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オーシャンニューズレター

第247号(2010.11.20発行)

第247号(2010.11.20 発行)

「オーシャンズ・デイ・アット・ナゴヤ」~海洋生物多様性の保全に向けて~

[KEYWORDS] COP10/海洋生物多様性/ナゴヤ海洋声明
海洋政策研究財団 政策研究グループ長◆市岡 卓

COP10の関連イベントとして開催された「オーシャンズ・デイ・アット・ナゴヤ」は、これまで注目されることが少なかった海洋生物多様性の問題に改めて光を当てた。
海洋生物多様性の保全に向けては、世界目標達成に向けての具体的な取り組みの進め方などまだ多くの課題が残されており、2年後のリオ+20、COP11に向けて関係者の一層の取り組みの強化が求められる。

「オーシャンズ・デイ」開催の背景

本年は、国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で開催され、新たな国際的目標の設定等が議題となったことから、国内外で生物多様性への関心が大きな高まりをみせている。その中でも、サンゴ礁、干潟、藻場など海洋・沿岸の生物多様性は、森林など陸上の生物多様性に比べ、必ずしも十分に取り上げられてこなかった。しかし、2015年には世界の人口の約50%が沿岸部に居住すると推計され、食料の供給、災害の防止、温暖化ガス吸収による気候変化の緩和など多様な恵みをもたらす海洋・沿岸の生物多様性の保全は、今後一層重要な課題になると考えられる。
「オーシャンズ・デイ・アット・ナゴヤ」(「オーシャンズ・デイ」)は、COP10会期中の10月23日、海洋・沿岸・島嶼に関するグローバル・フォーラム(「グローバル・フォーラム」)、生物多様性条約事務局、地球環境ファシリティ(GEF)と海洋政策研究財団が共同で、海洋生物多様性保全の取り組みの必要性についてハイレベルの政策決定者の関心を喚起することをねらいとし、わが国の内閣官房総合海洋政策本部事務局および環境省のほか、国際機関、海外の政府機関やNGOなどの協力を得て、開催された※。
本行事は、本年5月にパリで開催された「世界海洋会議2010」において、海洋生物多様性の保全について関係国政府の一層の取り組み強化を促そうとの機運が高まり、企画されたものである。当財団は、共催団体・開催国ホストとして、会議の開催に全面的に協力した。

海洋生物多様性をめぐる活発な議論


■オーシャンズ・デイ・アット・ナゴヤは、COP10会期中の10月23日に開催された。

本行事は、COP10の会場である名古屋国際会議場の白鳥ホールで開催された。9時からの開会式では、ビリアナ・シシン・セイン博士(グローバル・フォーラム共同議長)、当財団の寺島紘士常務理事、ロナルド・ジュモー大使(セイシェル国連大使)の3名の共同議長からの挨拶があった。わが国の近藤昭一環境副大臣からのご挨拶では、COP10において有意義な決議が合意され、今後、海洋生物多様性の保全と持続可能な利用の取り組みが一層促進することを望むとのお話があった。アーメッド・ジョグラフ生物多様性条約事務局長も、ご多忙を極められている中でご参加いただき、COP10における審議の状況やこの後の見通しも含め、ご挨拶いただいた。
この後、テーマごとの4つのセッションが順に進められた。
セッション1「生物多様性喪失の抑止と海洋保護区ネットワークの設置:現状と進展」では、国内外における海洋生物多様性の現状や、それを把握するための科学調査・研究の取り組み、1995年のCOP2で加盟国が海洋・沿岸の生物多様性保全について合意した「ジャカルタ・マンデート」の実施状況などについて発表があり、これを受けて議論が行われた。
セッション2「国家管轄内外の海域における海洋生物多様性保全のための統合的生態系アプローチ」では、統合的生態系アプローチの導入の利点や障害、国が管轄しない海域における保護を要する海域の特定の問題、一般大衆や地域社会の支援のあり方などについての発表を受け、議論が行われた。
セッション3「生物多様性と海洋保護区に関連した国際的目標達成のための取り組み」では、海洋保護区の設定など海洋生物多様性保全のための目標設定のあり方、各国による政策の進め方などについての発表を受け、議論が行われた。このセッションでは、日本の環境省の渡辺審議官が、来年3月までに海洋生物多様性保全戦略を策定することなど日本政府の取り組みを紹介し、その中で、国立公園における海域公園地区面積の倍増、「海洋版レッドリスト」の作成といった新規施策について公表された。
各セッションで各国からの発表者に交じり、日本からも5名の研究者が、海洋生物の「人口調査」である「センサス・オブ・マリン・ライフ」、海洋生物の行動実態等の新しい科学調査手法「バイオロギング」、漁業者、住民やNGOの参画による取り組みなどについて発表した。
セッション4「海洋生物多様性:将来のビジョン」では、事務局から共同議長声明としての「ナゴヤ海洋声明」の案が紹介され、参加者との意見交換の後、採択された。

ナゴヤ海洋声明

本行事の最も大きな成果が、「ナゴヤ海洋声明」(「声明」)の採択・公表である。声明は、COP10に参加するハイレベルの政府関係者その他の利害関係者に対し、「2011年から2020年までの間に海洋生物多様性の喪失を抑止し、悪化した海洋生息域を回復させ、海洋・沿岸保護区の地球規模の代表的地区と回復力のあるネットワークを確立させるための政治的意思・資源配分の約束を再強化」すること、「2012年の国連の持続可能な開発に関する会議(「リオ+20」)および国連生物多様性条約第11回締約国会議における新たな海洋生物多様性保全の目標採択に向けた新たな取り組み」を進めることなど、取り組みの一層の強化を求めている※。

「愛知ターゲット」、その先へ

今回のオーシャンズ・デイには、世界各国の政府機関、国際機関、NGOの関係者、研究者、マスメディア関係者など約170名が参加した。その中で、わが国の環境省は日本独自の新しい政策を打ち出して世界の取り組みを促し、また、わが国の研究者も地域に根ざした「里海」の取り組みや世界をリードする新しい科学調査手法など日本ならではのユニークな取り組みについて発表した。オーシャンズ・デイが、海洋生物多様性保全に関するわが国の取り組みの世界への発信や、内外における課題解決の促進に、少しでも貢献できたのであれば幸いである。
COP10では、交渉終盤においても先進国と開発途上国との対立が続き、合意が危ぶまれていたが、最終的には遺伝資源の利用・利益配分に関する「名古屋議定書」、2010年以降の世界目標である「愛知ターゲット」の採択に至ることができた。海洋生物多様性の分野においても、海洋に占める保護区の割合を10%にする、生息地の消失速度を半減させるなどの新たな数値目標が設定されたが、今後、そのための具体的な道筋を明らかにしていく必要がある。また、海洋生物多様性保全への取り組みについては、声明にもあるように、2012年のリオ+20で、持続可能な開発というさらに大きな政策枠組みの中で議論が行われることになる。
海洋生物多様性の保全については、世界目標達成に向けた具体的な取り組みの内容、特に、海洋・沿岸における保護区設置の進め方など、まだ多くの課題がある。一方で、世界の約15%の海洋生物種を有し、また、科学調査・ローカルな生態系管理の両面で先進的かつ独自の取り組みを行っている日本として、世界の海洋生態系保全に向けてさらに貢献できる余地があると考えられる。当財団としても、引き続き本問題について調査研究を進めるとともに、情報発信や関係者間のネットワークづくりなどに積極的に取り組んでいきたい。(了)

※ 「オーシャンズ・デイ・アット・ナゴヤ」および「ナゴヤ海洋声明」については、本財団HP(http://www.sof.or.jp)を参照下さい。

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