Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第216号(2009.08.05発行)

第216号(2009.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆首都圏では7月中旬に梅雨明け宣言がなされた。いよいよ盛夏の季節である。体調を整えて乗り切りたいものだ。社会、経済の枠組みが大きく変わりつつある過渡期にあって、世界は混迷を深めている。自然界においても、温暖化が進行し、不安定な季節の天候予測は難しい。
◆熱帯太平洋ではエルニーニョ現象が成長しているが、海の温暖化の影響で海面水温の上昇範囲が東太平洋だけでなく熱帯太平洋の広い範囲に広がっている。エルニーニョ現象が起きると西太平洋の海面水温があまり高くならないため、フィリピン周辺海域の積雲活動も弱く、小笠原高気圧は強くならない。このため明瞭な梅雨明けはなく、真夏日や猛暑日がたまにあっても、平均的にはぐずついた天気のまま9月を迎えてしまうことが多い。7月1日に実施したコンピューターモデル予測実験では、平年よりも低めの気温を予測しているが、果たしてどうであろうか。
◆この6月にパリで開催されたユネスコの政府間海洋学委員会(Intergovernmental Oceanographic Commission、略称IOC)の第42回執行理事会と第25回総会に出席してきた。この委員会は海の環境を知り、保全し、持続的に利用するために海洋調査やデータ交換の国際的な枠組みを海洋科学に基づいて主導する国連内の唯一のメカニズムであり、現在136カ国が参加している。全球海洋観測システム計画(GOOS)、国際海洋データ・情報交換システム(IODE)、世界気候研究計画(WCRP)などの地球規模の活動に加えて、例えばアジアではバンコクに西太平洋地域事務所を置くなど途上国における海洋管理能力の向上を目指して下部組織を運営してきた。故・茅 誠司 日本ユネスコ国内委員会会長(東大総長)などが中心的な役割を果たして、1960年にユネスコに導入されたものである。最近は途上国も海洋科学に基づいた海洋管理の重要性に急速に目覚めており、わが国としてもより本格的な対応が必要になっている。来る2010年に50周年を迎えるが、IOCは国際オリンピック委員会だけを意味するものではないことを多くの人に知って欲しい。
◆今号では、地球温暖化への対策として大きな話題になっている鉄散布による海洋肥沃化の問題について、武田重信氏に論じていただいた。海を知り、守り、利用することにおいて、海洋科学に基づく海洋管理の必要性がここにおいても見られる。浅野敬広氏には国際海事機関が指定する特別敏感海域の意義についてカナリア諸島の例をもとに解説していただいた。この制度は海洋管理を戦略的に進める面からも重要であり、叡智が求められるところである。
◆岩重慶一氏にはメコン河に生育する淡水イルカの保護を観光と両立させるべく建設されたイルカ保護センターの活動について投稿していただいた。経済発展に伴う商業化、インフラ整備と自然環境保全をどのように調和させるか、古くて新しい問題がここにある。里山、里海の意義は環境保全とビジネスを両立させ、私たちの生活とそれを囲む生態系の相互作用を持続的に維持するモデルにある。これは人と社会の持続的な啓発無くしては到底実現できないことである。  (山形)

第216号(2009.08.05発行)のその他の記事

ページトップ