Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第220号(2009.10.05発行)

ソマリア沖・アデン湾海賊対処の現況

[KEYWORDS] 海洋安全保障/日本関係船舶護衛/海上自衛隊
(財)水交会研究幹事、元海将◆岡 俊彦

海上自衛隊が、3月30日にソマリア沖・アデン湾において海賊対処の活動を開始して以来4カ月が経過した。
7月24日に施行された海賊対処法の下、現在護衛艦2隻およびP-3C哨戒機2機が現地において行動中である。
このような状況のもと海賊対処の現況を、公刊資料等からまとめてみた。

倍増する海賊行為

IMB(国際海事局)は7月15日、2009年上半期の世界の海賊等行為に関する報告書を公表した。それによると2009年上半期の発生件数は、前年同期の発生件数114件の約2倍の240件であり、過去6年間の平均年間発生件数233件を超える数字であり、2009年の激増ぶりをうかがわせる。
発生海域別には、海上自衛隊の派遣部隊が行動している周辺海域で144件と全体の60%を占めている。ソマリア沖では昨年通年で43件であったが、本年上半期で44件である。アデン湾・紅海では昨年通年で92件であったが、上半期では100件である。また、ハイジャックされた船舶は、ソマリア沖では昨年通年の10隻に対し、本年上半期では12隻である。一方、アデン湾・紅海では昨年通年の32隻に対し、上半期では17隻である。アデン湾・紅海での海賊行為等の発生件数が倍増する勢いであるのに対し、ハイジャック件数が昨年同様の発生状況に治まっているのは、各国海軍の同海域における海賊対処活動の成果のあらわれであろう。

海上自衛隊の活動状況

海賊対処行動の概要

海上警備行動に基づきソマリア沖・アデン湾で海賊対象にあたっていた護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の2隻は、現在帰国の途中にある。この2隻は、3月30日から7月22日までの間、41回合計121隻の日本関係船舶の護衛を行った。また、人道的見地から、日本に関係しない6隻の外国船籍の商船からの国際VHF無線を傍受して、商船近傍の不審船に対しサーチライトの照射、LRAD(指向性大音響発生装置)などの使用、或いは艦載ヘリコプターを発進させるなどの対応により通報商船の安全を確認している。ソマリア沖・アデン湾の海賊船は、ダウ船または小型船に漁具の代わりに商船に移乗用のはしご、あるいは武器を搭載している特徴があり、これらをヘリコプターにより上空から観察することで不審船か否かの判断としている。
一方、第2次隊として派遣された護衛艦「はるさめ」「あまぎり」は、海賊対処法の施行にともない、7月28日以降現在までに3回合計15隻の商船の護衛を実施した。このうち9隻は日本に関係しない外国籍の商船であった。また、P-3C部隊はジブチ国際空港を拠点に派遣海賊対処航空部隊として6月11日以降7月末まで29回約220時間の飛行を行い約2000隻の商船を確認し、約150回近い情報提供を行っている。これらの派遣部隊は現在まで44回合計136隻の商船を護衛し、1回当たりの平均護衛隻数は3隻である。(社)日本船主協会関係船のアデン湾通航隻数は年間約2,100隻、1日平均では約6隻である。したがって派遣部隊は、その半数を護衛していることになる。

感謝される海上自衛隊の活動

海賊対処法による最初の護衛(09年7月29日)
海賊対処法による最初の護衛(09年7月29日)

ソマリア沖・アデン湾での海上自衛隊の活動に対し、護衛を受けた船舶等から多数の感謝、激励のメッセージが各部に届いている。その一部を防衛省統合幕僚監部のホームページから抜粋して紹介する。
【日本籍自動車船○○丸船長および乗組員一同から】
お世話になりました。現場に身を置く者と致しましては、乗組員の生命、船、積荷の安全を同国の護衛艦に守って頂くというこれ以上の安心感はなく、小職以下乗組員一同、非常に感謝しております。日本国内に於いては様々な論議がなされているようですが、この海域の安全が取り戻されるまで、このMISSIONが無事継続される事を祈っております。長時間のESCORT有難う御座いました。

【日本籍客船船長から】
護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の皆様へ
─前略─アデン湾におけます本船を含む船団の護衛を頂きまして、誠にありがとうございました。おかげさまで、緊張の中、無事にアデン湾を抜けることができましてホットしております。ここに、本船の乗船客・乗組員1,098名を代表いたしまして、隊員の皆様に深く感謝申し上げます。非常に寒い3月に呉基地を出発され、5月現在アデン湾という酷暑と緊張の中、毎日のように日本商船隊の護衛の任務につかれていることを考えますと、同じ船乗りとして感謝に耐えません。同僚の欧州・中東と日本を結ぶ貨物船船長・乗組員も恐怖の中、この海域を航行しているわけでありますが、皆様の護衛艦がいてくださることが、どんなにか心強いか分りません。また、本船、乗船客の皆様も、遠く中東にて海賊船から一般商船を守っているお姿を見て、頼もしく思われ感激しておられます。引き続き過酷な任務は続くことと思いますが、どうか立派に任務を遂行され、無事に故国日本へ戻られることを願っております。本当にありがとうございました。

【パナマ籍自動車船船長から】(原文は、英文)
─前略─貴隊のご協力のお陰でアデン湾海賊危険海域を安全に通過できたことに対し、謹んで感謝のメッセージを送ります。次回アデン湾を航行する際にも再び船団に加えて頂ければ幸甚です。─中略─重ねて、貴隊のご協力に感謝申し上げます。

【パナマ籍自動車船船長から】
護衛に関し、本船へ格別な御配慮を頂きまして誠にありがとうございました。自衛艦「さざなみ」「さみだれ」の自衛官の皆様方の護衛活動に本船乗組員一同感謝しております。本船5年ぶりに日本に帰国しますが、両艦に護衛して頂き、気がかりだったアデン湾を無事通過することができまして、本船25年間の最後となる航海を終えることが出来そうです。酷暑の中、自衛官の皆様方の今後の御活躍と御健康をお祈りします。 (以上)

アデン湾はヨーロッパとアジアを結ぶ海上交通の要衝であり、海賊対処は、わが国の経済、国民生活を支える重要な活動である。内閣の体制の如何にかかわらず、今後とも各国と協力して海賊対処を実行していかなければならない。
ソマリア沿岸海域は現在、11月頃まで続く夏のモンスーンの季節である。荒天にともない海賊の発生の減少が予想されるが、護衛は引続き継続される。派遣部隊の航海の安全と任務の完遂を祈る次第である。(了)

●本稿内容は2009年8月執筆時のものである。

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