Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第471号(2020.03.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆1971年から2010年までの40年間に地球全体で蓄積された余剰熱の9割以上が海洋に吸収され、海水温の上昇が生じた。その結果、海洋熱波の発生頻度は1982年から2倍に増大した。表面が温かく軽い海水で覆われることで海洋循環が弱まり、海洋の酸素量の損失も生じている。地球温暖化の原因である二酸化炭素の約3 割を海洋が吸収し、それが海洋の酸性化をもたらしている。海洋の限界が次第に明らかになっている。
◆IPCCの「海洋・雪氷圏特別報告書」第1 章を執筆した榎本浩之国立極地研究所副所長に、この特別報告書(SROCC)が放つ緊急のメッセージについて解説いただいた。雪氷圏の変化が海洋にもたらす影響は海面上昇にとどまらないことがよくわかる必読の論稿である。気候変動や海洋、雪氷圏に関するリテラシーを高める教育により、個人や社会の意識を高め、気候変動対策を進めるべきとの提言は傾聴に値する。
◆和歌山県海南市漁業協同組合塩津牡蠣生産者部会会長の阿部立利氏にカキ養殖で地域を活性化する取り組みを続けている海南市塩津についてご紹介をいただいた。高齢化により漁業者が減っている地域の町おこしに和歌山でカキ養殖を始めたとのこと。和歌山がカキ養殖シェア全国1位を誇る広島県の養殖のルーツであることをこの論稿ではじめて知った。紀伊和歌山藩の藩主浅野長晟(1586年~1632年)が安芸広島藩に移封された際に、カキ養殖の技術が導入された由である。カキ生産からカキ小屋でのカキの販売といういわゆる「6次産業化」とカキのブランド化の成功を祈りたい。
◆小澤 実立教大学文学部史学科教授からは、ヴァイキングが切り開いた交易ルートについてご寄稿いただいた。イスラーム銀(ディルハム)が流入し始めた750年ごろを境に、スカンディナヴィアから銀を求めて外の世界に拡大をはじめたヴァイキングのうち、スウェーデン・ヴァイキングは東へ、デンマーク・ヴァイキングは南へ、ノルウェー・ヴァイキングは西へ展開したという。読者には、スカンディナヴィア内部では国家へと統合される一方、外部へ展開する「ヴァイキング世界」を堪能していただきたい。(坂元茂樹)

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