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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第416号(2017.12.05 発行)

訪日クルーズ旅客数500万人にむけて

[KEYWORDS]クルーズ500万人時代/日中間観光モデルの創造/片道フライ&クルーズの提案
(一財)みなと総合研究財団(略称 みなと総研)首席研究員、クルーズ総合研究所統括リーダー◆田中三郎

クルーズと聞くと「世界一周、100日間、一人2,500万円」との報道に代表されるように「超豪華でお金と時間に余裕ある人たちの世界。一般庶民には高根の花」とのイメージを抱くが、最近の報道では「中国から巨大なクルーズ船が寄港し乗客の爆買でお店の商品がなくなる」など、わが国のクルーズ事情に大きな変化が起きている。
政府が目標として掲げるクルーズ500万人時代とは、そしてその実現のための方策を提案したい。

訪日外国人旅行

日本のクルーズ元年と言われる1989年(平成元年)以降、クルーズ業界関係者はクルーズ人口100万人達成を一つの目標として取り組んだ。1989年当時15.4万人であった日本人のクルーズ人口は横ばいと微増・微減を繰り返し、昨2016年にようやく24.8万人の過去最多人数となった。しかし、目標の100万人にはほど遠く、関係者の中には日本のクルーズマーケットを「眠れる獅子」と揶揄する者もいるほど停滞感と閉塞感に包まれている。
一方、わが国政府は経済波及効果の大きい観光産業を重要な経済成長分野と位置付け、2003年に観光立国懇談会を開催しビジットジャパン事業を開始するなど、観光立国に向けさまざまな取り組みを展開した。観光立国の一つの指標となる訪日旅行者数は、2013年に1,000万人を達成。2014年には2020年までに2,000万人を目指すとの具体的な目標を設定したところ、2015年に2,000万人の目標達成が視野に入る状況にまで成長した。その後、2016年3月に『明日の日本を支える観光ビジョン構想会議』で「新たな観光ビジョン」を策定し、訪日旅行者数を2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人との高みの目標を掲げた。
2020年4,000万人の訪日旅行者数を達成するための手立てとして存在感を増したのが、クルーズ船を利用する訪日クルーズ旅客の受入れである。訪日クルーズ旅客数は、訪日旅客者数が1,000万人を達成した2013年には17.4万人であり、全体の1.7%に過ぎない状況であった。ところが、2014年には41.6万人(全体の3.1%)、2015年には111.6万人(全体の5.7%)と急増加し、先の「新たな観光ビジョン」では4,000万人の訪日旅客者数目標の内の500万人(全体の12・5%)をクルーズ旅客でカバーするとの目標を掲げた(このことを「クルーズ500万人時代」と称している)。つまり、クルーズ元年より取り組んできた日本人クルーズ人口の増加とは別に、訪日するクルーズ旅客数の増加という新たなる視点の取り組みがわが国のクルーズ事情を大きく変えるところとなった。

急成長する中国クルーズ人口

横浜港に停泊するマジェスティック・プリンセス号

客船によるクルーズ(周遊旅行)は19世紀中ごろにヨーロッパで始まったとされている。1970年前後にはカリブ海などをクルーズする客船が数多く登場し、米国に現在のクルーズビジネスモデルが成立。米国で成長したクルーズはやがて欧州の英国やドイツなどに広がり、最近ではオセアニアやアジアに拡大している。アジアの中でも中国のクルーズ人口増加は著しく、2006年にイタリアのクルーズ船社コスタクルーズ社がコスタ・アレグラ号で中国人を対象に上海発着の上海─済州島─長崎クルーズを24回運航して以来、その後も国際的なクルーズ船社が中国に進出しクルーズ人口を拡大している。CLIA※1は、中国のクルーズ人口を2012年21.7万人、2013年46.7万人、2014年70.3万人、2015年98.6万人、2016年210万人と発表。中国クルーズ関係者は2020年のクルーズ人口を350万人から450万人と推測している。
クルーズが急成長している中国では、2020年に全面的小康社会※2実現を目指すとの目標の下に旅行人口が急増している背景があり、国連統計によると2015年の中国の海外旅行者数(出国者数)は1億1,689万人であるので、その内の1%弱の人がクルーズ船に乗船したこととなる。
中国ではクルーズだけが脚光を浴びているのではなく、海外旅行、特に訪日旅行に人気が集まりその一手段として手軽で安価なクルーズ船観光が利用されているとの見方が実態に近いと思われる。
今後の海外旅行者の増加そしてクルーズ旅行比率の拡大などを鑑みると、中国のクルーズ人口は更に大きく増加するであろうとの関係者発言はうなずける。
外航クルーズ人口でアジア第2の台湾のクルーズ人口は2012年10.6万人、2013年13.6万人、2014年17.8万人、2015年22.9万人と発表(CLIA)。2015年時点でのクルーズ人口はわが国を超え、2012年以降年平均増加率は約30%の成長を示し、台湾人口(2,356万人)の約1%の人がクルーズ船に乗船している。

クルーズ500万人時代を実現するには

2016年の訪日クルーズ旅客数は199.2万人。主として外国籍クルーズ船による訪日であり、その多くは中国発着クルーズによる中国人旅客であった。CLIAによると中国人のクルーズ旅客平均年齢は42.7歳であり、働き盛りの現役世代であることが読み取れる。中国の連続休暇は日本と同じように特定の時期(春節・国慶節など)に集中し、現役世代がそれ以外の時期に連続休暇を取得することは難しく、中国発着クルーズは4泊5日や5泊6日のショートクルーズが中心とならざるを得ない実情にある。
中国発着の4~5泊クルーズで寄港可能なわが国港湾は地理的に九州・沖縄に集中しており、それぞれの港では寄港が激増していてクルーズ船を受け入れる岸壁が不足する等の問題が発生している。クルーズ500万人の目標達成には2016年時点よりさらに2.5倍以上のクルーズ旅客を迎え入れる必要があるが、九州・沖縄港湾でのクルーズ船受け入れ能力増加には限りがあり2.5倍以上の旅客受入は厳しく、また、中国サイドに日本各地の港湾にクルーズ船寄港が可能となるようクルーズ日数を今よりも長くすることを期待・依頼することは困難な状況にもあり、500万人達成のハードルはかなり高いと思われる。
そこで、中国発着のクルーズ船を日本各地の港湾に寄港分散させ西日本での岸壁不足を補う方策として「片道フライ&クルーズ」を提案したい。片道フライ&クルーズとは、クルーズ船と飛行機を組み合わせる旅行商品であり、飛行機を片道利用することにより全体の旅行期間短縮を図り、中国からのクルーズを東日本や北日本まで伸ばしわが国のさまざまな地域への寄港を可能にさせる。例えば上海から北海道までクルーズ船に乗り、北海道で下船後飛行機で上海に戻る。もしくはその逆、飛行機で北海道に来てクルーズ船で帰る。中国から5~6泊の旅行期間の中でヨーロッパ的空間のクルーズとおもてなしの日本を同時に楽しむことができる。新たなる日中間観光モデルの創造とも言える。
さらに、片道フライ&クルーズはクルーズ旅客がわが国で入れ替わるのでクルーズ船を利用する旅客数の増加につながりクルーズ500万人達成にも効果的である。
今回の提案は船会社や旅行会社そしてさまざまな関係者との調整と合意が必要となるが、500万人時代実現に向かう方策の一つとしてスピード感を持ち具体的な取り組みを展開していきたい。(了)

  1. ※1CLIA=クルーズライン国際協会(Cruise Lines International Assoiciation )。国際クルーズ会社60社が加盟する世界最大の国際クルーズ協会。
  2. ※2ややゆとりを実感できる社会。
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