Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第404号(2017.06.05発行)

「本物の力」が子どもたちの目を輝かせる ~大日本水産会が取り組む魚食普及活動「おさかな学習会」~

[KEYWORDS]出前授業/食育/体験
(一社)大日本水産会魚食普及推進センター◆甲斐将大

(一社)大日本水産会では小学生を対象に平成17年度より「おさかな学習会」を始めた。
「おさかな学習会」は主に関東近県で毎年、数校から十数校で開催し、おさかなゼミ、タッチプール、模擬漁体験、PTAおさかな料理教室(希望者のみ)の構成で成り立っている。
学校の授業時間を利用して行い、「海と魚」に親しみを持ってもらうことで、子どもたちにも保護者にも魚を好きになってもらえるように魚食普及活動を実施している。

魚食普及活動のはじまり

一般社団法人大日本水産会は、水産業の振興をはかり、経済的、文化的発展を期することを目的として1882(明治15)年に設立された、日本で唯一の水産業の総合団体です。その中でも大日本水産会の魚食普及活動の歴史は、1977(昭和52年)年に本会内に「おさかな普及協議会」が発足されたことから始まります。講演会や料理コンクール、料理冊子の作成や魚食普及に貢献された方に対する表彰式の開催など、今日まで多岐にわたる活動を行ってきました。現在は「魚食普及推進センター」という組織で魚食普及活動を行っています。
「魚離れ」という言葉は、今では当たり前になってしまいましたが、2009年以降肉類が魚介類の摂取量を逆転し差が拡大しています。世界一を誇っていた水産物供給量は2011年には6位に後退しました。消費者が魚を食べ続けていくためには、魚の安定供給を図らなければなりません。水産業の良好な経営環境を維持していくことが必要です。私たちが魚をたくさん食べることで水産物の需要を増加させることにより、水産業の発展に寄与することができます。
また、成長期の子どもたちが毎日食べることは日本人としての味覚の発達や栄養摂取の面だけでなく、食事マナーや箸使い等、地域の食文化を伝える食育としても大きな役割を担っています。大日本水産会では小学生を対象に平成17年度より小学校での「おさかな学習会」を行い、海と魚に親しみを持ってもらい、魚を好きになってもらうように魚食普及活動を行っています。

海と魚の体験学習「おさかな学習会」

全国各地ではさまざまな内容で子どもたち向けの魚食普及活動が行われていますが、本会が行う「おさかな学習会」は主に関東近県で毎年、数校から十数校で開催しています。これまで2万人近くの児童・教職員・保護者の方々に参加していただきました。おさかなゼミ、タッチプール、模擬漁体験、PTAおさかな料理教室(希望者のみ)の構成で成り立っており、学校の授業時間を利用して行います。これらについて簡単にご紹介いたします。

  • おさかなゼミ=日本の海洋、水産資源、水産業、魚の栄養、調理メニューなどを紹介し、海や魚を知り、食べることの大切さを学んでもらう「おさかなゼミ」では、大型スクリーンで説明、質問を受けながら行われます。おさかなクイズや漁業の様子をビデオで見たり、また実際の漁具に触れる体験、『おさかな天国』の歌も流すなど、各学年の子どもたちが興味を持って取り組めるようにしています。
  • タッチプール=生きた魚を活魚トラックで学校に運び、プールに入った魚たちに触れてもらいます。主に神奈川県の三浦半島近海で獲れたサメ、エイ、タコ、ヒトデ、ウニ、イシダイ、イセエビなどの海の生き物たちです。『タッチプールの魚たち』というパンフレットを児童に配り、事前・事後学習に役立てていただいています。
  • 模擬漁体験=約3kgのカツオ模型と漁で実際に使用するものと同じ竿を使って行う「カツオの一本釣り体験」、魚の模型をシートの上に並べそれに向かって網を投げる「投網体験」を行い、実際の漁業の大変さ・おもしろさを感じてもらいます。
  • PTAおさかな料理教室=開催小学校の希望があった保護者を対象に行います。旬のお魚をプロの板前が指導しながら参加者全員が捌き、板前が教える魚料理を試食します。参加者には話を聞いてもらいながら、ちょっとした手間で魚料理がおいしくできる調理のコツや楽しさを体験してもらいます。料理冊子等を配布し家庭に帰った後も、魚料理や水産業のことを詳しく知ってもらうようにしています。 「おさかな学習会」で一番人気があるのはタッチプール体験です。サメのざらざらした肌触りやタコのぬるぬるした感触や吸盤が気に入る子どもたちが多いようです。最近では山や川、海などの自然の中で遊ぶ子どもたちが減ってきました。普段、自分たちが食べている物がどういう形をしているのか、どこにいるのか、それらがどのようにして私たちの食卓まで運ばれているのか。実際に目で見て肌で感じたうえで理解することができれば教科書や授業の学びを本物の力で大きく膨らませることができます。また、模擬漁体験で漁師がどのように魚を獲っているのか体験したり、おさかなゼミで漁の様子を動画で見ながら水産業について学ぶことでより理解が深まっていると感じています。この日の体験は家庭でも話題になっていることが開催後に行うアンケート調査でも分かります。子どもたちと保護者が「おさかな学習会」をきっかけに魚介類や水産の世界にもっと興味をもってくれればと期待しています。
タッチプール体験投網体験PTAおさかな料理教室

子どもたちの未来のために伝えていきたいこと

おさかな学習会を通じて感じるのは、子どもたちは"魚が好き"だということです。魚離れといわれている昨今ですが、実際に小学校で子どもたちに「魚は好きですか」という質問をするとほとんどの子から「好き」「おいしい」という答えが返ってきます。PTAおさかな料理教室に参加して頂いた方へのアンケート調査においては、子どもたちの魚介類摂取状況についての質問に対して「魚介類をもっと増やしたい」と回答した人は約90%にものぼりました。子どもの時に美味しい魚料理を食べる経験をすることで、一生忘れない味にしてほしいと思います。
おさかなゼミの最後には毎回子どもたちに「You are what you eat」と伝えています。体に良いもの・悪いもの、自分が食べたものはすべて自分自身を形成するものとなります。子どもの時の食事というのは、親や周囲の大人たちの支えなしには成り立ちません。私たち大人が正しい食生活や魚食の大切さを伝えていくことで、将来子どもたちが健康的な生活を送ることができ、水産業だけでなく日本の一次産業の振興へと繋がっていくのです。目に見えた効果というのはなかなか表れにくい活動ではありますが、今まで経験したことのない知らなかったことや、魚はこんなにも美味しいものなのだということを一人でも多くの子どもたちに伝えていけるように、これからも魚食普及活動に取り組んでいきたいと思います。

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