Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第363号(2015.09.20発行)

第363号(2015.09.20 発行)

海と人とをつなぐ環境学習

[KEYWORDS] 沖洲人工海浜/ルイスハンミョウ/浜辺へのふるさと意識
沖洲海浜楽しむ会、Gata girl◆野上文子

徳島県の吉野川河口に位置する沖洲地区に、希少種「ルイスハンミョウ」の生息地を代替えすることを目的に、沖洲人工海浜が造成された。
しかしながら地域の人の浜辺への関心は低く、私たちは地域の子どもたちに学習会を継続して実施し、この海浜にふるさと意識を持ち、「私たちの海」という想いへとつなげたいと思っている。


いま注目の「沖楽会(沖洲海浜楽しむ会)」

■沖洲人工海浜

■ルイスハンミョウ(イラスト:和田賢次)

徳島県の吉野川河口に位置する沖洲地区に、全国的にも珍しい海浜があります。かつての沖洲地区には、美しい松が並ぶ海浜浴場があり、地域の人で賑わっていました。しかし現在は、マリンピアの埋め立て事業や高速道路の建設が進み、すっかりその姿を変えてしまいました。沖洲人工海浜は、防災や事業によって埋め立てられ、消失する希少種「ルイスハンミョウ」※1の生息地を代替することを目的に、2010年に造成されました。
この海浜は、波が静かで水質もよく、干潟に住むカニなどの動物や、海浜性の植物も豊富で、遊び、憩い、学習するには最適な海浜です。またルイスハンミョウが生息している海浜という点が最大の特徴で、世界でも類を見ない海浜です。しかしながら、造成当時から人と海浜のつながりが薄く、海浜が造られ5年を経た今でも、依然として地域の人の浜辺への関心は低く、「私たちの海」といった想いは希薄です。
私たちは、地域の皆さんに沖洲人工海浜が愛され、ルイスハンミョウの保全にも関わっていただけるようになることを願い、「沖洲海浜楽しむ会」(通称、沖楽会)をつくりました。この会には、市民、理学・工学の研究者、技術者、大学生、公務員らが入会しており、この沖楽会が核となって、行政、市民、専門家らによる協働の取り組みが行われています。
具体的には、沖楽会では、(1)ルイスハンミョウの保全方法を確立させるための研究と、(2)ルイスハンミョウや沖洲人工海浜の魅力を紹介するための行事を行っています。(1)については、毎年、世界初!の知見を発見し、論文にまとめ発表しています※2。また(2)についても、ルイスハンミョウの観察会や、夜の海浜で虫観察、浜辺での星空観察など、この海浜でしかできないさまざまなイベントを企画、開催しています。ここでは、昨年度から新たに始めた学童保育所との活動についてご紹介させていただきます。

ふるさとの浜辺をもう一度

■沖洲人工海浜に近い学童保育所における子どもたちとの学びの風景

沖洲人工海浜に近い学童保育所に初めて伺ったところ、親の関心が低いためか、実際に浜辺に行ったことのある子どもは少数でした。しかし、学童保育所の先生は私たちの想いに共感してくださり、学童保育所との学習の機会をつくっていただきました。
私たちは、学童保育所の子どもたちとの活動には、(1)対象者を固定することで、学びや気づきをより深めることができる、(2)先入観のない子どもたちの方が、沖洲人工海浜に「ふるさと意識」を持ってもらいやすい、(3)子どもから友だち、保護者へとその気づきが広がるということを期待しました。特に、ここでいう、「ふるさと意識」とは、身近にあって、楽しい、落ち着く、誇りに思う、大人になっても懐かしい、大切にしたいといった意識のことと私は考えました。幼児期の体験は大人になっても覚えていることが多く、もし地元を離れても、ふとした瞬間にふるさとの浜辺(ここでは沖洲人工海浜)を思い出して欲しいという想いが込められています。

学童保育所での環境学習

学習会は月1回、土曜日に行い、学年は小学校1~6年生までで、毎回25名ほどの子どもが学習会に参加してくれました。学習内容は、まず沖洲海浜がどこにあるのか?なぜ造られたのか?どんな場所なのか?について、私たちが作ったパズルやクイズでワイワイと楽しく学びました。室内でも、海藻を使った押し葉づくりを通して、さまざまな色や形をした海藻に触れたり、テングサで寒天を作り、食しました。特に、徳島県小松島市の和田島産のちりめんじゃこを使った『ワダモン』では、小さなモンスター(イカ、タコ、魚などの赤ちゃん)を探すことに子供から大人までが夢中になっていました。また、『あさり姫』という学習プログラムでは、アサリの生態をクイズやすごろくで学んだ後、浜辺で各々の子供たちに、アサリを渡して、"マイ・アサリ"として、竹筒の中で育てました。子どもたちはアサリの部屋となる竹筒作りやアサリの成長を記録し、最後には美味しく頂きました。沖洲海浜には4回ほど足を運び、釣りや生き物探しなども行いました。
苦労したことは、幅広い学年の児童全員が楽しく学ぶことでした。しかし、子どもたちが純粋に、驚いたり、面白がったりする様子を見ていると、私は「もっと浜辺の面白いところを教えたい!」という気持ちになるのでした。また、学童保育所の先生方も意欲的に取り組んでいただいたり、子どもたちは学んだことを親や友だちに話をしているらしく、期待していたような学びの広がりも生じているようで、うれしく思っていました。
このように、ここで学んだ子どもたちが浜辺に「ふるさと意識」をしっかりと持ち、彼らを中心に、ルイスハンミョウの浜辺が見守られ、地域の人に愛される浜辺となるように、沖楽会の学童保育所の活動を続けていきたいと、私は思っています。(了)

● 沖洲海浜楽しむ会 https://ja-jp.facebook.com/tokushima.okirakukai/
※1 ルイスハンミョウ=Cicindela lewisi ハンミョウ科肉食性の甲虫。絶滅危惧II類(VU)に指定。(日本の環境省が公表した昆虫類のレッドリスト)
※2 発表文献
・海浜性昆虫ルイスハンミョウの生息環境に及ぼす植生の影響について;萬宮竜典,岡田直也,野上文子,渡辺雅子,上月康則,河井 崇,平成25年度土木学会四国支部第19回技術研究発表会講演概要集, Ⅶ-14, 2013.5
・人工海浜におけるルイスハンミョウの分布に対する植生と標高の影響;渡辺雅子,上月康則,岡田直也,野上文子,河井 崇,披田 毅,大塚弘之,土木学会論文集B2(海岸工学) 69(2), I_1246-I_1250, 2013
・創出された海浜における希少種ルイスハンミョウの保全について;渡辺雅子,山本龍兵,采女尚寛,上月康則,日本生態学会第62回全国大会,2015.3

第363号(2015.09.20発行)のその他の記事

ページトップ