Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第235号(2010.05.20発行)

第235号(2010.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆最近、注目されている里海は里山の対概念として語られることがあるが、考えてみれば里山と里海はつながっている。WWFサンゴ礁保護研究センターの上村真仁さんは石垣島の白保において、植林を含めた多面的な里海再生活動に取り組んでおられる。かつて新石垣空港建設の話しがもち上ったさい、沿岸の貴重なアオサンゴの群落を守ることが地域の暮らしと文化を守ることにもつながるとする考えが空港建設をストップさせた。現在、普天間基地の移設をめぐり、日本は大きく揺れている。代替案に対する地域の反対運動も大きなうねりとなっている。沖縄における環境の保全と住民の暮らしにとり、米軍基地の存在は大きな障害であることは間違いない。
◆和歌山県・太地町では、現地で取材した『ザ・コーヴ』(小さな入り江の意味)という反捕鯨色の強い映画が物議をかもしだした。映画が公開される少し前には、南極海でシーシェパードによる調査捕鯨船への妨害行為があった。日本政府の抗議にもかかわらず、豪州政府は無視の立場にある。太地町教育委員会の北 洋司さんは、この映画についてふれ、太地町への挑発行為であると言い切る。捕鯨と米軍基地。いずれも地域の意向を重視すべき課題である。
◆ところが、一方で日本は地元で獲れたシロザケを中国経由で海外に輸出し、代わりに南米やヨーロッパから高いコストをかけて別種のサケを輸入している。北海道大学大学院水産科学研究院の帰山雅秀さんは、フード・マイレージ論の立場から、生態系を無視した日本や世界の水産業のあり方を批判している。長期展望に立って、現在を変えていく政策の重要性が生態系の保全と持続的な発展につながるとするビジョンの提案は傾聴に値する。これを国の政策として立案し、住民との合意形成を実現するための力が必要だ。捕鯨、米軍基地と、国の内外に対して適切に対処すべき課題をかかえる日本は、今こそ抜本的な海洋政策の提言をすべき時だ。 (秋道)

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