等の物理学と結び付けた多角的な水中考古学教育に取り組んでいる。

実践重視の教育

望星丸旋回 学生、小笠原でのフィールドワーク

海洋学部の教育の特徴は、実践に重きを置くことにある。
特に調査訓練船「望星丸」(2,174国際総トン)を使った独自の乗船教育を行っている。望星丸は、訓練船であり、かつ調査船で、国際航行する客船でもある。かつては、世界周航も経験している。海洋学部に所属するすべての学生は、望星丸に乗船しての海洋実習が必修である。1年生は、1泊2日で駿河湾にて乗船体験とともに海洋調査の基礎を学ぶ。2年生は、2泊3日で海洋調査を実践し、海洋に関する基礎知識を体験にて学ぶ。3年生は、1週間、船上生活を送るとともに、海上調査を行い専門研究の礎を築く。携帯電話もSNSも通じない大海原で集団生活を送ることは、学生にとって刺激的な教育になっているようだ。東海大学の所有する調査船は、国策的な海洋調査にも携わっている。1969年東シナ海尖閣諸島沖における海底資源調査、1986年太平洋上のコバルト海底鉱床の調査などが知られる。また、望星丸を使って発見された新種の魚類も多く存在する。
1970年には、学部の付属機関として「東海大学海洋科学博物館」(水族館)※2を開設し、水産分野、海洋生物分野の教育に活かすとともに、一般の方々への海事思想の普及に努めてきた。この水族館で実習を行った海洋学部の卒業生は、日本全国の水族館に学芸員として勤務し、現在も約200人が活躍している。海洋科学博物館では、開設以来、市民向けの教育普及活動に取り組んでいる。小中学校の教員を対象に海洋教育を共に学ぶ「海のワークショップ」を開催するなど、東海大学ならではの実体験学習を行っている。また、日本財団の「海と日本プロジェクト」の一環として乗船体験や水産体験を実施し、地元紙で紹介されるなど市民から好評を得ている。
2004年、日本財団が主催した「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」※3には、分野を超えた多くの著名な研究者が参加していたが、実際に海中での調査活動やデータの取得を行っていた調査員の多くが、東海大学海洋学部の出身者であることに驚いた。最先端技術開発や国際的な海洋調査が注目される中、東海大学の教育は、海洋分野の「現場」を支える研究者、技術者を育成する裏方であると自負している。
東海大学海洋学部は、令和2年度海洋立国推進功労者表彰を受ける名誉を与えていただいた。本学部は58年間、海洋に関わる幅広い分野の人材の育成に携わってきた。卒業生約3万5千人を輩出し、その多くが海洋産業界の中枢で働いていることを評価していただけたのだと思う。2018(平成30)年に策定された第3期海洋基本計画では、「新たな海洋立国への挑戦」をうたい、政策の方向性として「海を身近に。海を支える人を育てる」ことを掲げている。多様化した社会では、これまでは、専門分野の研究が重視され、細分化されていた海洋教育も、各領域間で連携、連動することが不可欠となっている。水産と海洋資源、環境と開発は、一体化して研究・教育することが求められている。理系教育のみならず、海洋文化、海洋社会を伝え、考える文系の海洋教育も重要である。東海大学海洋学部では、これまで実践してきた「海の総合教育」をさらに進化させ、海洋国家を支える人材を育成し続けることを使命と考えている。(了)

  1. ※1東海大学海洋学部 http://sdb01.scc.u-tokai.ac.jp/
  2. ※2伊藤芳英著「博学連携による海洋教育プログラム」第470号(2020.3.5発行)参照 https://www.spf.org/opri/newsletter/470_3.html
  3. ※3「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」報告 https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00004/mokuji.htm

第498号(2021.05.05発行)のその他の記事

ページトップ