Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第455号(2019.07.20発行)

海洋分野における女性の活躍

[KEYWORDS]世界海事大学/男女共同参画/SDG5と14
帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授、海の女性ネットワーク代表◆窪川かおる

海洋分野で働く女性の活躍は日本でも広がりつつあり、女性リーダーは緩やかであるが増えている。
4月初めに世界海事大学で「第3回国際女性会議-海事社会の女性エンパワメント」が開催され、70カ国350名以上の海洋分野で働く女性達が参加し、共通の課題から具体的目標が設定された。
日本では2018年に「海の女性ネットワーク」が発足し、海洋分野での活動を始めている。

女性比率ゼロの解消へ

男女共同参画基本法が1999年6月に施行された。さらに2016年4月から女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)が10年間の時限立法として施行されている。この法律には数値目標を含む行動計画の策定などの作成と公表が国や地方公共団体および企業等(301人以上)に対して義務付けられており、男女共同参画の加速が期待されている。ところが、国際比較における日本の男女共同参画は低迷していて、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数では、2018年12月に149カ国中110位であった。特に政治家、経営管理職、教授などの女性リーダーの少なさが目立つ。女性の雇用に対する職種や職務の違いはたいへん大きいが、女性比率が少ない例として自然科学系の女性研究者についてよく調べられている。理学14.2%、工学10.6%(平成29年版男女共同参画白書)である。海洋分野の統計データはないが、実感としてさらに低値である。女性の就労や女性のリーダーシップは、社会の多様性を示す指標のひとつであり、職場環境の整備や働き方の改善に繋がるので男女いずれにも利益となる。女性比率はそのバロメーターとも言える。
傾向では、海洋の分野も女性比率は上向きである。そこで「初の女性」という枕詞は稀になったが、2018年に南極観測の初の女性副隊長および夏隊長に(国研)海洋研究開発機構の原田尚美氏が就任された。原田氏は北極研究にも長年にわたり貢献されており、長期航海に幾度となく出られている。ところで、歴史上、長期航海に最初に出た女性は、18世紀のフランス人で、植物学者の助手として乗船したジャンヌ・バレである※1。当時の海洋調査は軍艦で行うために女性は乗船できず、男装した女性一人という勇気に敬服する。
19世紀後半には女性が海洋学を学ぶ時代になった。ウッズホール海洋生物学研究所は、アメリカの女性教育協会の支援を受けて積極的に女子学生や女性研究者を受け入れた。3分の1が女性という時期もあるという。1889年の研究所のサマースクールには、日本で最初の女子留学生であり、津田塾大学を創立し女子教育に尽力した津田梅子が参加しており、滞在期間中に女性研究者と女子学生との交流がなされたことであろう。

第3回WMU国際女性会議

笹川講堂での会議

日本の海洋分野で働く女性比率は、漁業従事者の13%(2015年)、水産関連の研究者が10%(2018年)、造船関係の技術者が5%(2014年)である。欧米の海事分野の女性従事者より少ない。欧米にどのようなノウハウがあるのか、それを学ぶ機会ととらえて、「第3回国際女性会議―海事社会の女性エンパワメント」に参加した。2019年4月4、5日に世界海事大学(WMU、World Maritime University、スウェーデン・マルメ市)で開催された会議は、5年ぶりのWMUジェンダー関連会議となる。WMUは国連の国際海事機関(IMO)が1983年に設立した大学院大学で、2015年からCleopatra Doumbia-Henry 氏が初の女性学長に就任している。さらに女子大学院生は創立当初は2人であったが2019年クラスで61人に増加している。このようにWMUにおける女性活躍が進行している中での会議で、参加者は70カ国から350 名以上に達し、メイン会場の笹川講堂の他に2つのビデオ会場が用意された。アジアの参加国は、インド、フィリピン、マレーシア、インドネシア、トルコ、日本であり、日本からは(株)商船三井の松下尚美氏と筆者がWMUの北田桃子准教授の紹介で参加した。筆者は日本の女性比率の現状と2018年に創設した海の女性ネットワークの活動について報告した。会議全体のテーマは、海事分野の女性リーダーシップ、女性船員の挑戦、港湾開発への女性参画、海洋政策における女性の役割、女性海洋科学者の現状、SDG5と海事産業、水産業への女性の貢献、女性参画ネットワークなど多岐にわたった。ポスター発表を含めて演題は76に及び、女性比率の大小にかかわらず女性の就労に関わる世界共通の問題を国際協力で考えていく必要を実感した。
会期中には、カナダとWMU 笹川世界海洋研究所との間で「国連持続可能な海洋科学の10年に向けた女性のエンパワメント」と題する研究プロジェクトの開設に関する協定が締結された。また、アフリカ諸国からの参加者は多く、男女共同参画の今後の展開への熱意は大きかった。筆者としては、2021年から始まる「海洋科学の10年」に男女共同参画の取組みを入れること、あるいは国際協力の一員として活動することを考えるよい機会であった。会議報告書はWMUから9月頃発行される予定である。
会議の成果は、最後に8 項目に集約整理された※2。1)男女共同参画政策の推進、2)海洋分野の女性活躍に関する現況調査、3)ロールモデルの活用、4)キャリア教育の充実、5)メンター制度の浸透、6)ジェンダー研究への支援、7)海洋産業における男女共同参画の発展、8)就業機会の平等と公正な評価に基づく均等賃金である。今回の会議から持続可能な開発目標(SDGs)のSDG5と14に関連する海洋分野の世界共通の課題を確認することができた。今後は女性エンパワメントのための国際ネットワークが欲しいところである。そして次回は、日本からの参加者が増えることを期待したい。

海の女性ネットワークの立上げ

筆者が国際会議で発表した海の女性ネットワークは、2018年5月に発足した団体で、活動を緩やかに始めている。発足のきっかけは2005年と2008年に出版した女子高校生に海洋分野の魅力を伝える啓発書『海のプロフェッショナル』2巻(東海大学出版会)とその記念セミナーに遡る。30名以上の女性たちが執筆し、彼女たちの努力と輝きは多くの海洋関係者に伝わった。10年後にさらなる活躍を目指して、2017年に(公財)日本財団助成による東京大学海洋アライアンス・イニシャティブプログラムで「海の未来をひらく!女性ネットワークからの発信」を実施し、海の女性ネットワーク発足に繋がった。毎月1 回のWeb会議、機関誌発行、SNSとホームページによる発信、サイエンスクラブなどを実施している。育児による就業のハンディを乗り超える方策からSDG5と14の目標まで、海洋分野の課題の解決を目指して男女共同参画で活動するネットワーク構築を目標としている。(了)

海の女性ネットワーク機関誌No.1、2の表紙

  1. ※1ジャンヌ・バレ(Jeanne Baret)については海の女性ネットワーク機関誌の横山美香氏の記事に詳しい。 https://oceanwomenjp.wixsite.com/website
  2. ※2会議報告はWMUのサイトを参照。
    https://www.wmu.se/news/achieving-gender-equality-through-empowering-women-maritime-community

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