Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第398号(2017.03.05発行)

編集後記

山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌

◆2011年3月11日から早6年目となる。復興の2文字のとらえ方は人によりさまざまであるし、分野によってもその過程には時間のズレが見え隠れする。こうした現状で、現場からの生の声に耳を傾け、今をどう感じているかを確認し、今後どうするのかについて思いをめぐらすことは不可欠だろう。
◆宮古市議会議員の橋本久夫氏は、津波によるだけでなく浜が経済開発と近代化の名のもとに大きく失われ、森から海へとつながる循環を断ち切ってきた日本の姿に大きな疑問を呈しておられる。津波後すぐに「学ぶ防災」プロジェクトを立ち上げ、防災を現場で学ぶことの重要性を提案されてきた。現在、三陸の浜や海は防潮堤建設により犠牲になろうとしている。工学的な防潮堤ではなく、「心の防波堤」を堅持することこそが大切とする姿勢と行動指針は傾聴に値する。橋本氏は地元の宮古が歴史的に育んできた重層的な海洋文化を「地域の宝」とすることを提唱されておられる。大きな拍手を送りたいメッセージである。
◆リアス・アーク美術館・学芸係長の山内宏泰氏は、美術館・博物館が担うべき使命と社会的責任について、明快な構想を明らかにされた。その結晶が『東日本大震災の記録と津波の災害史』常設展示である。3.11は貞観以来の未曽有の災害とするのではなく、生活・文化・人生の記憶を未来に継承すべき契機と位置づけておられる。被災して残されたモノはゴミやガレキではなく、被災者が主観的に得た感覚と体験の残存物であり、美術館・博物館はこれを共有するための装置である。リアス・アーク美術館のある宮城県気仙沼市は津波常襲地域であったわけで、そのことが地域文化として定着してこなかった。それだけに、災害に強い地域文化づくりが「未来への」遺産となる。これは巨大な構造物ですべて安全・安心とする考えに真っ向から対決する思想である。住民の主観性を展示に生かす発想はこれまでなかった。それだけに災害情報の共有と拡散に大きな礎となるものといえるだろう。
◆3.11によりもっとも大きな打撃を受けたのが水産業である。地域の復興には、海と向き合う水産業の立ち直りが不可欠である。2016年3月、岩手、宮城、福島の水産業者が広域的に連携した取り組みの核となる「フィッシャーマンズ・リーグ」が設立された。三陸の水産物のブランド化、流通の促進を国内だけでなく海外への発信を強化するさまざまな取り組みを民間主導で実践するのは高橋大就氏を事務局代表とする「東の食の会」である。水産物ブランド化のターゲットを三陸ワカメとカキに照準を合わせているという。私は重点的な取り組みとともに、少量生産だが経済効果の大きな魚介類をも対象とした多様な取り組みへと拡大されることを願ってやまない。3.11から6年目。地域住民が核となり国内、そして世界へと発信する起動力が大きく胎動していることを熱い思いで感じることができた。東北頑張ろう。 (秋道)

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