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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第131号(2006.01.20 発行)

日本海に新エネルギー資源、メタンハイドレートを探る

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授◆松本 良

石油から天然ガスへと推移するエネルギー転換の大きな流れの中で、それ自体の体積の164倍ものメタンガスを取り込むメタンハイドレートへの関心が高まっている。
日本は、メタンハイドレートの資源化に関して世界のトップランナーとして走るが、今回新たに日本海で、巨大なメタン噴出を伴う海底メタンハイドレートを発見した。

エネルギー資源としてのメタンハイドレート

メタンハイドレートとは、メタンガスと水から成る氷状の固体物質である。大量のメタンを取り込んでおり、1立方センチ、角砂糖ほどの大きさのメタンハイドレートには1気圧の状態で164立方センチ、牛乳瓶1本分ほどのメタンガスが取り込まれる。メタンハイドレートは低温高圧条件では安定に存在するが、私たちが住む地表条件では不安定ですぐに分解する。したがって、低温高圧の深海底や深海の堆積物中ではメタン濃度が高くなると、メタンは気体ではなく固体物質=メタンハイドレートとなるが、沼地でメタンガスが発生してもメタンハイドレートはできない。一方、深海堆積物は海底直下では海水と同じように低温であるが、深くなると次第に温度が高くなりメタンハイドレートは存在し得なくなる。このように、深海底では、海底から数10m~数100mの厚さでメタンハイドレート安定ゾーンが存在する。

1980年頃より深海への関心が高まり、反射法地震探査や深海掘削、あるいは潜水調査など様々な手法による海洋調査が進んだ結果、深海底堆積物中に広範囲にメタンハイドレートが存在することが確かめられてきた(図1)。しかしそれらは一般に堆積物の隙間に"広く薄く"滲み込むように分布しており、資源としての集積度は低い。メタンハイドレートの資源化を図るには、集積度の高いメタンハイドレート含有層が広域的に分布する場所を探し当てなければならない。

石油資源の枯渇と原油価格の高騰、二酸化炭素排出規制への対応として天然ガスへの転換や新資源の開発が進んでいる。メタンハイドレートも新エネルギー資源として注目され、各国で資源化への努力が始まっている。わが国はメタンハイドレート資源の開発努力では世界のトップランナーである。1995年から始まった資源エネルギー庁のプロジェクトは本州太平洋側の南海トラフ域で海底下のメタンハイドレート分布の解明などで着実な成果を挙げている。一方、比較的規模の小さな、大学主導の学術調査でも、オホーツク海や日本海で注目すべき成果を挙げている。本稿では、最近の日本海調査について紹介したい。

日本海のメタンハイドレート調査

2004年7月、東京大学を中心とする調査グループは東京海洋大学の実習研究船「海鷹丸」で富山港を出港、直江津沖の小さな海脚(スパー)を目指していた。海脚上に発達する複数の大きな凹地(ポックマーク)の起源を探ることが表向きの目的である。しかし私たちは、「この凹地は海底からのガス噴出に由来するのではないか、だとすれば、周辺の表層堆積物中にメタンハイドレートが存在するのではないか。日本周辺海域では最初の、海底メタンハイドレートの発見と回収を果たせるのではないか」と密かにそして大いに期待していた。

私たちを最初に驚かせたのは水深約900mの海底からの"ガスの柱(プリューム)"である。発見されたプリュームは高さ500~600m、海底から海面下200~300m付近にまで達する巨大なもので、東西4km 南北5kmの調査範囲内の数十カ所で確認された(図2)。このように活発なガス噴出活動は、日本周辺では勿論、世界でも例がないものである。海底からのメタン噴出現象(メタンシープ)は、堆積物中のメタンフラックス(移動量)が非常に高いことを意味し、メタンハイドレート生成を強く示唆するため、メタンハイドレート探査の良き指標となる。メタンシープは潜水艇による目視観察で発見されるが、潜水艇は調査範囲が極めて狭いため、メタンシープ現象の広域的調査には不向きである。そこで私たちは、魚探の専門家・青山千春博士(独立総合研究所)に参加頂き、計量魚探の技術を初めて広域的メタンシープ調査に適用した。図2はこのようにして得たメタンプリュームの可視化画像である。これほど多数かつ巨大なメタンプリュームの周辺にはメタンハイドレートが生成しているはずである、との確信のもと、ピストンコアリング調査(海底にパイプを打ち込んで海底堆積物を回収する調査)を実施した。その結果、海底から少なくとも3mまでの堆積物中に塊状あるいは板状のメタンハイドレートが大量に存在することが明らかとなった。わが国でメタンハイドレートを資源化できるとしたら"南海トラフ"と言われてきたが、南海トラフはもちろん、東アジア海峡ではいまだに発見されていない海底メタンハイドレートが日本海で初めて確認・回収された意義は大きい。

2005年には調査グループを強化・拡充し「海鷹丸」、海洋研究開発機構の「なつしま」と「かいよう」による3回の航海を実施、ROVによる海底調査、長尺のピストンコアリング、計量魚探と同時並行で海底の精密地形調査も行った。その結果、?直径200~300m、高さ30m程度の高まり(マウンド)が多数存在し、?頂部付近のあちらこちらからガス・プリュームが立ち上がっていること、?直径500m、深さ50m程度の凹地(ポックマーク)はマウンドのすぐそばにあること、?しかも、これらが、ほぼ直線上にならぶこと、が分かった。これら凹地と凸地は、東西方向に収縮を始めた日本海の東縁に走る構造線(歪み集中帯)に平行で、さらに、日本海の収縮に関連する南北方向の海嶺上に発達することも分かった。さらに準備した容器に入りきらないほど大量のメタンハイドレートの回収にも成功した(図3)。

海洋のメタンハイドレートは海底から数10~数100mの深部に存在することが多い。しかし、今回報告したように、直江津沖の日本海では海底の広い範囲で、海底付近にまでメタンハイドレートが生成していることが明らかになった。このような例は世界的にも珍しく、海洋ではメキシコ湾の一部やバンクーバー沖、オホーツク海など数例に過ぎない。現在進行中のプロセスを調べることにより、海底メタンハイドレートが海洋環境にどの程度の影響を、どのように引き起こすのかを明らかにすることが、私たちの研究のゴールであった。しかし来年度以降は、メタンハイドレートの資源ポテンシャルも課題に加え、直江津沖を中心に調査範囲を広げ、メタンハイドレート分布密度のマッピング、同位体によるメタンの起源の解明などを行い、資源としての可能性についても検討するつもりである。(了)

■図1
世界のメタンハイドレート分布。赤点はメタンハイドレートが回収された場所、黄色は地震探査などで間接的に確認された場所。
■図2
計量魚探査法によって可視化された海底からのメタンガス噴出(メタンプリューム)。水深912.0mの海底から約600m立ち上がり、水深300m付近に達する。
■図3
2005年8月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査船「かいよう」により直江津沖の日本海海底から回収されたメタンハイドレート。
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