Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第479号(2020.07.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆本号は、「海の日」記念号である。グテーレス国連事務総長は、世界海洋デー(6月8日)にあたって、各国に「持続可能な海を目指すイノベーション」を呼びかけた。各国の行動のための共通の枠組みになるのが、2021年から始まる「国連持続可能な開発のための海洋科学の10年」である。プラスチック汚染は海洋のあらゆる場所に拡がっているが、人類が漁業資源を守り、海洋環境を保全するためには、海をよりよく理解することが不可欠であるからだ。本号には、海洋環境の保全と持続可能な海を達成するために何が必要かを考えさせる論稿が集まった。
◆角南 篤(公財)笹川平和財団理事長からは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの危機を乗り越えるために、海洋経済の持続可能な回復を目指す「ブルー・リカバリー」についてご寄稿いただいた。経済回復と海洋環境の保全を二律背反とするのではなく、健全な海洋を保つ上で持続可能な経済に移行し、生物多様性や気候変動リスクに打ち克つ強靭な経済をつくろうとの試みに注目したい。国際協調の重要性を再確認し、科学技術イノベーションにおける日本の先導的役割を期待する提言は傾聴に値する。
◆遠隔地から送信される指令や自律機能によって自動的に航行する自動運航船に対する関心が高まっている。清水悦郎東京海洋大学学術研究院教授からは、わが国の自動運航船開発の現状をご説明いただいた。自動運航船のシステム構成は、自動船、管制室、通信システムの3つのシステムから成立し、現在、各社により自動運航を可能にするためのさまざまな実証実験が行われているとのこと。その中で見えてきた課題には、技術面のみでなく法制度面への対応もあるとのご指摘に蒙を啓かれた。
◆20年にわたり海洋ゴミ問題に取り組んできた(公財)環日本海環境協力センターの吉田尚郁主任研究員に海洋プラスチックごみの解決に向けてご提言いただいた。同センターの調査で、海岸漂着物の9割がプラスチックであることは認識されていたが、国際社会の対応は、気候変動に比べ大きく遅れ、海洋プラスチックごみ問題が取り上げられたのは2015年G7エルマウ・サミットの共同声明だったとのこと。ただ、両者とも解決策は排出量を削減するという点では共通しており、ステークホルダーにゼロエミッションやゼロウェイストの考え方を浸透させれば、海洋プラスチックごみ問題の解決の道筋を創り出すことができるとの指摘に注目したい。(坂元茂樹)

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