Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第122号(2005.09.05発行)

第122号(2005.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆海の恵みは古くから私たちの生活を様々な形で豊かにして来た。海からの贈り物を持続的に受けることができるか、本号では人と海の共生を考える話題が二つ、共に高知からの発信である。

◆地中海のサルジニア島付近で採取される宝石珊瑚はその深い血の色から命のシンボルとして、既に二万数千年前のヨーロッパ旧石器時代人に愛好されていたそうである。正倉院御物の中にはシルクロードを経てイタリアから中国に運ばれ、さらに遣唐使によってもたらされた宝石珊瑚が現存する。わが国では江戸末期の文化9年(1812年)に高知の室戸沖で初めて採取され、世界的に見ても極めて貴重な産地になっている。岩崎氏の学際的なプロジェクトは七宝の一つ宝石珊瑚とその魅力的な文化誌をさらに明らかにしてくれるだろう。

◆世界の気候区分のなかで東アジアは四季がもっとも明瞭に現れる地域だ。アユはこの東アジアの年魚として、秋に河口付近で孵化し、冬を浅海で過ごし、春から夏に溯上しながら成長して、秋には産卵のために川を下るというサイクルを繰り返して来たユニークな魚である。夏の食に豊かな季節感を与えて来たアユ。その生態系が、今、危機に晒されている。高橋氏は高知の物部川での経験から乱獲やダムの存在による生態系の劣化に対して、種苗の放流による一時的な方策よりも、産卵に適した河床の確保、漁期や漁場の制限など、より持続性のある対策が最も必要であるとする。陸封されたため遺伝子の異なる琵琶湖産の種苗を全国の河川に放流したことが、冷水病菌も拡散させた一因とされる問題も忘れてはならないであろう。

◆ところで、経済性と安全性は一般的には対立する概念である。しかし池田氏は欧州の造船業界の例から、先進的な技術開発により両概念を止揚することが可能であると述べている。これは画一的な安全基準に安住するのでなく、技術革新によって船舶の機能に応じた多様な設計を導入することで実現できる。わが国の造船業界の先進性が問われるだけでなく、こうした新しい方向を受け入れる行政の柔軟な対応も必要であろう。(了)

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