Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第410号(2017.09.05発行)

八戸市立種差小学校の海洋教育

[KEYWORDS]海への愛着/体験と味覚/種差景観かるた
前青森県八戸市立種差小学校校長◆小野一樹

八戸市立種差小学校の海洋教育は、震災以降、教科学習が中心だったが、海とかかわる学習や体験活動によって今や学校経営上の大きな柱となっている。
今後も海に親しみ、海を知り、海を守り、海を利用する学習を通して、海と人との関係を理解し、海と人との共生の仕方について気づき、考え、行動する力を身に付ける海洋教育が進むことを望む。

屋根のない学校

筆者が八戸市立種差小学校へ赴任(2014(平成26)年4月)した1年目から、意図的に海にかかわる学習や体験活動をトピック的に取り上げてきた。本校学区には、海浜植物650種、トレッキングコース、ジオパークエリア、3つの漁港と海水浴場、クルージングや釣り体験等、海とかかわることのできるリソースがたくさんある。まずは、この外部リソースを学校現場に取り込むことが大事だと考えたからだ。
種差小学校は、青森県八戸市の南東に位置し、天然芝生地が広がる種差海岸に隣接した児童数20名の複式・小規模校である。東日本大震災以前は、生活科における磯遊び、総合的な学習における海岸清掃・ゴミ拾い等の環境保全活動、1学期終業式を天然芝生地で実施するなどの学校行事などと、海とかかわるさまざまな活動や学習が盛んに行われていた。
しかし、東日本大震災以降、教師も子どもも保護者も皆、3年くらい海とかかわることを恐れていた。校舎内の学習や教科学習が中心だった。しかも総合的な学習では、地域の海の幸を調べる際、パソコンを使った調べ学習で終わりという状態だった。
そこで校舎内の学習だけでなく「屋根のない学校」と称して、海とかかわる活動を取り入れたいと考えた。数年はトピックでも良いから扱い、児童・教師・保護者に、海とかかわる学習や体験活動は、「楽しい・面白い・おいしい」と感じてもらうための海洋教育からスタートさせた。

海への愛着を深めた「種差らしいお菓子づくり」

2014(平成26)年4月、校長室に来賓としてお越しいただいた方の中で、「この地区は、2013(平成25)年に三陸復興国立公園になったのに、お土産品がない」と嘆いた方がおられた。早速、子どもたちにそのことを伝えると、「コンブを練り込んだクッキーはどう?」というアイディアが出てきた。それを知り合いの菓子店に伝えると、1週間後、マドレーヌが学校に届いた。皆で試食したところ大変おいしかった。子どもたちは、「これ、コンブレーヌ! という名前で販売しようよ」という軽いノリで始まったお菓子づくりプロジェクト。平成27年度には、「ふのりクッキー」「海藻マドレーヌ」「ザボンの月」という、ふのりやワカメ、ヒジキなどを練り込んだお菓子を完成させた。
現在は、オリジナルパッケージに3種類詰合せセットで市内のデパートや民宿で販売されている。平成29年度は、全国菓子博にも出品予定をしている。海の幸とのかかわりからのお菓子づくりは、この学区の海の素晴らしさを実感するとともに、地域の海への愛着を深めたものと思われる。

小さい頃からの体験と味覚を大事に

ウニを使ったフランス料理づくり

平成27年度「海洋教育カリキュラム開発」、平成28年度「海洋教育パイオニアスクール」※1の支援をいただいた2年間は、地引網体験や海から学校を眺めるクルーズ体験、箱メガネやスコープを使った磯遊び、砂の芸術活動等、体全体を使った様々な活動を行った。ホッキ貝の生態を調べた後でのホッキ貝パスタ調理、ウニの殻むき体験の後のウニを使ったフランス料理への挑戦等は食べることと食育とを関連させた。ホッキ貝のもつ甘さやスクランブルエッグ風に仕上げたウニの風味は子どもたちの舌、味覚にしっかりと記憶されたものと思う。
2年間で、海に親しむ・海を知る・海を守る・海を利用するという海洋教育の視点で、24単元・42時間の指導計画を作成し、実践記録にまとめることができた。たくさんの海洋教育リソースの存在と活動の仕方が分かったので、今後は他教科との関連とねらいを明確にした指導計画の作成に進み、具体的な子どもたちの姿から、どのような力が身に付いたのかを評価できるようにする。これまでのトピック的な活動の積み重ねを生かし、海洋教育の本質へ迫っていって欲しい。

海洋教育の一つの表現としての「かるた」

平成28年度は、海洋教育パイオニアスクール校として、「屋根のない学校」の地域の方々にさまざまな活動や学習を進めていただいた。同時に、景観学習の看板や建物、文化、気候の特色等の観点を取り入れ、地域住民や大学教授・大学生も加わっての地域探検を実施することができた。この活動は子ども目線の活動となり、子どもが海をどう見ているか、海をどういう存在と感じているのかを知ることにつながった。それは、子どもたちが「かるた」に書いた言葉や描いた絵に表れている。海にかかわる『種差景観かるた』づくりは、海洋教育の活動とともに、海洋教育における発信方法の一つとも言えるのではないだろうか。

子どもたちが描いた『種差景観かるた』

観光、国際化、3R化へ

ウニの殻むき体験学習

この学区は、震災前は県立公園、震災後は三陸復興国立公園に指定された地区で、環境省施設のインフォメーションセンターが開所され、年間30万人以上が訪れるようになった。外国人観光客も増加傾向にある。このような状況を受け、種差小学校が目指す海洋教育は、3つあると考えている。
一つ目は、総合的な学習の時間におけるこれまでの環境教育・環境保全に加えて、海洋教育の視点を取り込んだ体験活動を継続実施していくとともに、種差らしいお菓子や『種差景観かるた』を地域興しへと発展させ、地域の観光に役立ていくことである。さらに、『種差小景観かるたマップ』を作成し、観光客に配布し、地域散策のアイテムにしてもらう計画も進行中である※2
二つ目は、現在5、6年生で実施している外国語活動を、3年後には3年生から学ぶことになる。『種差景観かるた』の英語バージョンを製作し、本校の外国語活動の教材として活用する予定である。
三つ目は、海洋教育の授業や体験活動後に排出されたゴミ、例えば、ウニの殻むき体験時のウニ殻のゴミをそのまま焼却処分するのではなく、肥料化してリサイクルしていく仕組みを地域住民や漁業者と共に構築し、3R化※3を目指していくことである。
このように発展させていくことができる海洋教育は、今や種差小学校においては、学校経営上の大きな柱となっている。今後も海に親しみ、海を知り、海を守り、海を利用する学習を通して、海と人との関係を理解し、海と人との共生の仕方について気づき、考え、行動する力を身に付ける海洋教育が進むことを望む。(了)

  1. ※1「海洋教育カリキュラム開発」(東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター/RCME)、「海洋教育パイオニアスクール」(日本財団/笹川平和財団海洋政策研究所/RCME) /pioneerschool/参照
  2. ※22017年3月13日同小学校の6年生5人が市交通部旭が丘営業所に、『種差小景観かるたマップ』200部寄贈し、種差海岸遊覧バス「ワンコインバス・うみねこ号」での配布を依頼した。(Web東奥、2017年3月14日)
  3. ※33R化=環境と経済が両立した循環型社会を形成していくための3つの取り組みの頭文字をとったもの。リデュース、リユース、リサイクルの順番で取り組むことが求められている。

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