Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第410号(2017.09.05発行)

編集後記

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

◆9月1日は防災の日である。人々が海や山に集った夏休みの余韻が消える頃、自然の驚異を思い出させてくれる。東日本大震災以降は,海洋による自然災害に対する防災・減災のために、海底地震計の設置拡大、海底調査の推進と技術開発、シミュレーションの方法の発展など、日本の防災研究・技術が、日々向上している。一方、市民ができる防災・減災には、経験と知識の継承と伝承がある。大地震と大津波を記録する神社は沿岸各地にあり、語りは脈々と子孫に伝承されている。この長期的な人間の知恵は、目に見える効果がすぐに現れない。しかし、止めてはいけない。これと同じことが、造船技術や船員の減少傾向で危惧される技能の継承にも言うことができる。海洋科学者の数の伸び悩みも研究の将来が心配になる。海への親しみを育み、海と人の関わりを続けるために海洋人材育成を真剣に考えなければならない。
◆日本人宇宙飛行士として初の船外活動をされた土井隆雄氏からは、「人間-時間-宇宙」を繋ぐ新しい学問「有人宇宙学」創生の興奮を伝えていただいた。宇宙に住む人類がSFではなくなったのである。宇宙スケールは、重力の下で有限な日々を過ごしていると想像ができない。しかし、やはり人も含めて、生命は海に依存することは腑に落ちる。是非お読みいただきたい。
◆海洋立国と言われている日本は、国土である海、とくにEEZの開発・利用・保全に責任を持つ。EEZの形成に重要ないわゆる遠隔離島は、海洋により遠く隔てられてはいるが日本の国土である。海洋インフラ技術推進センターは、EEZの開発拠点となる遠隔離島において、港湾の技術開発や離島の保全と利用など、最前線で日本の海洋開発を技術面で支えていることを、センター長の下迫健一郎氏からご教示いただいた。日本南部の離島は、炭酸カルシウム地盤であり、石灰化と浸食の両者の研究を進めていること、浸食抑制対策技術の開発をしていることなど、まさに国土を支える現場である。
◆種差海岸に隣接する青森県八戸市立種差小学校では、東日本大震災以降、教師も子どもも保護者も、海とかかわることを恐れていたという。しかし、学区内には海とかかわる多様なリソースがあることから、前校長の小野一樹氏は、これらを学校現場に取り組む努力をされてきた。その第一歩は「楽しい・面白い・おいしい」だったそうであるが、児童のアイデアによるスイーツ「コンブレーヌ」や海洋教育のかるた、と聞けば頷ける。これらの海洋教育は、地元の環境事業や地域興しへの寄与も期されている。小学校は地域の中心であることを改めて考えさせられる。 (窪川)

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