Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第176号(2007.12.05発行)

第176号(2007.12.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆東京にも木枯らし1号が吹き、青々としていた木々の葉が急に色づき始めた。季節は確実に巡ってくる。南アジアではちょうど夏のモンスーンから冬のモンスーンに切り替わる季節である。南シナ海で生まれた熱帯低気圧が西進し、ベンガル湾で息を吹き返してサイクロンに姿を変えるのもこの頃である。

◆折しも、11月15日にバングラデシュ南部の沿岸地域を襲ったカテゴリー4のサイクロン「シドル」は数千人にも及ぶ死者を出すことになってしまった。90万を越える世帯が被災したという。14万平方キロの狭い国土に1億4千万もの人口を抱えるバングラデシュである。しかも、その多くはデルタ地帯に居住しているので、サイクロンに伴う高潮が常に被害を増大させてしまう。

◆今から37年前の11月12日に、この地域を襲ったサイクロンはカテゴリー3で今回のものよりも弱かった。しかし、50万人もの死者を出したことでよく知られている。西パキスタンに拠点を置く政府の救援活動が遅れ、これを怒った東パキスタンの民衆は独立運動を起こして翌年にバングラデシュを樹立した。最近は事前の対応策がある程度の効果を持つようになったとはいえ、わが国などの防災体制に比較するとまだ半世紀以上も遅れている。自然変動に脆弱な発展途上国への支援は災害時のみの一過性のものであってはならない。ハード、ソフトの両面から持続的に支援してゆく必要がある。

◆さて、本号では森と川と海を巡る物質、特に鉄の循環の重要性について白岩孝行氏に解説していただいた。ユーラシア大陸の北東部を流れるアムール川から供給される溶存鉄がオホーツク海、さらには親潮海域の生態系に重要な役割を担っているという。国境を越えた生態系保全策はいかにあるべきか、大いに考えさせられるオピニオンである。

◆今尾和正氏には閉鎖性海域の環境修復に関して提言していただいた。ここでは酸素の循環が問題になる。有機物を無機物に変える作業を担う底生動物を増やすには、酸素を効率よく海に導入する必要がある。これには適切な地盤高を持つ浅場の造成が鍵になるという。環境修復に向けた正のスパイラルが各地に見られるようになることを期待したい。

◆有村忠洋氏には<道の島>として豊かな歴史と文化を持つ奄美大島の地域振興策について論じていただいた。ここでは人、モノ、情報の循環をいかに活性化するかが問題である。奄美大島が海洋都市として浮上するには、海と空の交通の充実とその玄関口の整備が不可欠である。氏は特に奄美大島というフィールドの特性を生かした研究・教育機関の設置が効果的ではないかという。わが国は島嶼国家である。島の活性化に国として真剣に取り組む時が来ている。  (山形)

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