Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第417号(2017.12.20発行)

国連環境計画地域海プログラムとは

[KEYWORDS]地域海/海洋環境保全/国連環境計画
国連環境計画エコシステム部海洋・沿岸エコシステム部門アソシエイト・プログラムオフィサー◆長谷川香菜子

1974年に国連環境計画が設定した地域海プログラムは国連環境計画の40年以上の歴史の中でも、もっとも重要なプログラムだと考えられている。
海洋汚染を主眼において開始したこのプログラムは、現在18の地域におよび、生物多様性保護や統合的沿岸管理など幅広く海洋環境の問題を扱っている。
ここでは、国連環境計画地域海プログラムの概要と具体的な活動例を紹介する。
さらに、BBNJやSDGsにおける議論を通じて、地域海の今後のあり方について考察する。

地域海プログラムとは

地域海プログラムとは1974年に国連環境計画の参加国が海洋汚染を主眼において始めたプログラムです。当時から海洋環境の問題は、多国間にまたがり、一カ国のみでは解決することができないという認識がありました。一方で、海洋地域ごとに異なった環境的特徴があるために、地域ごとに海洋環境を取り扱う必要性がありました。このようなことから、地域海プログラムが開始しました。地域のレベルで取り組むことで、世界的枠組みに比べて、より早く、より地域のニーズに合致した行動が可能になっています。
国連環境計画の下で成立した地域海では、条約の下に議定書を設置するという形をとっています。これは、生物多様性条約やオゾン層保護のためのウィーン条約などと同様の形式です。例えば、ウィーン条約の下には、モントリオール議定書が設定されています。同じように、地域海の締約国(もしくは参加国)会議も、他の環境条約締約国会議と似た形式をとっています。そのため、地域海も多国間環境条約であると考えると仕組みがわかりやすいかと思います。
現在、この地域海プログラムには18の地域海が参加しています(図1)。14の地域海は、国連環境計画の支援の下で成立しました。地域海は、政府間会議によって意思決定されています。ほとんどの地域海では、政府間で合意された行動計画を有し、この行動計画の実現のために作業計画を設定・実施しています。14の地域海では、この行動計画が法的拘束力のある条約によって支えられています(表1)。条約を制定することによって、海洋環境の保全に対する地域的協力への政治的意思が示されていると考えられます。

■図1地域海プログラムのその場所
(図の境界線は条約・行動計画の境界線とは一致しない)

地域海プログラムは何をしているのか

1970年代の主な国際社会の関心は海洋環境の保全でしたが、1992年の国連環境開発会議において「持続可能な発展」という理念を取り入れた「アジェンダ21」が採択されたこと、その後、持続的可能な開発目標(SDGs)が制定されたことなどを受けて、地域海の役割も海洋環境の保全に基づいた持続的可能な開発へと移行しています。そのため議定書の範囲も陸上汚染源や、統合的沿岸管理、生物多様性保全に関する議定書と幅広く設定されています。条約、行動計画、および議定書の実施のために、各地域海の条約事務局は、地域間・政府間で合意された作業計画を実施しています。
地域海は、多国間もしくは二国間ドナーから支援を受け、プロジェクトを実施することが可能です。例えば、地中海では、各国が陸上汚染源に関する議定書を実施できるよう地球環境ファシリティー(GEF)のプロジェクト支援を受けました。東アジア海行動計画の下では、南シナ海の海洋保全のために作られた戦略行動計画実現のためのプロジェクトを開始しようとしています。
このように、地域海は現場で実際にプロジェクトを実施することができる仕組みです。地域間で戦略や、行動計画を制定するだけではなく、実際にそれを実行に移すことができるのです。この仕組みを支えているのが、地域行動センターです。例えば、カリブ海の地域海であるカルタヘナ条約の下では、生物多様性保全のためのSPAW議定書の実施のために、グアダルーペにある地域行動センターと条約事務所が中心となり、海洋保護地区保安官の地域ネットワークが制定されています(CaMPAMネットワーク)。このネットワークを使い、トレーナーを養成するトレーニングプログラムがあり、19年間でのべ2,000人の保安官が研修を受けました。また、90以上の助成金が海洋保護地区のマネージメント向上のために授与されました。地域間の人的資源の交流だけでなく、SPAW議定書の下に31の海洋保護地区がリストされており、地域海洋保護ネットワークが作られています。
日本も、地域海の1つ北西太平洋行動計画(NOWPAP)に参加しています。加盟国は、日本、中国、韓国、ロシアで、事務局は日本と韓国の2カ所にあります。NOWPAPの下には、加盟国ごとに1つの地域行動センターがあり、日本にも富山に特殊モニタリング・沿岸環境評価地域活動センターがあります。富山のセンター活動の1つに、2008年に4カ国間で結ばれた海洋ゴミに関する地域行動計画の実施があります。海洋ゴミのモニタリングガイドラインの作成や、モニタリングデータの収集、ビーチクリーンアップなどの啓発活動など多岐にわたった活動を行っています。このように、地域海の枠組みの下、実際にインパクトがある環境保全のためのプロジェクトが実施されています。

地域海プログラムとBBNJ

地域海の枠組みは、国連の国家管轄外区域における生物多様性(BBNJ)についての議論でも注目を集め始めています。現在5つの地域海条約が、遠洋域を含んでいます(OSPAR条約、ヌメア条約、バルセロナ条約、CAMLR条約、リマ条約)。しかし、これらの条約が適用されるのは、地域条約の締約国に対してだけであり、現在のところそれ以外の国に対しては法的拘束力を持っていません。このような限界があるものの、地域海条約や地域漁業機構のような既存の地域的アプローチを遠洋での生物多様性保全でも生かすことが可能ではないか、といった議論もあり、今後BBNJに地域海がどのような役割を果たすのかが注目されています。北極海の保護に関しても、北極評議会参加国内で地域海の枠組みを作ることが可能かどうかといった検討が始まっています。

SDGsなどを受けた地域海プログラムの転機

国連環境計画のおよそ40年の歴史の中で、もっとも大きな功績の1つであると言われている地域海プログラムですが、今転機を迎えています。2015年に国連加盟国はSDGsを制定しました。今、地域海の枠組みがどうSDGsの目標14(海洋と海洋資源の保全・持続可能な利用)を中心として持続可能な開発に貢献できるのかを示す必要性に迫られています。また、気候変動とその影響が深刻化する中で、既存の枠組みが海洋の温暖化や酸性化にどのように対応していくのか具体的に示していかなければなりません。地域海に対する各国からの出資に対して、どのような成果が出ているのかを示す時が来ています。(了)

第417号(2017.12.20発行)のその他の記事

ページトップ