Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第247号(2010.11.20発行)

第247号(2010.11.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆去年の6月、バングラデシュ・ダッカ大学のH先生が来日した。旧知の友人でもあるH先生は人類学者であり、その先生から三陸海岸を是非とも訪問したいということで旅のアレンジを頼まれた。訪問の目的は、津波の発生を予知するなんらかの地元の知恵を探りたいというものであった。H先生は岩手県内各地で精力的に調査をおこない、その成果を持ち帰った。
◆バングラデシュは、2004年のインド洋大津波の被害を受けた。2007年には、サイクロン・シドルによる高潮が襲った。本誌で早稲田大学理工学術院の柴山知也さんがふれておられるように、バングラデシュでは1970年と1991年のサイクロンで数十万人の犠牲者を出したが、その後、国際援助によりサイクロンシェルターをつくることで2007年の死者は4,234人とはるかに減少した。柴山さんは頻発する自然災害への対処について、災害に対応する地域ごとのシステムづくりを提案されている。H先生は津波災害のためのハードウエアではなく、ソフトウエアともいうべき津波予知の知恵を日本に求めていたわけだ。津波の前に魚が群れで獲れるという話を以前きいたことがある。こうした面でも情報の発掘と交流が進むことを期待したい。
◆今秋、名古屋で第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催された。最後の最後まで本会議が紛糾したことは記憶に新しい。期間中の10月23日、海洋生物多様性の保全に向けての「ナゴヤ海洋声明」が採択された。これは海洋政策研究財団の市岡 卓さんが報告しているとおり、同財団が主催した「オーシャンズ・デイ・アット・ナゴヤ」における取り組みの成果である。海洋における生物多様性の問題は、熱帯海域や沿岸域だけにかぎらない。外洋の表層域や深海もその対象となる。海洋生物多様性の保全には人間活動が深くかかわっており、その取り組みには研究、政策、産業界の連携が不可欠だ。
◆海洋における生物多様性の維持を、日本の例から考えようとするサイドイベントが10月19日にCOP10会場で開催された。国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティングユニット所長で本誌編集委員のあん・まくどなるどさんらが主催する通称「里海」の集会がそうだ。その場で、わたしもハタハタを例として沿岸の藻場の生物多様性について発表する機会をえた。発表の一部は翌朝の『JAPAN TIMES』紙で取り上げられた。ハタハタの資源管理については、本誌で秋田県立大学の杉山秀樹さんが紹介した通りであり、杉山さんとの共著論文は年内に英文として国連大学から出版される。
◆海の問題をめぐってこの秋は大きなうねりがあったといえようが、この先どのようなうねりがやってくるのか。いたずらに静観視するのではなく、H先生の例にあったような予知能力をもちたいものだ。(秋道)

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