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オーシャンニューズレター

第328号(2014.04.05発行)

第328号(2014.04.05 発行)

漁船へのAIS活用と普及について

[KEYWORDS]漁船/AIS/漁船海難
独立行政法人水産大学校 講師◆松本浩文

AIS(船舶自動識別装置)は2008年7月までに搭載義務化が完了し、今後はAIS非搭載義務船での有効利用が期待される。その非搭載義務船である漁船にAISを搭載し研究を進めている。
漁船でのAISの有効性と課題を示しながら、漁船へのAIS普及についての議論が必要である。

はじめに

■レーダ画像をチャプタしたもので、すべて漁船映像にAIS情報(シンボルマーク)が重畳

AIS(Automatic Identification System=船舶自動識別装置)は、船舶の位置、針路、速力をはじめ、各船を識別可能にする識別番号(MMSI)や船名などの情報をVHF電波に乗せて相互に送受信できる装置である。そのAISは、2000年のSOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)の改正によって、すべての旅客船と国際航海に従事する300トン以上の船舶および国際航海に従事しない500トン以上の船舶に対し搭載が義務付けられている。また、AIS情報を航海用レーダに重畳表示させることで、レーダでは捕捉できない島影や気象海象の影響によりレーダでは相手船を認識できない状況でも、早期にかつ確実に把握することが可能な場合もある。近年では、AISを利用した航路標識の設置や衛星AISの議論も行われている。

Class B AIS(簡易型AIS)

AISは、搭載義務船が使用するAIS(Class A AIS)と非搭載船向けのAIS(Class B AIS)に分類される。Class B AISは国内では簡易型AISとも言われ、Class A AISに比べ送信出力を抑え、GPSによる世界標準時と同期されないなど機能を簡略化している。また、通信方式はClass AのSOTDMA(Self-Organized Time Division Multiple Access=自律時分割多重接続)と違い、CSTDMA(Carrier-Sense Time Division Multiple Access=キャリアセンス時分割多元接続)方式を採用している。
このため、データ送信はClass A AISが優先され、Class B AISのデータが送信されない可能性もある。とくに漁船などの小型船の場合は、アンテナ高さも低いため、信頼性の評価が必要である。このため、著者らはClass B AISを輻輳海域で操業する小型漁船に搭載し、実験を繰り返している。また、東シナ海での日中暫定水域において外国漁船を対象にClass B AISの有効性を評価しながら、さまざまな事例を操船者ならびに漁業者へ提供することで、Class B AISを活用した漁船の安全性向上を目指している。

漁船でのAIS活用

■小型漁船の作業風景(曳網しながら漁獲物選別作業中)

2012(平成24)年9月に宮城県金華山東方沖約930kmで、漁船堀栄丸(総トン数119トン、全長29.7m)と貨物船NIKKEI TIGER(総トン数25,074トン、全長182.47m)が衝突する船舶事故が発生している※1。この時、貨物船の航海士は雨天の影響によりレーダ画面で漁船の映像を確認することができなかった。その結果を踏まえ、運輸安全委員会は、再発防止策とし、漁船でのAIS(簡易型AIS含む)利用について国土交通大臣ならびに水産庁長官に意見している。
一方、沿岸域を操業海域とする小型漁船は輻輳海域においても、単独乗船しレーダを装備していない漁船もいる。著者らが実験している小型底びき網漁船(総トン数4.95トン)は、いずれも単独乗船で、操業が開始されると投網、曳網、揚網、投網、曳網(漁獲別選別)を繰り返すため、他船の見張りはすべて作業が伴う状況で行われる。そのため、Class B AISを搭載し、AISデータから他船の接近をアラームで知ることで漁業者の見張り補助として活用している。
これは、漁業者が任意に設定した危険半円にAIS搭載船が侵入すればアラームが鳴り、漁業者は作業を中断し見張りをおこなうものである。これにより、アラームに反応しないAIS非搭載船の存在も確認することができる。すなわち、漁船にAISを搭載するということは、自船の存在を付近航行船舶にAISデータとして送信することであり、付近航行船舶も漁船の存在を早期にかつ確実に認識することができる。
今後、小型漁船を対象とした輻輳海域での実験も予定している。漁船にAISを搭載することは、自らの見張り補助に加え、自船の存在を周囲に示す意味でも、漁船の安全性向上に重要な役割を果たすことと期待している。

位置(漁場)情報

しかしながら、漁船にAISを搭載することは漁場(位置)情報を公表することでもある。操業海域および漁業種類によるが、海上交通安全法や港則法で定められた輻輳海域であれば、AISの有無にかかわらず海上保安庁の機関である海上交通センター(マーチス)のレーダがあり、巡視艇も航路哨戒している。外洋においては、たとえばClass B AISの場合、漁船のアンテナ高さや海象にも影響されるが、到達距離は4海里前後であり、著者の実験結果では、4海里未満でも漁船からのClass B AISデータが送信されながら他船ではAISデータが受信されない場合もある。よって、現状では陸上のAIS基地局から動静を確認される心配はない。

最後に

日本周辺海域では、漁船の関係する様々な事故が発生している。その解決策のひとつとして、まずはお互いの存在を確実に認識し合うことが必要であろう。AISやECDIS(Electronic Chart Display and Information System=電子海図表示情報システム)などの計器が義務化される中、同一海面を共有する漁船はレーダも装備していない場合もあり得る。一方、著者らの実験航海で航行した東シナ海の日中・日韓の漁業協定暫定水域では、同海域で操業する外国漁船の殆どがClass B AISを搭載していた。今回、運輸安全委員会の意見を踏まえ、わが国が漁船へのAIS有効利用と普及についてどう進めていくか。これまでの教訓を踏まえ漁業者も含めた議論が必要である。(了)

※1 運輸安全委員会HP:船舶事故の概要(貨物船NKKEI TIGER漁船堀栄丸衝突), http://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/ship/detail2.html?id=4745 (2014.2)

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