Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第475号(2020.05.20発行)

FAOの持続可能な水産業への取り組み

[KEYWORDS]リオ+20フォローアップ/水産資源の持続可能な管理/未利用資源の活用
国際連合食糧農業機関(FAO)上級水産専門官◆渡辺浩幹

FAOの「ブルー・グロース・イニシアティブ(Blue Growth Initiative (BGI))は、食料安全保障と貧困撲滅、そして、水産資源の持続可能な管理を推し進めるため、「責任ある漁業のための行動規範」に基づき、特に漁業・養殖分野に焦点を当てた行動計画である。また、そこで提唱されたブルーファッションは、魚の皮など、これまであまり利用されていなかった水産資源を活用し、漁業・養殖生産物の付加価値向上を図り、沿岸共同体に新たな収入源を生み出すBGIの取り組みの一つである。

ブルー・グロース・イニシアティブ(BGI)

「ブルー・グロース・イニシアティブ(Blue Growth Initiative(BGI))」は、2012年にブラジルで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」をフォローアップしつつ、食料安全保障と貧困撲滅、そして、水産資源の持続可能な管理を推し進めていくための方策として提案されました※1
「Blue Growth(BG)」という概念は、リオ+20で提唱された「Blue Economy(BE)」というコンセプトに端を発しています。BEは、健全な海洋環境はより生産的かつ持続的な海洋依存経済活動を確保するための前提であるという考えに基づき、海洋の保全と持続的な管理を強調した概念でした。これに対して、BGは、とくに「Growth (成長)」という概念に焦点を当て、海洋や沿岸域などにおける経済活動によってもたらされる持続的成長と開発を意味し、それは、環境の劣化、生物多様性の損失および非持続的な水産生物資源の利用を最小化し、かつ、経済的および社会的利益を最大化するものであるとされています※2
BGIは、このようなBGの概念を、「責任ある漁業のための行動規範」※3に基づき、特に漁業・養殖分野に焦点を当ててFAOとして実現していくための行動計画で、次の4つの柱があります。
・漁業:違法・無報告・無規制(IUU)漁業対策、過剰漁獲能力の削減、資源の回復および漁業による環境への悪影響の最小化等のために、適切な漁業管理を実施する制度的、科学的および法的枠組み整備へ向けた政策的および技術的な能力開発のための支援を各国政府、各地域漁業機関および業界に対し提供する。
・養殖業:各国政府や養殖業者に対し、養殖開発計画の策定や養殖管理の模範例の普及などを行い、養殖生産の向上、ならびに、環境への悪影響および病害の減少を図り、養殖分野へのさらなる投資を促進する。
・経済社会的側面:漁業・養殖生産物の付加価値向上や貿易促進、食料安全保障、漁業者の社会的地位の向上等の経済社会的側面に関する政策策定のために各国政府や業界団体を支援する。より持続的な漁業管理を実現しつつ、さらなる付加価値向上や品質向上のための基盤整備や技術開発への投資を促進するために、政府と業界の協力関係の構築を支援する。
・生態系保全:藻場造成による二酸化炭素の固定、マングローブ林造成による沿岸域流失防止や嵐や波による被害軽減、漁業と農業の融合(例えば、稲作と淡水魚養殖)、海藻養殖促進等の国家レベル、あるいは、地域レベルの研究実施や技術普及の技術的支援を行う。それにより、沿岸共同体に新たな収入源を生み出し、貧困撲滅と社会的条件の強化につなげることができる。

付加価値をつける取り組みのブルーファッション

第33回FAO水産委員会の会期中に行われたサイドイベントで配布された文書の表紙:この女性の上着と鞄は鮭の皮で作られている。

BGIの取り組みの1つとして、ブルーファッションをご紹介いたします。ブルーファッションとは、魚の皮など、これまであまり利用されていなかった水産資源を活用し、漁業・養殖生産物の付加価値向上を図り、沿岸共同体に新たな収入源を生み出す取り組みといえるでしょう。
2018年7月に行われた第33回FAO水産委員会(COFI)の場では、サイドイベントの一環として、鮭の皮などを用いた洋服や鞄などを使ったファッションショーが行われました。同サイドイベントのために配られた資料によれば、魚の皮は、薄く、柔軟で、かつ、強く、用途が広いとされています。しかも、魚の皮は、水産業の副産物であり、使われなければ通常は廃棄されてしまうか、魚粉などのより経済的価値の低いものに利用されてしまうものです。約1トンの魚の皮から約80キロの皮革を作ることができます。北大西洋の魚の皮が皮革として利用できれば、その経済的価値は少なくとも100倍にはなると試算されています。
このような取り組みは、アフリカでも行われています。2018年11月にケニアで開催された「持続可能なブルー・エコノミー会議2018(Sustainable Blue Economy Conference 2018)」の場においても、サイドイベントの1つとして、ブルーファッションのファッションショーが行われました※4。こちらでは、ナイルパーチの皮が使われました。ナイルパーチは、大きなものは180センチを超え、これまでは魚肉をフィレにして売った後、ほとんどの皮は、土中に埋めて肥料として使っていました。体長が大きい分、皮の量も多く、それを何とか利用できないかと考えられたのが、皮革としての利用です。魚の皮は、蛇やワニの皮のような風合いがありますが、取引に規制はありません。なぜなら、それは、主として食品としての水産物の副産物であり、絶滅に瀕した種に由来したものではないからです。そして、今や、靴や財布や服などに利用されるのみならず、自動車業界からもインテリア素材として注目されているとのことです。また、ファッションの素材としては、牛革よりも軽く強靭であるとともに、人目を惹き、さらに、まったく同じものはないことからそのユニークさもデザイナーにとって魅力となっています。
さらに重要なことは、魚の皮の皮革としての持続可能な利用が、漁村の、特に女性と若者にとっての新たな雇用と収入をもたらす可能性がある点です。それこそが、FAOがBGIの一環として支援する理由の1つとなっています。(了)

2019年11月の「水産業の持続可能性に関する国際シンポジウム」会期中に展示されたブルーファッションの作品例。スカートの部分や、アップリケの部分にナイルパーチの皮を使用しています。

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