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オーシャンニュースレター

第176号(2007.12.05発行)

第176号(2007.12.05 発行)

海から見た奄美~海に学び海を活かす海洋都市を目指して~

有村忠洋●名瀬港運(株)代表取締役

奄美大島は、南西諸島に位置する亜熱帯海洋性気候の自然豊かな地域で、
文化・歴史的にも多くの特色を持っている。
現在、経済力不振や過疎化、人的パワーの衰退等の課題を持っており、
地域振興の努力を必要としている。これまでも様々な手法が講じられてきているが、
海からの視点で奄美大島のフィールドを活かす手法(文化や文明、自然科学における"知"の生産)を通じて、
「海洋都市・奄美」を創造するビジョンが必要である。

奄美大島の特色

奄美大島は奄美群島内最大の島で、島の南に位置する加計呂麻島・請島・与路島を合わせた面積は812.43km2となっている。奄美大島の人口は約7万2千人、その中心地となるのは奄美市名瀬(旧名瀬市:人口約4万1千人)で、奄美群島の首都的な役割を有している。気候は亜熱帯海洋性に属し緑豊かな島で、名瀬を中心に島の北側はなだらかな平地や砂浜が多く存在し、島の南部には山が多く観光名所となっているマングローブ原生林などがある。さらに南に行くと加計呂麻島の間に大島海峡があり、色とりどりの珊瑚礁が自生し亜熱帯の魚たちと共に豊かな自然環境を形成している。

奄美大島は鹿児島県に属しているが、中心の名瀬から鹿児島市へは約380km、沖縄県の那覇市へは約350kmと地理的に見ても鹿児島県と沖縄県の中間地点となっており、文化的にも琉球、大和の両方の影響を受けながら、島唄や大島紬、八月踊り、ネリヤカナヤ伝説※1といった独自の文化を創り上げている。こうした中間、中庸というポジションは交易の要衝として重要な役割を持ち、人や物、文化の交流拠点となり、道の島※2としての存在を高めてきているところである。また、方言で「集落」を「シマ」と呼んでいるが、これは急峻な山々を有する奄美大島においてわずかに平地となった海岸付近に集落が形成され、海伝いに集落を行き来したことの名残りであるといわれている。つまり島のなかでも「シマ」が存在し、人々は海を行き来することで「シマ」を往来し、生活の中で海というものの存在を認識していた。

奄美大島の中心地・名瀬。(写真提供:奄美市)

島の活性化のためには何が必要となるのか

こうした地理的、文化的特性をもっている奄美大島だが、経済力不振や過疎化、人的パワーの衰退という現実にはさらなる地域振興の努力が必要である。

経済活動を活発化するには人的な力を基礎に、制度的、政策的な枠組みなど様々な要件が必要とされるが、ここでは以下の視点で活性化の可能性について提案してみたい。

まず、全体的な底上げを図るための情報と交通(運輸)の整備である。情報は神経としてのインフラ整備であり、とくに島の空と海の出入り口である空港と港湾を活発化し、両者とも低いコストで利用できる状況にすることが必要である。こうすることで利用しやすく便利な交通網が確立され、インターネットとは違った生きた情報網を共有することができる。交通は本来派生的な需要であるが、観光インフラとしての定期貨客船ルート、飛行機ルート、クルーズ船ルート、さらにフライ&クルーズなど企画旅行商品を組み込むことにより交通を能動的に機能させ、道の島として様々な地域と繋げ、その結果交流人口は増大していくものと思われる。

奄美大島は南西諸島のクルージングの拠点として期待が寄せられる。

次に、研究機関の設置等による情報発信力の強化である。鹿児島県が実施した「奄美群島振興開発アンケート(H19年実施)」によると、高校生では進学・就職のため全体の約89%が奄美を離れ、そのうち「将来、帰島し暮らしたい」が75%を占めている。つまり帰ってきたいというニーズは非常に高いが、それを受けるものが不足しているのである。

そのためこれまでも大学等高等教育機関の必要性が叫ばれてきたが、こうした人口流出の歯止め役としてだけではなく、奄美の特性を活かす研究機関や海洋を中心とする大学院など、島外の人から見ても魅力のある研究素材や研究機関を設置することが必要である。他の地域から研究する人々を招き入れることで、他の地域から学び、さらにそれを地域に還元する。つまり情報発信力を強化するための環境作りである。

そうした研究機関の成果により、空と海、そして土地すなわち黒潮流域、海洋性気候、南西諸島が長い年月の間に培ってきた特色と、様々な分野で分析された科学的な裏付けが結びつくことにより、地域ブランドとして成り立つことができる。現在行われている「世界自然遺産」登録を目指す動きや、地球温暖化対策への貢献度を計るといった自然科学の分野においても、科学的に分析され、証明できるデータを持つことにより、地域ブランドがさらに強いものとなり(例:地球温暖化の観測拠点)、それを情報発信していく力=地域力が強固なものになっていくのではないであろうか。

海に学び海を活かす海洋都市を目指して

地域興しには世界の動きと地域が結びつく考え(理念)が必要である。南西諸島は鹿児島県から沖縄県に至る諸島群で、火山島である硫黄島から、奄美大島や沖縄本島北部のように大部分が火成岩でできているもの、隆起珊瑚礁でできている宮古列島など、非常に多種多様である。北部の屋久島は屋久杉が世界自然遺産の登録を受けているし、種子島はロケット基地があり宇宙との関わりが深い。一方、沖縄県は観光リゾート開発が進められ、自然科学系の大学院等も充実しつつある。空と海という広大な研究フィールドを持つ南西諸島の中に位置する奄美はどういうことを目指していけばよいのか。

奄美において一番自然を体感するのは「台風」の襲来を受けたときである。奄美は道の島として海によって結ばれており、台風や季節風によって海路が閉ざされると人はなす術もなくなる。この台風が去り、森の栄養が海に注がれ日差しが戻ってくると、また自然の浄化作用によって洗い流された気がする。このとき初めて人間は自然に生かされていることに気がつくが、経済活動が再開すると日常の慌ただしさに戻っていく。このような生活観の中にいま必要な海洋教育活動のフィールドがあるのではないのだろうか。人々が海に学んだことを研究し、生活の中で海を活かしていく。"海に学び海を活かす海洋都市"を目指していくのである。

海洋等の研究機関を設置し、人を受け入れ、自然環境、文化遺産、海洋文明、海洋資源の取り組み等の研究を行い、空港と港湾を活性化することで交流人口の増大を図る。同時に海路の安全、海難救助、海上防災、海洋環境保全として海上保安の拠点となり、また、南西諸島のクルージングの拠点として海に親しむ役割を担う。そのためにも教育・研究の拠点づくりとして「住・学・産・行」が一体となって総合的な「知」の生産を行い、地域の自立を目指していく。そうすることで世界と繋がり、その過程で地域の子供たちの育成をすることが奄美の将来(地域興し)にとって大切なものと考える。(了)

※1 ネリヤカナヤ伝説=奄美の人々が信じている海のかなたの理想郷。
※2 道の島=奄美群島は、文化や歴史、南北貿易上のルートとして、また、薩摩と琉球の航路上、島々が道としての役割をはたしていたのでこう呼ばれていた。

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