Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第220号(2009.10.05発行)

本業に根ざした社会貢献「キッズ・クルーズ」

[KEYWORDS] CSR活動/小学生/キッズ・クルーズ
(株)商船三井 前経営企画部 CSR・環境室長◆澤田喜純

商船三井では日本の将来を担う子供たちを客船「にっぽん丸」に招待し、楽しみながら船や海運という仕事や日本をとりまく海と海洋環境について知ってもらう活動を行っている。
過去4回の応募者はのべ2,540名、乗船した児童は600名に上るが、クルーズを支えるボランティアや海運会社にとっても、自らを見つめ、そして磨くための良い経験となっている。

海と船を知ってもらう手作りの社会貢献活動

にっぽん丸
■にっぽん丸
商船三井客船が運航する外航クルーズ客船。1990年竣工。総トン数:21,903トン。全長:166.6メートル。船客定員(最大):184室532名。世界一周などの長期外航クルーズ、日本各地の祭りを訪ねるクルーズや離島を巡るクルーズ、週末に楽しむワンナイトクルーズなど、さまざまなコースを用意。120年余のノウハウで「食とくつろぎ」の快適なクルーズサービスを提供している。2009年11月から4カ月かけて改装し、2010年3月に新生「にっぽん丸」としてデビュー予定。

当社は、毎年3月「商船三井キッズ・クルーズ」を開催している。1泊2日、小学校4年生から6年生までの150名の児童とその保護者1名、計300名を「にっぽん丸」に招待するクルーズである。
日本は四囲を海に囲まれた海洋国家にもかかわらず、残念ながら日本人の生活を支えている国際海運という仕事はあまり認知されていない。船の会社と説明してもこれを殆どの人が造船会社と区別をつけられない事実を、業界人として残念ながら認めざるを得ない。海外から輸入されるさまざまな物資の99.7%が船で運ばれている事実を、私たちはどのように啓発すれば良いのだろうか。
2004年、当社がCSR活動(Coperate Social Responsibility:企業の社会的責任)を展開していく上で社内の総点検をした結果、今後取り組むべき項目として社会貢献が挙がってきた。社会貢献活動に各社が取り組み始めるなか、本業に根ざした取り組みであることが求められるようにもなっていた。貨物輸送を主とする当社にとって、どのような取り組みが当社らしいのか? 私たちの結論は、日本の将来を担う子供たちを当社グループの客船「にっぽん丸」に招待し、楽しみながら船や海運という仕事、日本をとりまく海と海洋環境について知ってもらおう、ということになった。乗船を希望する児童には、海や船をテーマにした作文か絵とともに応募願うこととした。秋から募集を開始し、クリスマスのころ応募者に結果を通知する。作文、絵それぞれの優秀作品5点の応募者は自動的にご招待し、残る140名の児童は厳選なる抽選で決定していく。
運営にあたって、参加者への対応を「にっぽん丸」のいわば接客のプロに頼ってしまってはこのクルーズの趣旨が伝わらない。キッズ・クルーズの運営は、素人っぽくなろうとも極力手作りで進めていこうと考え、運営に参画する社員ボランティアを募った。この社員ボランティアは、船内で実施するプログラムを企画し、自ら乗船して実行するだけではなく、時には参加者のリーダー役として時には仲間として接しながら、大海原での2日間を分かち合う役目を担う。準備は6カ月前から始める。時間をかけ、気持ちをこめた分だけ、プログラムは充実する。

キッズ・クルーズの2日間

カリキュラム一覧

2009年3月30日、朝8時半、横浜大桟橋の国際客船ターミナルに全国から150人の小学生とその保護者が集まった。第4回「商船三井キッズ・クルーズ」の始まりだ。
受付を開始する。ボランティアは「おはようございます!」と元気に声をかけ子供たちの気持ちをほぐす。まずは船内のホールで出航式。その後船のデッキに出て、出航の雰囲気を味わう。出航を伝える銅鑼が鳴り、子供たちは見送りのひとたちに船上から紙テープを投げる。船旅の雰囲気は、最初から最高潮に盛り上がる。
テープ投げの後はオリエンテーションで、グループごとの自己紹介。ボランティアのリードが重要なプログラムのひとつである。初対面で恥ずかしがっている子供たちにも、おしゃべり好きな子供たちにも、楽しみな2日間の幕開けとしなくてはいけない。船酔いには飲み薬の準備があることを案内する。どんなに良い天候でも、船に酔いやすい人はいる。たとえ船酔いしても、クルーズに好印象を持ってもらえるか、受身ではない心遣いが大切だ。オリエンテーションのあとは、スポーツ・デッキで昼食。青空と太陽の下のデッキ・ランチは気持ちがいい。
船内プログラムは、初めての船旅をする子供たちにも存分に楽しめるように、同時に船・海についても興味を持ってもらえるようにと準備している。ボランティア各自が仕事の合間に時間をみつけて練り上げたものである。たとえば「海のイロイロ」と題したクイズの時間。ロープワーク教室、手旗信号教室など。すべてのプログラムで、その内容と進行役としてのボランティアの力が試される。
さまざまなプログラムを終えると、夕食である。キッズ・クルーズでは、大人も子供も区別なく、美味しさに定評のあるにっぽん丸のフルコースを用意している。テーブルマナーの講習つきだ。
夕食後は、マジックショーなど楽しい催し物。その後、天気がよければ星座教室。かたく閉じた目をパッと見開いたとたんに子供たちから「ワァー」という歓声が上がる。大海原を照らす満天の星は、都会の明るい夜では見られない。海の見える大浴場での入浴もお勧めのひとつ。キッズの1泊2日はなかなか忙しい。
2日目の朝は、5時半「海から日の出を見よう!」という自由参加プログラムで始まる。日が昇ったその向かいには冠雪を頂いた富士山も見える。東京湾の入り口あたりではイルカのお迎えに遭遇することもある。海の生物との出会いは船旅の醍醐味である。
1泊2日の最後は修了式。子供たちが船・海について学習したことを証してキャプテンの署名入りの修了証書を担当のボランティアから手渡す。グループごとに記念撮影などして盛り上がる。そしてお別れ。着岸した大桟橋で、子供たちとボランティアは、名残を惜しんで手を振り合う。

左/第4回「商船三井キッズ・クルーズ」の参加者たち:右/デッキで行われた手旗信号教室の様子
左/第4回「商船三井キッズ・クルーズ」の参加者たち
右/デッキで行われた手旗信号教室の様子

子供たち、海運会社、ボランティア、すべてのためのキッズ・クルーズ

キッズ・クルーズは、その2日間が終わっても、子供たちとその保護者から寄せられる「もっと乗っていたかった」「将来、船の仕事をしたい」などの声が、スタッフやボランティアを励ましてくれる。1泊2日、単に無料の招待クルーズだからではなく、子供たちや保護者に私たちの気持ちが届いた結果であると信じたい。私は、CSR・環境室のメンバーとして、4回のキッズ・クルーズに企画から実行までに携わることができたことを、たいへん幸運なことと思っている。参加したボランティアは、4回でのべ64名。皆がそれぞれ思い出をつくり、さらに自分自身をも磨いた。
昨年のリーマンショック以降、四囲の状況は激変し厳しい時代となった。しかし、参加者にクルーズを楽しんでいただき、同時に船に親しみ海運の働きや意義を理解していただく、このキッズ・クルーズを継続していければと思う。過去4回の応募者は、のべ2,540名、乗船した児童はのべ600名。回を重ねるにつれ、応募数も増えてきた。将来、船乗りになった動機は? との問いに「キッズ・クルーズ」と答える青年が生まれたら、何と嬉しいことだろう。(了)

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