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オーシャンニューズレター

第357号(2015.06.20発行)

第357号(2015.06.20 発行)

函館市国際水産・海洋総合研究センターについて

[KEYWORDS]町おこし/水産・海洋研究/市民
(一財)函館市国際水産・海洋都市推進機構推進機構長/センター長◆伏谷伸宏

本誌244号(2010年10月5日発行)に『函館の「水産・海洋」による"まちおこし"』というタイトルのもと、函館市で進められていた「海をテーマとするまちおこし」について紹介させていただいた。
今回は、この運動の大きな目標であった「研究センター」が完成し、昨年6月から供用が開始されたので、その概要と役割、および今後の活動について述べたい。


研究センターの誕生

■写真1:函館市国際水産・海洋総合研究センター全景

■写真2:スルメイカの卵(写真提供:桜井泰憲特任教授)

2014年6月2日(月)午前10時から、北海道知事、北海道選出の国会議員、を始め、300名余りの各界の招待者の出席のもとセンターの開所式が行われた。この模様は多くの報道機関により紹介されたが、開所式後には一般市民にも公開されたため、毎日多くの見学者が訪れた。また、開所式に合わせて、海洋研究開発機構のご好意により、「しんかい6500」の母船調査船「よこすか」(4,439t)を新装された岸壁に寄港していただいた。一般公開をしたところ、悪天候にもかかわらず、多くの市民が見学に訪れた。なお、昨年の開所から本年3月までの見学者数は2万人に達した。
センターは写真1のようなユニークな4階の建物で、函館湾の最も外側にある旧函館ドック跡地に建設された。また、新造された北海道大学水産学部所属の練習船「おしょろ丸」(1,998t)と「うしお丸」(286t) および北海道立函館水産試験場の試験調査船「金星丸」(151t)の母港である水深6mの岸壁と調査船用の2階建研究棟を備えている。一方、函館湾外から採取した新鮮な海水を濾過して実験室や飼育室に供給して、常時清浄な海水を使えるシステムが完備している。1階のエントランスホールに面して設置されている水深6mの300トン水槽には、開館時にホッケ、続いてスルメイカを入れて多くの訪問者を引きつけた。スルメイカが展示されると、毎日多くの市民が押し寄せて、交通整理が必要なほどであった。夏が終わる頃には、スルメイカが産卵するというおまけまで付いた。写真のように、直径80cmの網状の袋(卵塊と呼ばれる)の中に推定20万個の卵が1個ずつ入っていた(写真2)。なお、スルメイカの産卵が水槽で観察されるのは珍しいという。大水槽の裏側は海水が使える飼育室になっている。
本館1、2階には入居型のレンタルラボが備えられ、北海道大学水産学部・北方生物圏フィールド科学センター、公立はこだて未来大学、函館水産試験場、および企業6社が使用しており、空室はない。この他、300名収容の大会議室に加え、中小会議室と共用実験室がある。なお、レンタルラボなどの使用料は、極めて低額である。

センターにおける主な研究

センターに入居(使用)するためには、センター運営委員会において書類および面接により、センターを使用する用件を満たしていると認められなければならない。現在、上記の組織のうち、使用者として登録されている人数は246名であるが、常駐者は半分にも満たない。最も大所帯なのは水産試験場で35名が常駐しており、ホタテ、コンブ、ナマコなどの増養殖、水産資源管理や漁況予測などが主な研究である。一方、6企業のうち、3社が海藻の増養殖に関わっており、それぞれユニークな研究を行っている。北海道大学を加えると、海藻研究に携わっている研究室が多く、かつ函館の水産業として最も重要なマコンブ漁業に海水温上昇などの環境要因が原因と思われる、様々な問題が起こっているため、マコンブ研究会を立ち上げて、研究費の獲得を図っている。
一方、未来大、北大、および企業の中に、いわゆる「マリンIT」の研究に焦点を当てているいくつかの研究室があり、新しい海洋産業の創成に励んでいる。例えば、フィールド科学センターの宮下和士教授を中心とするグループは、バイオロギング用機材の開発およびそれを用いた海洋調査を行っており、未来大の和田雅昭教授は、海洋ユビキタスセンシング技術を使った沿岸漁業のスマート化を目指している。また、北大水産学部の斉藤誠一教授のグループは、人工衛星を使った漁業予測システムの開発を行っていて、すでにスルメイカ漁業などに応用されて、成果を挙げている。
なお、2004(平成16)年に、函館市が戸井(どい)、恵山(えさん)、椴法華(とどほっけ)および南茅部(みなみかやべ)と合併したが、このセンターは合併特例債の一部を使って建設されたため、これらの漁業の盛んな地域に恩返しをしなければならないと思っている。そこで、昨年10月27日にこれらの地域の漁業者の皆さんをお招きして上記の研究について説明するとともに、懇親会を開いて漁業者の要望をお聞きした。この時の成果の一つが、上記のマコンブ研究会である。

市民とセンター

■写真3:タッチプールで戯れる子供たち

センターが出来る前から、水産・海洋に関する講演会、日本丸などの練習船の寄港、あるいはオーシャンウイークと称する"うみ"を理解してもらうための市民向けのイベントを行ってきたが、センターがオープンすると同時に、老若男女を問わず、多くの市民が連日見学に訪れるようになった。最も人気のある4階の展望室からは、函館湾を囲んだ町並みと山々の景色を楽しめる。そして、8月24日(日)に開催された「マリンフェスタ2014」には、朝から多くの見学者が函館市内からだけでなく近隣の市や町から押し寄せ、その数は2,800名を超えた。驚いたことに、センターの前庭に設置してあるタッチプールに子供たちが群がり(写真3)、近隣の浜から集めてきたカニ、ヒトデやウニ、あるいは海藻と戯れて、夕方になっても帰ろうとせず、親御さんに諭されてようやく家路についた。日頃、いろいろな理由から、海に行って自由に海の生き物と戯れることができない子供たちにとっていい思い出になったと思われる。また、いかに子供たちが海や海の生き物に飢えているかを実感した。
海洋基本法が改正されるのに伴い、小学校から高校までの間に、これまで顧みられなかった水産・海洋教育をどのように行うのかが重要なテーマとなっている。日本学術会議でも海洋生物分科会で、この問題を検討するとともに講演会などを行い、どのように対応するべきかを模索してきた。上記の子供たちの嬉しそうな顔に接し、何とかしないといけないと改めて思った次第である。関連して、函館およびその近隣には、海ばかりでなく陸の幸も豊富であるにもかかわらず、ここに住んでいる人たちは、このことに気がついていないようである。センターでは、子供たちのための「海の教育」とともに、「食育」についても取り組んで行きたいと考えている。(了)

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