Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第463号(2019.11.20発行)

いのちのゆりかご「曽根干潟」をフィールドとした海洋教育

[KEYWORDS]曽根干潟/環境教育/地域貢献
福岡県北九州市立曽根東小学校校長◆古澤律子

曽根東小学校は、曽根干潟を校区に有する自然に恵まれた学校です。
私たちは、曽根干潟をフィールドとして、全校あげて海洋教育を行っています。
総合的な学習の時間を中心として、曽根干潟に関する「人・もの・こと」に積極的に関わり、環境を自分事として、また曽根東地区のまちづくりを行う一員として、「体験」「発見」「貢献」を大切にしながら学習しています。
地域に誇りをもち、未来を切り拓く子どもたちを育てています。

主体的に学び、持続可能な社会を創造できる児童の育成を目指した環境教育

本校は九州地方、福岡県の北部に位置し、校舎屋上に上がればその昔に開拓された広い曽根新田と縦横に流れる小川やクリーク、そして約500ヘクタールに広がる「曽根干潟」が見渡せます。曽根干潟は年間を通して200種以上の野鳥が生息し、世界的希少種のズグロカモメやツクシガモ等が飛来する国内有数の越冬地であり、絶滅危惧種であるカブトガニをはじめとする底生生物の生息地として、極めて重要な干潟です。私たちは、子どもたちの故郷である曽根東地区の自然を柱として、持続可能な社会を創造できる児童の育成を目指した「曽根東小学校環境教育プラン」を独自に開発し環境教育の具体的な指導内容や方法を解明しています。そのフィールドは、すばらしい曽根干潟です。干潟に関わる「人・もの・こと」に積極的に関わり、地域に愛着を感じ、地域の一員としてまちづくりに参画する態度を身に付けた子どもの育成を目指しているところです。
総合的な学習の時間のなかからいくつかの事例を紹介します。第5学年「守り続けよう~地域の宝曽根干潟~」では、曽根干潟の複数箇所を比較しながら実施した生き物調査や干潟に関わる有識者へのインタビュー調査を基に、課題を設定しました。貴重な生き物が生息するこのすばらしい曽根干潟を守り続けるには、多くの人に知ってもらう必要があると考えた子どもたちは、1年間の学びを取れ入れた「私たちの曽根干潟」紹介VTRを作成し、地域環境フォーラムで、広く保護者や地域に発信しました。第6学年「曽根東PR大作戦~ようこそ、わたしたちのまちへ~」では、さらに一歩進んで地域の一員として、「まちづくり」をポスターセッション形式で広く地域に提案しました。「干潟の生き物とふれあいツアー」「曽根干潟の生き物水族館」「曽根干潟でのどろんこ体験(CMづくり)」など、子どもらしい発想でまちづくりを提案しました。

  曽根干潟の生き物調査

曽根干潟クリーン作戦、どろんこ集会

毎年6月と10月に実施しているクリーン作戦は、今から27年前の1993(平成5)年、当時6年生の児童が、曽根干潟で釣り糸が足に巻き付き苦しんでいる野鳥を助けたことをきっかけに始まりました。活動リーダーである6年生は、クリーン作戦2週間前から手づくりポスターをランドセルに貼って、登下校時に校区の方に自然な形でアピールします。また、近隣のJR駅やスーパー前で手づくりチラシを配布するなどさまざまな啓発活動を実施します。これは、入学時より上級生がしてきたことを見て学び、次は、私たちの番だ!と受けついできた伝統でもあります。数名の児童から始まった活動でしたが、今では、PTAや地元住民をはじめ、近隣保育園、市民センター、野鳥の会、環境センターの職員も参加する地域の一大イベントとして定着しました。1年間の参加者は、延べ1,300人、約3トン(2回の活動の合計)ものゴミを回収します。自分たちが拾ったペットボトルの一つ一つが、海洋プラスチック問題等の解決につながることを願って継続しています。曽根干潟が、カブトガニにとって、産卵しやすいように、またさまざまな生き物が棲みよい海となるように、環境を守っているのです。
曽根干潟クリーン作戦の後には、美しくなった干潟で「どろんこ集会」を実施しています。集会委員会が計画、1年生から6年生の学年縦割りグループで協力しながら、曽根干潟の生き物をウォークラリー形式で探します。子どもたちが、毎年とても楽しみにしている活動で、干潟への愛着を深めるとともに、生き物の観察を通して環境との関わりを学んでいます。2月には、(公財)日本野鳥の会の方の協力を得ながら冬場に曽根干潟に飛来する野鳥の観察を行っています。

曽根干潟クリーン作戦 どろんこ集会の様子

シチメンソウ再生プロジェクト

シチメンソウ

シチメンソウは、秋になると見事に赤くそまる塩生植物です。環境省のレッドデータリストで絶滅危惧種として指定されており、日本中探しても、九州にしか生息していません。曽根干潟には、このようなシチメンソウが自生していましたが、1970年代に全滅してしまいました。このシチメンソウを曽根干潟に取り戻そうと、40年ぶりに地域の方が動き出しました。環境教育を長年行っている曽根東小学校に地域が声をかけていただいたことがきっかけで、地域の方と共に6年生が中心となって2013(平成25)年に「シチメンソウ再生プロジェクト」を立ち上げました。今年で、6年目になります。
学校では、地域の方や環境保護団体、小倉南区役所の指導を受け、シチメンソウを校内で栽培しています。栽培しながら、シチメンソウの特徴や生長の様子を調べ、理解を深めるとともに、採取した種を基に、曽根干潟を将来的にシチメンソウでいっぱいにすることを目指しています。
海岸に自生している植物であるため、最初は育て方がよくわからず、試行錯誤しながらの栽培が続きました。真水を与えるグループと海水を与えるグループで比較実験を行い、よく育つ好条件を追究してきました。真水よりも、海水、真水と海水の混合水の方がより育つことが分かり、栽培を継続しています。毎年12月に「シチメンソウ引き継ぎ式」で6年生から5年生へ、採取した種を譲り、次年度につなげています。
このように、私たち曽根東小学校は、自然の恵み豊かな曽根干潟をフィールドに、さまざまな学習を行っています。大切にしていることは、「体験」「発見」、そして「貢献」することです。環境に対する豊かな感受性、見方や考え方、実践する態度の育成を目指して、これからも未来を切り拓く子どもたちを育てていきます。(了)

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