Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第459号(2019.09.20発行)

全地球の海底地形解明を目指す ~国際コンペティションでGEBCO-日本財団チーム優勝~

[KEYWORDS]海底探査技術/Shell Ocean Discovery XPRIZE/Seabed 2030
(公財)日本財団常務理事◆海野光行

海底探査技術の国際コンペティション「Shell Ocean Discovery XPRIZE」で、GEBCO-日本財団フェローによるチームが2019年5月に優勝した。
メンバーは別々の国に住むため全員が同じ場所で作業できず、実務上の困難はあったものの、彼らの「多様性」は勝利の要因でもあった。
参戦するにあたり、チームは優勝よりも大きな目標を見据えていた。
優勝賞金はすべて、2030年までに海底地形図の100%完成を目指す「日本財団-GEBCO Seabed 2030 プロジェクト」の目標達成のために活用される予定だ。

13カ国の多国籍チーム

日本財団は2004年より大洋水深総図(General Bathymetric Chart of the Oceans 、以下GEBCO)の協力の下、海底地形図を作成する専門家育成プログラムを米国ニューハンプシャー大学で行っている。これまで、39カ国90名のフェロー(奨学生)を輩出し、そのなかの13カ国16名のフェローを中心として、海底探査技術の国際コンペティション「Shell Ocean Discovery XPRIZE」に挑むチーム「GEBCO-NF Alumni Team」(以下、GEBCO-日本財団チーム)を構成した。
このコンペティションは、XPRIZE 財団により運営され、無人での超広範囲・高速の海底地形データ収集を目指して、水中探査ロボットによる水深4,000m級での海底探査技術を競った。22カ国32組がエントリーし、書類審査と2017年11月にノルウェーで実施されたラウンド1(技術評価試験)を経て、2018年11月から2019 年2月までギリシャのカラマタ沖で実施されたラウンド2(決勝戦、実海域競技)に9組が進んだ。なお、日本の産官学民共同チーム「Team KUROSHIO」も決勝に駒を進めた。
GEBCO-日本財団チームのメンバーは、出身国が違うというだけではなく、所属する組織や専門分野、立場も異なっていて、多様性に富んだチームだった。コンペティションに挑むに当たって同じ場所に集まって作業することが難しく、ネットでコミュニケーションを取りあった。そのため、同じチームのメンバーとして参加しながらも2019年5月31日に開催された表彰式で初めて顔を合わせたメンバーも少なくなかった。このように世界中にメンバーが散らばっているチームは他にはなかった。
主にネットでしかやり取りできないというのは、実務上の困難であった半面、世界中から集まったメンバーであるという点は彼らの強みにもなった。個々のフェローが持つコネクションやネットワークを集結して役立てることができたからだ。メンバー自身が各国の先端企業に接触し、直接交渉をして、技術的な協力を仰いだ。個々のメンバーが持つネットワークを活用したことで、問題や疑問が発生したときにはすぐに適所に当たることができた。そして自分たちに足りない部分があるとき、どうそれを補えばよいか対処できた。これは単一なコミュニティで構成されたチームではなし得なかったことではないか。今回のコンペティションに限らず、あらゆることにおいてブレークスルーを起こすには、「多様性」が大事だと考えている。多様性は日本財団が重要視している価値の一つでもある。

2017年にノルウェーで実施されたラウンド1(技術評価試験) ギリシャでのラウンド2(決勝戦)でデータ処理を行うGEBCO-日本財団チーム

共有のビジョン

コンペティションの決勝では、無人ロボットを使って調査を行い、水深4,000mの深海で24時間以内に250㎞2以上の深海3Dマップを構築する技術が競われた。さまざまな厳しい条件が設定されていたが、GEBCO-日本財団チームは調査のやり直しを行うこともなく、定められた時間内にデータ収集および地形図作成を終え、優勝することができた。参加チームの中で課せられた課題を全てクリアできたのはGEBCO-日本財団チームのみだった。
チームの多様性からくる豊富な知見に加え、メンバー全員が優勝ではなく、その先を見据えていたことも強調しておきたい。つまり、コンペティションは彼らにとって、全地球の海底地形を明らかにするという、人類の夢に向けたチャレンジの一環であった。このような大きなビジョンを共有していたことも、審査とは直接関係のないところで大会関係者から大きく評価されていたようだ。

GEBCO-日本財団チームが開発し、コンペティションで使用した測量システム

全地球の海底地形の解明に向けて

コンペティションの優勝賞金約4億3千万円はすべて日本財団に寄付され、財団がGEBCOと共に推進している2030年までに全地球の海底地形を解明することを目指す「日本財団-GEBCO Seabed 2030プロジェクト」の目標達成のために活用される予定だ。チームのメンバー数名は、コンペティション後、プロジェクトの目標に向けて遠征調査の船に同乗し、未開拓海域のデータ収集に貢献するなど新たな取り組みに着手しており、こういった取り組みにも賞金が活用される可能性がある。
海底地形の解明は、津波の予測や地球規模の海面上昇の予測、船舶の安全航行や海洋生物のモニタリングなど様々な問題の解決に役立つ情報である。プロジェクト開始当初6%しか解明されていなかった海底地形はわずか2年で15%まで解明された。しかし目標を達成するには、世界中からさらなる協力を得ることが不可欠である。
コンペティションでは、GEBCO-日本財団チームと共に競った全てのチームが海底地形の解明のための新たな手法を模索し、切磋琢磨する機会となっただけでなく、多くの出会いとつながりを生んだ。分野を横断した世界的なネットワークが広がるにつれ、海底地形の解明はこれから飛躍的に加速していくことが見込まれる。人類共通の夢の実現に向けたこの取り組みの輪に、これからも多様な人の参加を期待したい。(了)

モナコで行われたコンペティションの表彰式にて
  1. 大洋水深総図(GEBCO)=国際水路機関と UNESCO-IOCとの共同プロジェクトであり、全地球の海底地形図の作成と海底地形名称の標準化を行っている。

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