Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第399号(2017.03.20発行)

編集後記

国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長◆山形俊男

◆東シナ海や日本海の水もぬるむ季節になった。しかし北方に残る冬の大気との境にはつぎつぎと低気圧が発生して、列島には北風と南風が交互に吹き込む。うららかな春は、同時に嵐の春である。嵐に伴う驟雨は三十六歌仙の一人である伊勢の御息所が「水の面に あや織りみだる 春雨や 山のみどりを なべて染むらん」と詠んだように、豊かな緑の季節のさきがけでもある。
◆人間活動に伴う地球の変化は物質循環系を破壊し、自然変動にも影響を及ぼして、極端な気象現象が頻発するようになった。新しい地質時代区分「人新世」に突入したといわれるゆえんである。環境や生態系に与えている大きなストレスに国境を越えて連携し、対処して、持続可能な社会を形成しようとする潮流に、今、米国の新政権下で強い逆流が生じている。これに抗して、4月22日のアースデイには全米の多くの科学者がワシントンDCに結集する。「March for Science」の標語の下に大がかりな抗議集会が行われるが、米国海洋学会や米国地球物理学連合なども「science, not silence」の立場から、この抗議活動を支援するメッセージを出したところである(https://www.marchforscience.com/; https://tos.org/; https://fromtheprow.agu.org/agu-announces-endorsement-march-science/)。
◆甚大な被害をもたらした東日本大震災から、はや6年、今号には東北地方の水産業の復旧状況と今後の課題について二件のオピニオンを寄稿していただいている。山尾政博氏は「サケ離れ」現象に着目し、サケ産業の循環系を構成するふ化放流事業、大型定置網操業、流通・加工業の三要素のそれぞれが抱える問題点を明らかにする。社会科学的な問題に加えて、環境収容力におけるふ化放流魚の野生魚への干渉や気候の変化・変動の及ぼす影響も無視できない問題であり、サケ産業の持続的な展開は簡単ではない。木暮一啓氏は文部科学省の東北マリンサイエンス拠点形成事業を推進し、漁業復興に貢献すべく、大震災で大打撃を受けた沿岸域の海洋生態系の回復過程を熱心に調査中である。東北の漁村での日々の研究生活を通し、閉塞した地域社会の未来は特性を生かした一次産業を基盤にしたコミュニティの復興にあることを力説する。
◆今治工業高校の西岡 誠氏には、昨春、機械造船学科が発足し、スーパープロフェッショナルハイスクールの指定も受けて、実践的な造船教育が始まったことを紹介していただいた。今治市には造船業などの海事産業の伝統がある。地域の教育資源を活用した次世代スペシャリスト育成事業が地域活性化のよき見本になってほしい。 (山形)

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