Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第398号(2017.03.05発行)

三陸から水産業に革命を起こす

[KEYWORDS]三陸の水産業/フィッシャーマンズ・リーグ/地域ブランド確立
(一社)東の食の会事務局代表 ◆高橋大就

東北地方の水産業は、震災で壊滅的な被害を受けた。
岩手、宮城、福島の水産業者が地域の枠を超えて連携する「フィッシャーマンズ・リーグ」は、三陸を復興させ、水産業全体を自ら変えようと、次世代を担うリーダーたちの育成と「三陸ブランド」の確立を目指している。

水産業者たちによる「フィッシャーマンズ・リーグ」誕生

水産業のリーダー達のネットワーク「フィッシャーマンズ・リーグ」
http://fml.or.jp/

東日本大震災により、東北三陸地方の水産業は多大な被害を受けました。インフラは壊滅的に破壊され、放射能の問題や風評被害も起き、状況は厳しくなる一方でした。震災直後、私たち(一社)東の食の会※1では、まずは販路の回復を第一課題として、「食べて応援」に代表されるようなチャリティー活動や、生産者側と食品関連企業など「売る側」とのマッチング事業などを行いました。しかし、この未曾有の危機に際して、このように外から応援するだけでは不十分であることは、明らかでした。東北の水産業を産業として復興させるには、ビジネスとしてしっかり成り立たさなければなりません。そして、地域が長期的に復興していくためには、そこに生きる「人」こそが、鍵となるのです。
かつて日本の漁獲高は世界1位でしたが、90年代以降は順位を落としています。実は、震災が起きる以前から日本の水産業はすでに斜陽産業で、後継者不足など、構造にさまざま問題を抱えていたのです。ならば、震災を逆に起爆剤にして三陸から水産業を変えよう、次世代の水産業を牽引する人材を育てようという機運が高まりました。そこで(一社)東の食の会では、キリングループと(公財)日本財団による「復興応援キリン絆プロジェクト」の助成のもと、東北の漁業・水産加工業の新しいリーダーたちを育成するために、合宿形式のワークショップ「フッシャーマンズ・キャンプ」を開催しました。キャンプには、前向きな意思を持った水産業者が多数参加してくれ、各業界で活躍する講師を招いての研修会などを行いました。そして数度にわたって開催したキャンプを経て、2016年3月、「フィッシャーマンズ・リーグ」(事務局:(一社)東の食の会、(一社)RCF)への設立へとつながったのです。

三陸/SANRIKUブランドの確立

タイで開催された展示会でSANRIKUブランドを掲げる三陸牡蠣を世界的に有名にすることを目指す

フィッシャーマンズ・リーグは、岩手、宮城、福島の水産業者たちが、県や地域といった行政枠の垣根を越えて、自分たちから水産業を変えたいとの思いで作った団体です。メンバーたちは、「3K(かっこいい、稼げる、革新的)」をキーワードに掲げ、自分たちでプロデュースビデオ※2を作成したり、東京でイベントを行うなど、各自が積極的に活動しています。
フィッシャーマンズ・リーグ全体としては、まずは「三陸/SANRIKU」ブランドの確立を目指しています。斜陽産業である水産業を立て直し、次の世代に残すためには、水産業が「稼げるビジネス」である必要があります。そのために、世界に通用するブランドを生み出すことが必要不可欠です。
実は、三陸の認知度や三陸の水産品に対する評価は、決して高くはありません。例えば、牡蠣は三陸を代表する特産品ですが、広島の牡蠣のほうが有名です。まして、世界レベルで見ると、三陸はまったく知られていません。せっかく良いものがあっても、ブランド力がないと評価されません。フランス、シャンパーニュ地方のシャンパン、日本の神戸ビーフのように、三陸の水産品も世界的に認知される地域ブランドにならなければなりません。
そこで、フィッシャーマンズ・リーグでは、特に、三陸牡蠣と三陸ワカメの2つを前面に打ち出して、ブランドプロモーションのために、食の展示会への出展、商談会への参加、試食会などのイベントを行っています。国内だけではなく、海外にも「三陸/SANRIKU」ブランドを発信し、認知拡大を目指しています。例えば、ニューヨーク、パリ、香港などの最高級オイスターバーで三陸産の牡蠣が並んでいれば、ブランドの逆輸入という形で日本国内でも有名になれます。もちろん、同時に、地元にも特産品がしっかり根付いていることも重要です。「三陸に行ったら、やっぱり牡蠣とワカメだよね」と誰もが言うようにしたいのです。東京オリンピックが開催される2020年には、三陸の牡蠣やワカメがブランドとして知られていて、外国からの観光客がそれらを求めて現地を訪れるよう、三陸のよさを発信したいと考えています。ですから、国内、国外の両方でしっかりプロモーションをしていくことが重要です。その一つとして、三陸をPRするビデオ※3を作成しました。三陸ブランドとはどういったものかを日本語と英語でまとめてあるので、皆がこのビデオを広めれば、必然的に三陸ブランドについての正しい情報を発信できるというわけです。

漁師が憧れの職業に

震災前の三陸では、漁師になりたいという思いで水産高校に入ってくる生徒たちはほとんどいませんでした。ところが、フィッシャーマンズ・リーグのメンバーの活躍を目にした生徒たちは、彼らに「かっこいい」と憧れを抱いています。最近では、漁師を目指して水産高校に入学する生徒が増えているそうです。これは、非常に喜ばしいことです。
他の地域でも、産業を盛り上げるためにさまざまな動きが出ていますが、三陸では「あの震災を無駄にしない」という強い思いを皆が共通して抱いています。それが、三陸ならではの強みだと思います。このような強い覚悟を持って人々が集まっている地域は、世界のどこにもないはずです。
第二次世界大戦後の日本で松下幸之助や本田宗一郎といった人物が次々と出てきたように、東日本大震災を機に東北から次世代のリーダーとなり、新しい産業を作る人物が出て来る、それがフィッシャーマンズ・リーグのメンバーであると感じています。またリーグのメンバーには、地元の漁協関係者もいます。漁協や地域を無視して、やみくもに既存の枠組みを壊そうというのではありません。実際、リーグでも宮城県漁協とコミュニケーションを取りながら活動して、海外での販路開拓なども共同で行おうとしているところです。三陸の皆で復興しなければ意味がありません。一緒に地域全体を活性化させよう、東北から世界を変えよう、それが私たちの思いです。(了)

  1. ※1東日本大震災からの東日本の食品産業の復興と創造の長期的支援を目的とした一般社団法人
  2. ※2「わかめ漁師 阿部勝太」https://www.youtube.com/watch?v=1WMkSiHUq5M
  3. ※3「三陸/SANRIKU」https://www.youtube.com/watch?v=Bibwny53kpE

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