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【Ocean Newsletter】最新号

第436号(2018.10.05 発行)

東京湾における海上交通管制の一元化

[KEYWORDS]海上交通センター/非常災害/海上交通機能の維持
前海上保安庁交通部長◆八木一夫

後背地にわが国の社会経済の中心である首都圏を控え、国際戦略港湾である京浜港、国際拠点港湾である千葉港などを擁する海上輸送の一大拠点である東京湾。
海上保安庁では、東日本大震災を契機に、この東京湾において海上交通管制等を行う「海上交通センター」と4つの「港内交通管制室」の機能を集約。
今年1月より運用開始した、東京湾の船舶交通の安全を担う新たな「東京湾海上交通センター」を紹介する。

海上交通センターと海上交通の安全

海上保安庁では、船舶交通の輻輳(ふくそう)する海域において、海上交通安全法(以下、海交法)または港則法により航路を定め、一定の大きさ以上の船舶はこれに沿って航行しなければならないなどの交通ルールを定めることにより海上交通の安全を図っています。また、海上交通の要衝となっている東京湾・伊勢湾・瀬戸内海・関門海峡には、海上交通の安全と運航効率の向上を図るため、7つの海上交通センターを設置し、高性能レーダー等の最新装置を用いて24時間体制で船舶交通を見守っています。
海上交通センターは、無線局の呼出名称から「マーチス(MARTIS)」と呼ばれ親しまれていますが、世界的にはVTS(Vessel Traffic Service: 船舶通航業務)と位置付けられています。このVTSの業務は、大きく「情報提供業務(INS: Information Service)」「航行支援業務(NAS: Navigational Assistance Service)」「通航編成業務(TOS: Traffic Organization Service)」の3つに分けられます。
「情報提供業務」は、VTSが実施する基本業務であり、船舶が安全で効率的に運航するため、他の船舶の動静情報や気象現況、航路標識の異常、その他船舶の航行の安全に必要な情報をVHF無線電話等で船舶に提供します。
「航行支援業務」は、航行する船舶が海域の交通ルールに従わないで航行するおそれがある場合または船舶の航行に危険が生じるおそれがある場合に、交通ルール遵守のための勧告を実施し、船舶に対し危険を回避するための一定の行動を促します。
「通航編成業務」は、巨大船や危険物積載船の運航特性等を考慮し、適切な船間距離を保って航行できるよう、航路入航予定時刻等を指示することにより、航路航行時の安全性と効率性を確保します。
これら業務の実施にあたっては、操船者を支援するための高度な判断・対処能力が求められることから、運用管制官には専門的な知識と経験が必要です。海上保安庁では、国際航路標識協会(IALA: International Association of Marine Aids to Navigation and Lighthouse Authorities)の勧告に基づき、業務に従事する運用管制官が必要な知識・技能を習得するため、海上保安学校に専門の教育課程や職制に応じた研修制度を設けるとともに、所定の職場研修を終えた者に対して習得した知識・技能の評価・確認を行う「運用管制官資格認定制度」を導入しています。
このように、運用管制官の能力を組織的に向上させ、維持することによって、安定かつ均質な海上交通センター業務の実施に努めています。

■図1 海上交通センターの主な業務(概要)

安全性、効率性の向上と海上交通機能の維持

近年、船舶の大型化や危険物取扱量が増加しており、船舶交通の輻輳する海域においては、船舶交通の混雑を緩和し、安全かつ効率的な船舶の運航を実現することが求められています。
このような機運の高まりの中の2011(平成23)年3月、東日本大震災が発生しました。震災発生直後における東京湾内の錨泊船は100隻程度でしたが、湾内各港や湾外からの避難船舶によってその後大きく増加、翌日には400隻以上となりました。このため東京湾内の錨地が不足し、湾内が非常に混雑した状況となり、船舶衝突などの危険性が非常に高くなりました。
津波などによる非常災害が発生した場合、船舶への警報等の伝達、避難海域の状況等の情報提供等を迅速かつ確実に実施することにより、船舶を迅速かつ円滑に安全な海域まで避難させなければなりません。これを契機として、神奈川県横須賀市観音埼に所在する東京湾海上交通センターと、東京、横浜、川崎、千葉の4つの港内交通管制室において個別に行っていた海上交通管制について抜本的な体制の見直しを行うことにしました。

■図2 震災翌日の東京湾内の錨泊船の状況
(最大で410隻)

東京湾における海上交通管制の一元化

まず、東京湾海上交通センターと港内交通管制室を神奈川県横浜市の横浜第二合同庁舎に機能集約し、一元的な海上交通管制を行う組織を構築することとしました。そのほか、避難海域の状況等の情報提供のために湾内の船舶交通を把握する必要があるため、高性能レーダーやカメラ等を新たに設置しました。
これにより東京湾内の船舶動静を一元的に把握できるようになり、船舶の混雑状況を考慮した情報提供等を行うことによる船舶の安全性の向上、渋滞の緩和等による船舶運航の効率性の向上等を図りました。あわせて、海交法上の航路通報(変更通報を含む)に、港の係留施設名や管制水路入航予定時刻を記載することで、港則法上の事前通報の省略を可能としたほか、VHF無線電話のチャンネルを増設し、無線電話による変更通報の受付もできるようにしました。そして、非常災害時における海上交通機能の維持を図ることを目的として、海交法等の改正を行いました。
東京湾において大津波警報が発表された場合や、大型タンカーからの大規模な危険物の流出や火災発生など、その影響が広範囲に及ぶような非常災害時にあっては、海上保安庁長官は非常災害が発生した旨の周知を行い、船舶交通の危険を防止するための移動命令等の措置をとることとしています。
これらの措置を適切に実施するためには、湾内の指定海域内に所在する船舶を把握する必要があることから、指定海域に入域する対象船舶は、東京湾海上交通センターに対して入域通報を実施する制度を設けるとともに、災害の状況等に関する情報を聴取する義務海域を拡大しました。
これにより、湾内に所在する一定の大きさ以上の船舶を把握し、それぞれの船舶に適した泊地へ誘導することで湾内の混乱を防止するとともに、二次災害の危険回避が期待され、海上交通機能の維持がより効果的に図られることとなりました。この新たな「東京湾海上交通センター」は、5カ年で段階的に整備され、2018(平成30)年1月31日から運用を開始しております。
海上保安庁では、海難の発生防止・減少に向けて、全国の海上交通センターがこれまで以上に積極的かつ能動的に役割を果たしていくことが重要であると考えています。引き続き、船舶交通の安全性と効率性の更なる向上を目指し、国民の安全・安心確保に努めてまいります。(了)

■図3 東京湾内における海上交通管制の一元化

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