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オーシャンニューズレター

第458号(2019.09.05発行)

外航海運会社による世界初のグリーンボンドについて

[KEYWORDS]ESG/財務/グリーンファイナンス
日本郵船(株)財務グループ統轄チーム課長代理◆白根佑一

企業の長期成長のためには、リターンだけでなくESGの観点が必要だという風潮が世界的に広まっており、日本郵船(株)では、2018年5月、海運会社では世界初となるグリーンボンドを100億円発行した。
グリーンボンドとは、「環境改善効果のある投資に限って」発行できる社債である。
当社の活動が、広く一般にグリーンボンドのメリット、ノウハウ等の理解を進める小さなきっかけとなり、企業にとってはコストの掛かる環境投資を少しでも後押しできることを願う。

グリーンボンドとは

■環境対応船の技術ロードマップ

グリーンボンドとは、「環境改善効果のある投資に限って」発行することができる社債である。企業に対して資金を出す(社債を買う)投資家側が、リターンだけでなくESG(E:環境対応、S:社会責任、G:企業ガバナンス)を強く意識する風潮から注目を浴び、近年では日本でも急速に発行が増えている資金調達手法だ。
当社は2018年5月、海運会社では世界初となるグリーンボンドを100億円発行した。資金の使途、使い道は①LNG 燃料船(重油ではなくLNGで推進する船舶)、②LNG 燃料供給船(LNG 燃料船に燃料を供給する船舶)、③バラスト水処理装置(船体のバランスを取る為に取り込んだ海水の中の微生物を処理する装置)、④SOxスクラバー(船舶の排気ガスから硫黄分を除去する装置)、以上4つの投資である。何れも当社が掲げる長期的な「環境対応船の技術ロードマップ」に含まれる。
当社がグリーンボンドの検討を始めたきっかけは単純で、2018年初の社長挨拶で「今年のテーマは“Digitalization”と“Green”」という言葉を聞き、私の所属する財務グループとしても会社のテーマに沿った資金調達手法で貢献できるかな? と考えて検討を開始したところ、グリーンボンドにはさまざまなメリットがあるのではないかという期待が膨らんだ。一点目は、「資金調達リソースの拡大」である。資金の出し手である投資家の中で、国連の責任投資原則(投資判断の際にESGの観点も組み入れる)に署名する機関が急増していることから、そういったESG 投資家との新しい繋がりができることが、当社の資金調達先の拡大に資するのではと感じた。また、2点目としてグリーンボンドはメディアからの注目も大きいため、世界初の海運グリーンボンドが実現すれば、当社の環境問題への取り組みを国内外ステークホルダーに認知頂ける良いきっかけになるのではと考え、チームとして発行に向けたより具体的な検討を進めていった。

発行までの苦難

実際に取り組んでみると、簡単な道のりではなかった。グリーンボンドは第三者の評価機関から、資金の使い道である投資資産がグリーンである(環境改善効果がある)という評価を取得するのが最も重要な点の一つだが、この評価機関を探すのが最大の難関だった。さまざまな評価機関と面談したが、資金使途の一つであるLNG 燃料船について、「LNG 燃料は重油に比べてクリーンではあるものの、化石燃料に変わりはない。海外の投資家は、再生エネルギー等もっと高い水準を見ている」という理由から、複数機関から評価を断られてしまった。しかし、現時点で技術的に可能な大型外航船の燃料ではLNGがベストである点、また当社の長期的な環境目標達成のためにはLNG 燃料が必要な中間ステップである点を主張し、漸く理解を示してくれた評価機関を見つけることができたのが一番のブレークスルーだったと感じる。
また、グリーンボンドは資金使途が生み出す環境改善効果を定量的に説明・対外開示(レポーティング)する必要などがあるため、財務グループだけでは対応が難しく、環境グループ、工務グループ、各営業部門、また投資家への説明や対外発信効果を最大限にするための広報グループ等さまざまな部署の協力が不可欠であった点も苦労した。ただ、この点についてはどの部署も非常に前向きに協力してくれた。会社の掲げるグリーンというキーワードのもと、同じ方向を向いて一致団結する結束力を感じることができた。

環境省によるジャパングリーンボンドアワードの授賞式の様子(2019 年3月)。ジャパングリーンボンドアワードの「環境大臣賞」のほか、英国Environmental Finance誌の「ボンドアワード2019」、一般社団法人環境金融研究機構の2018 年サステナブルファイナンス大賞「グリーンボンド賞」を受賞

発行の成果

さまざまな苦難を乗り越えて無事発行に漕ぎつけたが、発行してみると期待を大きく上回る効果を実感できた。多くの投資家が興味を持ってくれたことで想定以上の応募が集まり、また前回の普通社債は購入していなかった新規の投資家の数が大半を占めた。海運世界初ということで一般誌、業界誌、金融誌、ESG 誌やTVのニュース等、国内外のメディアが継続的に大きく取り上げてくれた。また、環境省、証券会社、金融メディアやさまざまな業界団体が主催するフォーラムでグリーンボンドについて話をさせて頂く機会も数多く得て、国内外で3つの栄えある賞を受賞することもできた。
このような目に見える成果も現れたが、個人的には社内外の幅広い方々が一体となって本件が成功したという実感が持てたことが嬉しかった。社内関係各所の協力や理解を示してくれた評価機関は勿論のこと、グリーンボンドの普及を目指しさまざまなアドバイスをくれた環境省。このグリーンボンドが実現したら世界の海運が変わるかもしれない、というコメントの元、一緒にがんばってくれた証券会社。当社の取り組みを応援したいと、大々的なインタビューコメントを掲載してくれたメディア。興味を寄せてくれた投資家。恐らく、どの関係者も(意識はしていないかもしれないが)最終的にはその先に環境問題の解決という共通のゴールがあり、皆同じ方向を向いている。グリーン、環境、という言葉は、関係者の利害を超えた一体感を生み出す不思議なキーワードだな、ということを強く実感した。

これから

今後グリーンファイナンス市場がどのような動きを見せていくかは分からないが、最初の発行で得られたノウハウをもとに、できれば今後も継続的に実績を重ねていきたい。また、当社は国際NGOのClimate Bonds Initiativeが主催する国際海運グリーンボンドの基準作りにも参加しており、自社の資金調達を越えた取り組みでも、グリーンファイナンス(環境改善効果のある投資に限った資金調達手法)をけん引していく存在になりたいと考えている。
そしてグリーンボンドは発行自体に環境改善効果があるのではなく、最終的にはその資金使途となる環境投資が増えることに意味がある。当社の活動が、広く一般にグリーンボンドのメリット、ノウハウ等の理解を進める小さなきっかけとなり、企業にとってはコストの掛かる環境投資を少しでも後押しすることに貢献できるのであれば幸いである。(了)

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