Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第450号(2019.05.05発行)

海洋基本計画に対するパブリックコメントと政府の対応

[KEYWORDS]海洋政策/参与会議/立案過程
東海大学海洋学部教授◆脇田和美

海洋基本計画は日本の海洋政策の基本方針だ。
第1期~第3期海洋基本計画の原案に対し、1,380件を超える意見が国民から寄せられた。
意見に応じて政府が内容を修正、追記した割合は第3期計画で最も高く15%だった。
一方、計画内容に反映されなかった意見については総合海洋政策本部参与会議の意見書を根拠とした政府回答が目立った。
今後は意見に対する政府の対応の妥当性の検証も含め、望ましい立案過程を模索していくことが重要だ。

海洋基本計画と国民と政府

日本の海洋政策の基本方針を示す第3期海洋基本計画が2018年5月に閣議決定され、実施に移された。海洋基本計画は2008年の最初の策定から5年ごとに改定され、第2期計画は2013年、現計画の第3期は2018年に策定された。海に囲まれた日本では、海上輸送、海洋資源、海洋環境、海洋安全等、多くの海洋関連分野が国民生活に直結しており、海洋政策には広く国民の意見を反映することが求められる。日本の海洋政策について国民はどのような関心を寄せてきたのだろうか。また、それらの意見について政府※1はどのような対応をとってきたのだろうか。本稿では、海洋基本計画の政府原案に対する国民の意見と政府による意見への対応、また、同計画の原案公示前の政府による意見募集等の措置を概観することにより、次期海洋基本計画の策定に向けた一考察を試みた。

海洋基本計画の原案に対する国民の意見と政府の対応

■図1 海洋基本計画の各施策に対する意見の分布(図中の数値は意見の件数を表す)

過去3回の海洋基本計画の策定にあたり、政府はそれぞれ原案の公示後に、広く国民への意見を求めてきた(パブリックコメント)。政府原案に対する意見の数、意見が多く寄せられた施策、政府の対応等をまとめたものが表1の上段(原案公示後)である。寄せられた意見の数は第1期が592件、第2期が約600件、第3期が195件であり、第3期の意見数は第1期・第2期の約3分の1と少ない。募集期間は第1期が22日間、第2期が7日間(ただし、原案公示前パブリックコメントあり)、第3期が14日間であり、意見の多寡は期間の長短によるものであるとはいえない。一方、これらの意見を踏まえて政府が内容の修正や追記を行ったのは、第1期が629件(計画項目別の再整理件数)のうち37件(5.9%)、第2期が集約された101件のうち4件(4.0%)、第3期が195件のうち29件(14.9%)であり、第3期の対応割合は第1期・第2期の2倍以上に増加した※2
各海洋基本計画には、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策が記されている。これについて、第1期・第2期の12の施策に関する国民の意見の分布と、第3期の9つの施策に関する同分布を図1に示す。第3期で最も意見が多かった施策は「海洋環境の維持・保全」で34件、2番目に多かった施策は「海洋の産業利用の促進」で27件であった。この結果は、第1期・第2期の施策「沿岸域の総合的管理」が第3期では施策「海洋環境の維持・保全」の下に統合されたこと、また、第1期・第2期の施策「海洋資源の開発及び利用の推進」と「海洋産業の振興及び国際競争力の強化」が第3期では施策「海洋の産業利用の促進」の下に統合されたことをふまえれば、複数の施策に分散していた意見が1つの施策の下に集約された結果と理解できるだろう。

海洋基本計画の原案公示前の政府の措置と対応

政府は海洋基本計画の原案公示後に意見を募集してきているが、第1期・第2期については、原案公示前にも海洋政策に関する意見等を募集していた。表1の下段は、原案公示前の政府による意見等の呼びかけ措置、寄せられた意見等の件数、政府の対応をまとめたものである。わが国初の海洋基本計画である第1期の場合、政府は海洋関係学会等に提言を幅広く呼びかけ、それらを踏まえて原案を策定した。第2期の場合、政府は広く国民に向けて18日間の事前意見募集を行った。その結果68件の意見が寄せられ、政府はそのうち26件の意見を反映して原案を記述し、その後改めて原案公示後に意見を募集したのである。一方、第3期の場合、政府は広く国民への意見は募集せず、総合海洋政策本部参与会議※3(以下、参与会議と記す)での議論や意見書をふまえて原案を作成した。このことから、海洋基本計画の内容に関する参与会議の影響力が大きくなってきているといえよう。

次期海洋基本計画の策定に向けて

海洋基本計画の政府原案に対して寄せられた国民の意見は第1期~第3期で1,380件を超え、全期を通じて海洋資源の開発・利用や海洋産業の振興・国際競争力の強化を含めた海洋産業利用の促進と、沿岸域の総合的管理を含めた海洋環境の維持・保全に関するものが多いことが確認された。海洋基本計画の原案に対する意見数は第1期・第2期に比し第3期で3分の1に減少したが、これは国民の同計画への関心が低くなったためなのか、それ以外の要因によるものなのか、理由は定かではない。政府は国民から寄せられた意見を踏まえ、第1期~第3期を通じて適宜原案を修正、追記しており、今後も同様の対応が期待できる。一方、原案公示前の政府による意見募集等の措置は様々であり、次期計画が策定される際にはどのような措置が取られるのか注目したい。
第3期海洋基本計画の原案に対する意見のうち、計画の内容に反映されなかったものについては、参与会議の意見書を根拠とした政府の回答が目立った。参与会議そのものは非公開だが、資料と議事概要は総合海洋政策本部ウェブサイトで公開されている。私たち国民、なかでも研究者はその内容をチェックし、国民の意見に対する政府の対応の妥当性を検証することも含め、わが国のよりよい海洋政策の立案に資する、望ましい立案過程について模索していくことが重要だと考える。(了)

  1. 本稿は日本海洋政策学会の課題研究「新旧海洋基本計画および各年次報告に関する研究-国により講じられた海洋関連施策の多面的検討-」等での議論もふまえて作成されたが、内容の責任は著者のみにある。関係各位に深謝する。
  2. ※1本稿での政府は、内閣府総合海洋政策推進事務局(前身は内閣官房総合海洋政策本部事務局)を指す。
  3. ※2第3期計画の政府原案から閣議決定版への修正点は(一社)海洋産業研究会報通巻第379号(2018.6.8)「解説 第三期海洋基本計画」に詳しい(http://www.rioe.or.jp/pdf/379.pdf)。
  4. ※3参与会議は、海洋に関する重要な施策を審議し、総合海洋政策本部長である内閣総理大臣に意見を述べる役割を持つ。内閣総理大臣により任命された専門家等により構成されており、2007年7月20日に設置された。

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