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第362号(2015.09.05発行)

第362号(2015.09.05 発行)

カツオの不漁現象と国際的漁業管理

[KEYWORDS] 回遊/過剰漁獲/熱帯まき網漁業
茨城大学人文学部市民共創教育研究センター客員研究員◆二平 章

カツオは熱帯域を産卵場とし、春から秋に日本近海域へ北上来遊する季節的来遊種であり、古くから日本人に愛されてきた。しかし、1990年代以降、日本近海の漁獲量減少が顕著であり、2014年は戦後最大の不漁年となった。
一方で、近代装備を搭載した熱帯まき網漁業では、海外船の隻数増加に歯止めがかからず熱帯域での漁獲圧力が増大し続けている。カツオを人類の食糧資源として有効に活用するためにも、熱帯まき網漁業の資源管理体制を強化していくことが重要な課題である。


日本近海へのカツオの北上回遊

■カツオの北上ルート

カツオは日本近海域に春から秋にかけて来遊する典型的な季節的来遊種である。熱帯から亜熱帯海域で生まれたカツオは成長に伴って次第に北方に回遊する。カツオにとっての北上回遊は、餌の少ない熱帯域から日本近海のイワシやオキアミなどのおいしい餌を求めるグルメの旅でもある。北上回遊ルートには黒潮沿いに西まわりで北上する黒潮ルート、紀州の南沖から来遊する紀州沖ルート、マリアナ・小笠原・伊豆諸島沿いに北上する伊豆・小笠原ルート、伊豆列島東側の太平洋上を広く北上する東沖ルートに大別される。
黒潮ルートを北上する満1歳・体重1.5kgの魚群は、2月にいったんフィリピン・台湾沖のいわゆる「黒潮源流域」に姿を現し、3月から4月には種子島周辺に北上、さらに黒潮の流れに沿って東進して足摺岬沖、室戸沖、潮岬沖を経て5月には伊豆・八丈島近海へ来遊する。そこで小笠原方面から北上してきた魚群と合流して、6月頃には犬吠埼沖の黒潮続流域に集合し、さらに7月頃には三陸沖にまで北上して夏を過ごす。秋には釧路沖の親潮水上の表層暖水部にまで分布を広げ、栄養を蓄えて3kg以上の体重になって10月から11月には再び亜熱帯から熱帯海域にまで南下して、春の産卵活動に備える。

日本近海の不漁

■中西部太平洋におけるカツオ漁獲量

古くから営々と続いてきた日本近海のカツオ漁であるが、近年、どうも来遊するカツオの様子がおかしい。近海での漁獲量が年々減少してきている。春、水温上昇とともに高知県沖や和歌山県沖の黒潮の縁辺部に現れる「上り鰹」が近年少なくなった。また、秋に、三陸沖の親潮前線付近まで北上し、皮下脂肪をたっぷりと蓄えて南下する「戻り鰹・トロカツオ」も姿を消した。
毎年、春の日本沿岸カツオ漁は黒潮の縁辺部において沿岸小型船のひき縄漁からはじまる。ひき縄漁は3月から5月が最盛期であるが、1990年代になる頃から来遊する魚群量が減りだし、とくに2000年代に入ってからは減少が著しい。とくに2009年2011年2014年は極端な不漁現象に見舞われた。2014年の漁獲量は、宮崎・高知・和歌山・三重県・八丈島は軒並み過去最低、千葉県は過去最低を若干上回るだけの低水準となり、全国的には史上最悪の大不漁となった。高知・和歌山両県では県民が楽しみに待つ春の「カツオ祭」も中止に追い込まれている。
日本近海における不漁現象は、沿岸ひき縄漁業ばかりではない。「土佐の一本釣り」で有名な100トンクラスの近海一本釣り漁業では、すでに1980年代末から90年代初めの頃から起こっている。海域別のカツオ漁獲量の平均偏差時系列によれば、黒潮ルートにあたる奄美・屋久島・沖縄周辺を含む南西諸島海域と、紀州沖ルートにあたる四国沖海域では1990~91年を境に明らかに漁獲量は連続的なプラス偏差からマイナス偏差へと移行した。漁獲量のマイナス偏差への移行は伊豆・小笠原ルートにあたる伊豆小笠原海域では1987~88年に、三陸沖海域では2000~01年に起きており、日本近海全域においてカツオの漁獲量減少が著しい。

熱帯域におけるカツオ資源の管理強化を

熱帯域の大型まき網漁業が大半を占める中西部太平洋全体のカツオ漁獲量は1980年に40万トンであったが、その後、急激に増大を続け2013年には史上最高の180万トンを超えた。まき網船隻数を抑制しようという日本政府の主張にもかかわらず、諸外国の大型まき網船隻数増加には歯止めがかからない。中西部太平洋のまき網船数は2000年の157隻から2014年には283隻まで増加してきている。隻数増加ばかりではない。熱帯まき網漁業では、船の大型化や漁網・魚群探索用機器装備類の近代化・高度化によって漁獲性能が向上している。特に熱帯まき網船は人為的に魚を集める膨大な数の人工浮き魚礁装置(FADs)を使用し、小型のカツオ・メバチ・キハダを多獲するほか、魚群探索にヘリコプターを用いるなど90年代以前に比較して漁獲性能が急激に増大し続けている。
熱帯の島々の国の沿岸漁業者や、日本同様カツオ分布回遊の縁辺域であるニュージーランド諸国からも「近年カツオが減ってきている」との声が出されている。長く熱帯漁場へ出漁してきた日本の竿釣船漁労長らの話によれば、80年代以前に熱帯域に分布した魚群から見たら、近年は格段と群れも小さく、魚群の数も少なくなったという。
熱帯まき網漁業に参加する各国がこのままの漁獲を続けていくならば、いずれ熱帯域でもカツオ資源が枯渇し熱帯まき網漁業自体も経営困難に陥るであろう。熱帯域のカツオ資源を人類の食糧資産として有効に活用するためにも、熱帯まき網漁業の資源管理体制を強化していくことが重要な課題である。(了)

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