Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第463号(2019.11.20発行)

マリンチック街道、その特徴と魅力、そして普及促進に向けて

[KEYWORDS]C to Sea/海の駅/レンタル・チャーターボート
国土交通省海事局船舶産業課舟艇室◆岩下 聡

「マリンチック街道」とは、プレジャーボート等によるクルージングの中に、「海の駅」等に寄港・上陸して近郊の観光地やグルメスポット等を巡るという要素を加えたモデルルートである。
現在、全国に16ルートが整備されており、従来のボートユーザーに加えて旅行者やグルメ愛好家等、幅広い人々が安全かつ気軽にクルージングを楽しむことができるなど、「コト消費」を担うコンテンツとして期待されている。

C to Seaプロジェクトとマリンチック街道

四面を海に囲まれた海洋国家であるわが国にとって、海は、生活や経済と密接に関連しており、海運・造船・船員といった海事産業の果たす役割はきわめて重要である。国民の海・船に対する理解や関心の醸成は必要不可欠であるが、2017(平成29)年に(公財)日本財団が実施した「『海と日本』に関する意識調査」では、とくに「若者の4割は海にあまり親近感を感じない」との結果が得られるなど、近年、国民の海離れが進んでいる。
このため、国土交通省海事局では、2017(平成29)年の夏から「C to Seaプロジェクト」をスタートした。C to Seaプロジェクトとは、子どもや若者をはじめとするより多くの国民に海や船の楽しさを知り、海への親しみを持ってもらうよう、海に触れる機会の増加につながるイベントの実施や情報発信など様々なアクションを起こす官民一体の取り組みである(図1)。
そして、このC to Seaプロジェクトの一環として、国土交通省海事局ではプレジャーボートによるクルーズ観光のモデルルート「マリンチック街道」の整備を進めている。
マリンチック街道とは、プレジャーボート等によるクルージングのなかに、「海の駅」等に寄港・上陸して近郊の観光地やグルメスポット等を巡るという要素を加えたものであり、旅行者やグルメ愛好家等の幅広い方々が安全かつ気軽に楽しめることをコンセプトとしたモデルルートである。ちなみに、「マリンチック」とはマリンとロマンチックを掛け合わせた造語である。

■図1 C to Seaプロジェクトのシンボルマーク(上)とC to Seaプロジェクトの名称に込めた思い(下)

マリンチック街道の特徴と魅力

■図2 モデルルートマップ(横浜)

欧米では、プレジャーボートによるクルーズ観光は広く普及しているものの、わが国では一般的に富裕者層のレジャーという意識が強いこともあり、広く浸透しておらず、また、観光としてのメニュー化も殆どされていない。
このため、国土交通省海事局では、平成29年度にマリン・観光関連の有識者、さらには若年層の代表として大学生の委員からなる委員会を設け、マリンチック街道の登録基準を策定した。
登録基準は、「安全」や「周遊距離・時間」に関する基準だけでなく、「寄港地、観光スポット等」に関する基準を設け、マリンチック街道を単なる航路とするのではなく、利用者の良い思い出として残るようなプレジャーボートの魅力を体験できるルート作りを目指した。
例えば、船上からしか撮影できないSNS映えするポイントや、上陸後に徒歩で訪問できるグルメスポット、観光スポット等は必ず含め、またマリンレジャー体験ポイントや景勝地、歴史的遺構等の見学ポイントなどもできるだけモデルルートに含めることとし、各地域で個性を活かしたルート作りが行えるよう工夫した。
この基準を策定した平成29年度に、国土交通省海事局主導で5つのルートを整備した。そして、平成30年度には、より多くの地域に展開することを目指し、また、各地域の海に関心を持っている方々の知識やアイデアを結集させるため、モデルルートの一般公募を行った。その結果、東北から九州まで新たに11ルートが追加され、合計16ルートとなった(図2および図3)。なお、追加された11ルートは、2019(平成31)年3月に行われた国内最大級のボートショー「ジャパンインターナショナルボートショー2019」において発表・公表され、テレビや新聞でも大きく取り上げられた。
マリンチック街道の特徴としては、レンタルボートやチャーターボートを使用するボート初心者をはじめ、幅広い方々を対象とし、魅力的な沿岸観光ルートを設定していることなどが挙げられる。レンタルボートは、自らボートを所有していなくても、海の駅等のマリーナでボートをレンタルできる最近人気急上昇中のサービスである。さらにチャーターボートはこれに船長が同乗し操船も行ってくれるサービスである。国内のプレジャーボート保有隻数が減少の一途をたどるなか、富裕層のレジャーと思われがちなプレジャーボートをより身近なものとするため、舟艇業界では、レンタル・チャーターボート事業にも力を入れており、近年は当該事業の全国展開に加えて、利用者のニーズに応じボートの種類等も多様化しつつある。

■図3 マリンチック街道登録16ルート

マリンチック街道の普及促進

国土交通省海事局では、平成30年度、海事観光の振興についての取り組みを加速化させ、その状況を戦略的に情報発信することを目的として、海事観光戦略実行推進本部を設置した。海事観光戦略実行推進本部では海事観光分野でわが国の観光先進国の実現に貢献すべく、インバウンド観光促進も含め、地方での誘客や消費拡大に向けた各種取り組み方針について取り纏めた。
その中で、マリンチック街道は「コト消費」を拡大する海事観光コンテンツとして、その普及促進に取り組むこととされている。コト消費とは、製品を購入して使用することで単品の機能的なサービスを享受するのみでなく、個別の事象が連なった総体である一連の体験を対象とした消費活動のことであり、とくに海事観光の場合、自然景観鑑賞、アクティビティ体験等が挙げられる。全国各地のマリンチック街道は各地域の魅力をクルージングと一体化させたコト消費提供コンテンツそのものであり、インバウンド観光客に対しても満足いただけるものである。
マリンチック街道は、わが国の海事観光の新しい側面を切り拓く取り組みであり、さらなる発展の可能性を秘めている。今後もレンタルボート・チャーターボートのさらなる普及や、効果的な情報発信により、国内外のより多くの人々に認知され、利用されるよう、国土交通省海事局としては、地方自治体、マリン業界等と連携してその普及促進に努めて参りたいと考えている。読者の皆様も、機会があれば、是非一度マリンチック街道を体験してみてはいかがだろうか。(了)

  1. マリンチック街道の各ルート内容については、国土交通省ホームページで公開しています。 http://www.mlit.go.jp/maritime/marintik.html

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