Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第373号(2016.02.20発行)

海事普及会の取り組みについて~船を学ぶ学生による海事教育~

[KEYWORDS] 海洋教育/海事広報/進路教育
東京海洋大学海事普及会代表(海洋工学部海事システム工学科3年)◆後藤祐希

東京海洋大学の課外活動団体である「海事普及会」は、50年以上にわたって地方の学校での海事講演会活動を行ってきた。
海事産業の知名度不足が課題とされるなか、地方では子供たちが目にする職業、産業が多くはなく、進路教育の材料が不足している。このような現状があるなか、地方での進路教育と社会科教育の一環とした海事普及活動が海事産業の発展に有効であると考える。

海事普及会とは?

2015年は「海の日」施行20周年、三菱商船学校開学・海技教育開始140周年と、海事業界にとって特別な1年でした。それに合わせて、各地で海洋にまつわる行事が開催され、海洋教育推進の機運も一層の高まりを見せています。そのなかで私たち船を学ぶ学生もこの機運を支え、学生の立場から社会における海への理解を広めようと海事普及活動に取り組んできました。
海事普及会とは、日本における海事産業の重要性を多岐に広報し、海事・海洋分野の普及・振興を目的に活動をする東京海洋大学の課外活動団体です。1957年に東京商船大学(東京海洋大学の前身)に設立され、2016年で設立59周年を迎えます。主な活動として各種イベントでのブース出展や体験教室、地方の学校での海事講演会など独自企画のほか、各海事団体、海事企業とのタイアップや協力事業など幅広い分野において活動をしております。2015年1月には国会議員約360名と海事産業120社超で組織する「海事振興連盟(衛藤征士郎会長)」から「ボランティア事務局」の任命を受けました。同連盟開催の「年齢制限のない若手勉強会」の大学内での告知、海事資料や政策資料の配布などを通して、海事産業と学生とを繋ぐ架け橋として活動しております。

地方での海事普及活動

海事普及会では50年以上にわたり、地方の学校をまわって海事の重要性を説く講演活動を続けております。2015年は山形県米沢市の九里学園高校(60名)、椎名学園米沢中央高校(117名)と南陽市立赤湯中学校(2学年115名)の計3校を訪問し、海事講演会を開催しました。講演では日本の各種輸入依存度から海運の重要性を説明し、商船系学校の授業や魅力を紹介しました。
講演を聞いた生徒からは、商船系学校を卒業した後の進路についての質問や乗船実習に関する質問が相次ぎ、海運会社に内定した学生が回答したほか、航海科、機関科ともに自らの専攻の魅力について答えました。米沢市、南陽市は山に囲まれた内陸部ではありますが、生活を支える衣食住エネルギーのほとんどが船によって運ばれている現状に、生徒らは強い関心を示していました。赤湯中学校の生徒さんからは「2学年後学期から始まる進路学習や職場体験の前に、普段目にしない海の仕事をすることができ、面白かった」「南陽は海から遠い場所であるが、身の回りのものが海外から運ばれていることに気づいた」との感想が聞かれました。

■小学校を訪問しての講義(2014年石川県にて)

■受講生の様子(2015年山形県米沢中央高校)

■手旗信号の様子(2015年山形県南陽市立赤湯中学校)

■親子で学ぶ"海と船の教室"の取り組み(2015年船の科学館、東京)

地方での海事講演会から得られた示唆

訪問先の学校、教育委員会関係者からよく聞かれたのが、「進路教育と社会科教育として海事産業や大学について紹介してほしい」という声でした。特に2015年に訪問した山形県米沢市、南陽市においてはその声が強く、理由として、地方では子供たちが目にする職業や産業が多くなく、進路教育の材料になるような経験が不足しているという現状が挙げられました。加えて、昨今主流となりつつあるグローバル化、国際的に通用する人材の育成といった視点から、広い世界に子供たちを触れさせ、広く深い視野を持ってほしいという希望も聞かれました。
海事分野は国際貿易や経済安全保障といった国際的役割を担い、また、海運、造船、舶用工業、倉庫、保険...と、海事クラスターの広がりは自動車産業にも匹敵するものです。海事分野の話題というのは、このような地方教育現場の要望にまさしく沿うものではないでしょうか。一方、海運や造船をはじめとする海事産業の間では人材不足が大きな問題とされており、その一つの要因として認知度不足が挙げられています。「教えたい側」と「聞きたい側」をマッチングすることにより、両者の問題の解決が図れると考えられます。海事の広い世界を紹介する進路教育の面、貿易やエネルギーなど社会科教育の面、2つの切り口での海事普及により、地方から海事への理解を興していくことができるのです。

おわりに

日本は四方を海に囲まれ、食糧・エネルギー資源の多くは船舶によって運ばれています。しかし、このことを日常生活で認識することは少なく、海事の絶対的必要性が説かれることはそう多くありません。海事業界では教科書への海洋分野の記載を目指して様々な活動がなされていますが、海運に支えられる日本の現状を正しく認識することから新たな発展が生まれます。「海洋国家」という考え方が日本人の思考の根底に流れるような、そういった未来が訪れることを願って止みません。
私たちは経験の浅い学生ではありますが、海事産業、特に海技士の登竜門に立つ学生です。船を学ぶ学生のお話が子どもたちの心に残り、海を目指そうと思ってくれる後輩を生むことが私たちの目標です。学生としての親近感を活かした海事普及活動を追求してまいります。(了)

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