Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第453号(2019.06.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授♦坂元茂樹

♦法の支配に基づく海洋秩序を維持・強化するために、「自由で開かれたインド太平洋構想」を外交の基軸としている日本として、太平洋島嶼国は重要な戦略的パートナーである。近年、この地域に中国が急速に影響力を拡大している。この中国の動きの背後に、台湾問題がある。現在、台湾は18カ国と外交関係をもつが、そのうちの6カ国が太平洋島嶼国である。中国は、2016年の蔡英文政権誕生以来、これらの国に外交攻勢をかけ切り崩しを図っている。
♦塩澤英之(公財)笹川平和財団日米・安保事業ユニット安全保障研究グループ主任研究員から、太平洋島嶼国を巡る情勢の変化と日本の役割について考察していただいた。これらの諸国は太平洋小島嶼開発途上国(PSIDS)の枠組みの下で、Blue Pacific Identityという概念を軸に日本、豪州、NZ 、米国および中国という開発パートナーとの間でバランスを取ろうとしているという。塩澤氏が指摘するように、日本がこれらの島嶼国との関係を共通課題に取り組む戦略的パートナーシップに発展させることが期待される。
♦動物の体にセンサーを付けてその行動を追いかける「バイオロギング」手法を使って、海洋の環境計測データを得ようとする取り組みについて、宮澤泰正(国研)海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長代理にご解説いただいた。これを可能にしたのは、バイオロギングで使うGPSや加速度計で記録している動物たちの動きから、間接的に風や海流、波浪を推定する技術が東京大学大気海洋研究所の研究グループによって開発されたことによるという。アルゴフロートとは異なる観測特性をもつこの手法によって、海洋環境観測データと海流予測モデルの融合による海洋データの精度の向上を期待したい。
♦2001年にユネスコによって採択され、2009 年に発効した水中文化遺産条約は国家管轄権を超える海域で発見された水中文化遺産に対し沿岸国を「調整国」としているため、日本をはじめ先進国は国連海洋法条約と整合していないとして締約国になっていない。中田達也東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科准教授に、そうした日本が領海において関連国内法を適用し水中文化遺産の保護および保全をどのように図っているかを解説していただいた。2017年10月に公表された水中遺跡検討委員会(文化庁)の「水中遺跡保護の在り方について」によって水中遺跡が埋蔵文化財行政の対象となることが確認されたという。本論稿で提起された課題は検討に値しよう。 (坂元茂樹)

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