Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第410号(2017.09.05発行)

海洋インフラ技術推進センターについて

[KEYWORDS]海洋開発/遠隔離島/港湾施設
(国研) 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所海洋インフラ技術推進センター長◆下迫健一郎

港湾空港技術研究所では、2014年4月1日に海洋インフラ技術推進センターを設立し、「海洋の開発と利用促進」を技術面から支えていく活動を開始した。
離島を海洋開発・利用の拠点とするためのインフラ整備を技術面から支援し、EEZ内の海洋情報の充実に貢献するとともに、これまでの港湾技術をもとに、新たな海底工学や深海工学の創成とその発展を図っていく。

センター発足の経緯と目的

2013(平成25)年、海洋立国日本の目指すべき姿として「海洋の開発・利用による富と繁栄」が明記された海洋基本計画(閣議決定)が新たに策定され、海洋利用の重要性がますます高くなっています。そこで、港湾空港技術研究所では2014(平成26)年4月1日に「海洋インフラ技術推進センター」を設立し、わが国にとって最重要施策の一つとなった「海洋の開発と利用推進」を技術面から支えていくための活動を開始しました。
海洋インフラ技術推進センターは、センター長、副センター長、上席研究官7名、主任研究官2名の総員11名の体制となっています。私以外のメンバーの専門(研究領域)は、海洋3名、沿岸環境2名、地盤2名、構造1名、新技術2名で、さまざまな課題に対応できるよう、所内横断的な多彩な構成となっております。センターの運営方針は以下のとおりです。
1)海洋の開発・利用の促進のために、海洋の拠点としての離島の役割は非常に重要です。離島を海洋開発・利用の拠点とするためのインフラの整備を技術面から支援します。また、離島を拠点として、EEZ内の海洋情報の充実に貢献します。
2)これまでの港湾の技術をもとに、新たな海底工学や深海工学の創成とその発展を図ります。

センターにおける主要な研究テーマ

北大東島における船舶の係留状況。防波堤がなく波が直接来襲するため、船体の損傷を避けるために岸壁から一定の距離を置いて係船し、乗船客の乗り降りや貨物の荷役は移動式クレーンによって行われている。

センターにおいて現在実施中の主な研究テーマは以下のとおりです。
1)海洋上の孤立リーフ海域に建設される係留施設の利活用に関する技術開発
広大なEEZを有効活用するため、南鳥島、沖ノ鳥島、南大東島、北大東島などの遠隔離島に港湾を設置し、海洋開発の拠点とするとともに、こうした拠点へのアクセスの向上を図る必要があります。そのために、これまで開発してきた沿岸域における波浪変形計算手法をさらに発展させ、孤立リーフ海域の波浪特性を解明するとともに、新たな船舶係留システムを開発します。また、厳しい波浪条件や複雑な地形を有する離島でも適用可能な、港湾建設のための新たな技術開発を行います。
2)遠隔離島における港湾施設等の点検・調査技術に関する技術開発
アクセスの容易でない遠隔離島においては、利用可能な資機材や人員に大きな制約があるとともに、厳しい海象条件下にあることから、供用後の泊地や港湾施設等の維持・管理の方法が課題となっています。特に、台風などによる被災時には被災施設の迅速な調査や点検作業の実施が必要ですが、現状ではその実施が容易ではありません。そこで、遠隔離島独自の制約や環境下において、泊地や港湾施設を限られた人員で容易に実施可能な簡易調査・点検技術の全体システムを開発します。
3)超音波三次元映像取得装置(音響ビデオカメラ)の小型・軽量化および高性能化
ROV(遠隔操作無人探査機)による海底調査等では、これまで光学ビデオカメラによる視認で作業を実施していました。そのため、土煙等の濁りで視界が遮断されると作業を中断し、視界がクリアになるのを待たなければなりません。濁りの影響を受けない音響ビデオカメラを用いることができれば、作業の効率化を図ることが可能となります。しかしながら、従来の音響ビデオカメラは大型で操作性も悪く、ROVに搭載することが困難でした。そこで、カメラの小型・軽量化を図るとともに、高解像度かつ近くを見ることも可能な、高性能な音響ビデオカメラを開発します。
4)離島における炭酸カルシウム地盤の形成と安定性に関する研究
沖ノ鳥島や南鳥島など日本の南部に位置する離島は、サンゴや有孔虫といった生物(石灰化生物)が生成した炭酸カルシウムを母材とする地盤や堆積物によって形成されています。したがって国土保全は、石灰化生物による地盤形成の速度が海面上昇と侵食速度を上回るかどうかに依存しています。そこで、炭酸カルシウム地盤について、その形成過程、移動堆積侵食過程、外部インパクトに対する応答について検討し、地盤・堆積物形成の促進と侵食抑制対策技術を提案します。
これらの研究の実施に当たっては、他の研究機関等との連携・協力も不可欠です。たとえば、3)については、JAMSTECを中心とするSIP次世代海洋資源調査技術開発の一部として、研究に参加しています。また、4)に関しては、国土交通省および内閣府の「遠隔離島における産学官連携型の海洋関連技術開発」の課題として東京大学、五洋建設(株)、(国研)水産研究・教育機構、(一社)水産土木建設技術センター、海洋プランニング(株)と共同で研究を行っています。

サンゴによる地盤形成のメカニズム

海洋を国土として活用するために

海洋フロンティアへの期待は高まっていますが、海洋開発を本気で考えるのなら、海洋を単にフロンティアと考えるのではなく国土として認識することが必要です。海洋を国土として利用するため、離島を海洋開発・利用の拠点として、ふさわしいインフラの整備を進めなければなりません。遠隔離島という言葉もありますが、遠くて不便というイメージのある離島へのアクセスが改善されれば、海洋開発は飛躍的に進展するはずです。海洋インフラ技術推進センターでは、「海洋の開発と利用推進」を技術面で支えていくための活動を積極的に進めて行きたいと考えています。(了)

  1. SIP(Cross-minisectrial Strategic Innovation Promotion Program)=戦略的イノベーション創造プログラム。科学技術イノベーション総合戦略及び日本再興戦略(平成25年6月閣議決定)に基づいて創設。総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔として、社会的に不可欠で、日本の経済・産業競争力にとって重要な課題を選定し、自ら予算配分して、府省・分野の枠を超えて基礎研究から実用化・事業化まで見据えた取り組みを推進する。現在11の課題がある。
    http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/

第410号(2017.09.05発行)のその他の記事

  • 地球と水と月の物語 京都大学宇宙総合学研究ユニット特定教授、宇宙飛行士◆土井隆雄
  • 海洋インフラ技術推進センターについて (国研) 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所海洋インフラ技術推進センター長◆下迫健一郎
  • 八戸市立種差小学校の海洋教育 前青森県八戸市立種差小学校校長◆小野一樹
  • 編集後記 東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

ページトップ