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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第416号(2017.12.05 発行)

世界海上保安機関長官級会合の開催 ~世界的な海洋秩序の維持へ向けて~

[KEYWORDS]海上保安庁/法の支配/人材育成
政策研究大学院大学/海上保安大学校准教授◆古谷健太郎

海上保安庁は世界的な自然環境の変化に伴う災害の大規模化や社会環境の変動に伴うテロや海賊などグローバル化する課題に対応するために、これまで各国海上保安機関が行ってきた各地域における多国間の協力から世界的な協力関係を構築し連携を強化するために世界海上保安機関長官級会合を開催した。

世界海上保安機関長官級会合の開催

海上保安庁はアジア、大洋州、米州、欧州、アフリカから35カ国の海上保安機関の長、実務として海上保安業務を行う機関の長および国際海事機関(IMO)、欧州海上安全庁(EMSA)、アジア海賊対策地域協力協定情報共有センター(ReCAAP-ISC)が参加する初の世界海上保安機関長官級会合を9月14日に東京で開催した。オープニングセッションでは、中島敏海上保安庁長官、笹川陽平日本財団会長より主催者挨拶、石井啓一国土交通大臣の主賓挨拶、その後3部構成で進み、クロージングセッションにおいて、議長総括が取りまとめられた※1
海上保安庁は、これまで日本財団の支援を受けて、北太平洋海上保安フォーラム(North Pacific Coast Guard Forum: NPCGF)やアジア海上保安機関長官級会合(Heads of Asian Coast Guard Agencies Meeting: HACGAM)などの多国間会合を開催するなど、北太平洋の海上保安機関の連携強化やアジアの海上保安機関の人材育成を通じて、法の支配に基づく海上の治安の維持、海上安全や海洋環境保護に精力を注いできた。一方、気候変動に伴う自然災害の大規模化やテロや過激主義など社会環境の急速な変化が世界的な脅威や危険となっていることに鑑み、これまでの地域的な協力関係を世界的な関係へ強化する必要があるとの認識を持ち、日本財団と共同で世界海上保安機関長官級会合を開催することとしたものである。

本会合の様子(海上保安庁長官の開会挨拶)(海上保安庁提供)

検討された3つのテーマ

会合では、海上安全と海洋環境保護、海上セキュリティ、人材育成をテーマとした議論が行われた。まず海洋安全と環境保護のテーマでは、大規模海上災害が発生した際の海上保安機関の緊密な連携の重要性や衛星によるリモートセンシングなど最新の技術を用いた海洋汚染の検出にかかる取り組みのほか、世界的な海洋における捜索救助の協調制度が報告された。次に海上セキュリティのテーマでは、海上犯罪対策における多国間の国際協力の例として、北太平洋における公海漁業の取締りに関する事例や東南アジアやソマリア沖などの海賊対策に関する地域的な国際協力の例が報告された。最後の人材育成に関するテーマでは、国際的な訓練やセミナーの開催状況、第三国における職員の教育や訓練などの取り組みが報告されたほか、各国の海上保安機関の職員がグローバルな課題に取り組むためには、既存の地域国間の協力を越えた新たな枠組みが必要であることが提案された。会合の最後には、参加各機関の全般的な支持を受けて議長総括が公表され、海上保安機関の任務である海上における安全、平和と環境保護は、国際社会の幸福と繁栄に重要な役割を果たすことを認識した上で、世界的な自然環境と社会環境の変化がもたらす大規模な災害や海上犯罪などの脅威に憂慮し、広く対応すべきことが認識された。また、海上保安機関は、これらの脅威に対応する第一義的機関として、これまでの地域的な連携から一歩踏み出した世界的な連携の構築が必要であること、とりわけ、各国の先進的な技術・成功事例や経験などを共有すること、人材育成に関する世界的な協力のあり方を検討していくことが合意された。

迎賓館集合写真(中央が安倍首相、右隣が笹川会長、左隣が石井国交大臣)(海上保安庁提供)

開催の意義と得られた共通認識

この会合の開催の意義は、第一に海上保安機関の地域的な国際協力から地域を越えたさらなる連携が必要であることが認識されたこと、第二にグローバル化時代の人材育成の重要性が強調されたことがあげられる。まず第一点目については、海上保安機関は、限られたリソースで広大な海域における海難救助や海上犯罪の取り締り、海上交通安全の確保など幅広い業務を実施しなければならないため、隣接国や地域国間の協力関係を構築してきた。例えば、海上保安庁は中国、韓国、ロシアなどのほか太平洋を超えて向かい合う米国と犯罪捜査、捜索救助、海上災害などに関する二国間の協力関係を構築してきたほか、NPCGFやHACGAMなどの北太平洋やアジアにおける多国間の国際協力や国際協調の強化に努めてきた。ところが、近年、台風やハリケーンなど気候変動に伴う災害の大型化が指摘され、また、地中海における大規模な移民の問題、アジアに移動した過激主義者による身代金を目的とした海賊やテロ行為など、社会的に影響の強い広域的な事案の発生や、より凶悪な犯罪が海上の治安に対する脅威となっている。このような事案に対して各国の海上保安機関が適切に対処していくためには、地域的な枠組みを超えた世界規模での対話を拡大し、地域を超えた連携の強化を図ることが重要であることが確認された。
次に第二点目の人材育成であるが、これまで、海上保安機関の人材育成は、各国が独自に行ってきたほか、地域的な訓練・研修などの取り組みがなされてきた。海上保安庁も、アジア地域の海上保安機関の職員を中心として、国際協力機構(JICA)を通じた水路測量、海上における捜索救助と環境保護、海上犯罪取締り、海上保安庁と政策研究大学院大学・JICAが連携して行う海上保安政策課程を通じた各機関の政策立案能力の強化支援などを行なってきた。これは沿岸国の主権を尊重し、沿岸国が自らその管轄する海域において権限行使を行い、治安の維持や環境保護にあたるべきであるという日本の政策に基づくものであるが、この実現のためには、海上保安業務に必要な船艇や航空機などのほか、組織において実務を担う職員の人材育成が重要な鍵となる。今回の会合を通じて、グローバル化する現代社会のテロや海賊、大規模化する災害などの問題に適切に対応していくためには、グローバルな視点から解決策を見つけることのできる人材育成が必要であると認識された。将来的にこのような制度が構築されれば、国境を超えて海で繋がる海上保安機関の間で、共通の価値に基づく世界的な国際連携の強化のほか、ルールに基づく秩序の維持や海洋における法の支配の確立が期待できる。

自由で開かれた海を目指して

海洋の安全と秩序の維持は、島国であり海洋に依存する日本にとって重要な問題である。グローバル化する海洋の課題に対して、自由で開かれ安定した海を実現するためには、その脅威に対して第一義的に対応する海上保安機関の地域を超えた世界的な協力と協調が必要である。この第一歩として日本の海上保安庁のイニシアチブにより世界海上保安機関長官級会合を開催したことは、大きな意義があった。(了)

  1. 世界初の「世界海上保安機関長官級会合」の開催。(結果概要)海上保安庁URL http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/post-403.html
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