Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第405号(2017.06.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆2010年、名古屋で開催された生物多様性第10回締約国会議(COP10)において、愛知目標11(「2020年までに、沿岸および海域の少なくとも10%は保護地域により保全される」)が採択された。403号で取り上げた南極ロス海における海洋保護区(MPA)設定や現在、国連で議論されている国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全と持続的利用(BBNJ)の準備委員会における公海でのMPA設定の議論もこの延長線上にある。目標年度の2020年は目前に迫っている。
◆瀧澤美奈子氏からは、メキシコのカンクンで昨年12月に開催されたCOP13で、海洋生物多様性の保全に関して、生態学的または生物学的に重要な海域(EBSAs)や海洋空間計画(MSP)などが議論されたことが紹介されている。「愛知目標と持続可能な開発目標(SDGs)の達成を支援する海洋空間計画」と題するサイドイベントの後半では、MPAによらない海域保護手法であるOEABCMs(Other Effective Area Based Conservation Measures)に焦点が当てられたとのことである。カナダでは連邦・州・地方ごとに異なる海域保護メカニズムが存在するため、画一的なMPAに代わる海洋生物多様性の保全を最大にしつつステークホルダーへの影響を最小にするOEABCMsの動きがあるとのことである。カナダの水産海洋省に科学諮問機関を設置し、科学的助言を得るシステムが確立されているという。周辺海域にEBSAsを多く抱える日本でも海洋科学者との連携が必要と思われる。
◆お台場海浜公園における干潟、アマモ、海苔を指標とした環境教育の取り組みについて、森田健二氏よりご寄稿いただいた。児童たちが海苔の手摘みなどの体験活動を通じて、自らの環境リテラシーの能力を高めるという地域に根差した実践は、環境教育のお手本になると感じた。それにしても、毎朝食卓に並ぶ海苔が、木更津の漁師さんたちが「博打草」と名付けるほど、生産管理がむずかしいことを知り、海の恵みに感謝しなければとの思いを新たにした。
◆(公財)環日本海環境協力センター主任研究員の寺内元基さんからは、水質汚染、赤潮や青潮の発生、藻場の消失といった海洋環境問題が、人間が活動する陸域に起因するのであり、森・川・海のつながりの重要性を認識することの重大性を指摘する論稿をいただいた。上流の山の木を使ってサーフボードを作り、その山を下った海でサーフィンをやるとの考えに共鳴するサーファーは多いのではないかと思われ、今後とも海を愛する人々による沿岸環境の保全・改善に向けた取り組みに期待したい。 (坂元)

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