Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第110号(2005.03.05発行)

第110号(2005.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆ワイキキの浜辺にサーフボードを抱えて立つ、ひときわ大きな銅像をご存知の方も多いのではないだろうか。この像こそ、ハワイ王国の消滅にもかかわらずサーフィン伝統文化を逞しく蘇えらせたデューク・カハナモクである。これを教えてくれたのはハワイ大学海洋学部のロジャー・ルーカス教授。サーフィン好きの彼はオアフ島ノースショアで毎年冬に開催されるプロサーフィン国際大会の最高峰、トリプルクラウンの波浪予測を担当している。60年代に南カリフォルニアでサーフィンに熱中している頃、オイルに汚染されたビーチでよく足をとられ、海の環境の研究に深入りすることになったという。上田氏のサーフライダーによる海岸保全のオピニオンを読み、ホノルル在住の旧知を思い出した。

◆寺前氏は海運の過去、現在、未来を見据えた視点から国際船舶制度と経済特区の問題に示唆を与える。東アジアでは国境を越えた経済交流が活発化し、縁辺海が実質的に内海化している。こうした潮流のなかで、自国の権益を守るカボタージュ制度は変革を迫られている。一方で国家安全保障、伝統海技の継承と発展という観点からは、内航のみならず外航においても自国籍船舶の確保、自国船員の育成を図ることが重要である(102号矢嶋氏のオピニオンを参照)。これはジレンマである。経済特区と国際船舶制度を旨く組み合わせ、そこから生まれる果実を自国船員の育成と途上国からの非居住船員の待遇改善に充当するような政策の舵取りはできないであろうか?

◆中国の茶をインドに移植し、イギリス人の紅茶好きの基を築いたプラントハンター、ローバート・フォーチュンは1860年から61年にかけて幕末の江戸を訪問した。その著<江戸と北京>のなかで彼は神奈川近在の耕作を観察し、雑草を田に撒いて耕し、土中で分解させて稲作の肥料としている様子を新鮮なタッチで描いている。日本以外に自給自足できる国は他にないであろうとまで書いている。地球環境問題の究極の対策がリサイクル社会の実現にあるとすれば、江戸時代は一つの回答を与えるが、僅か百数十年後の現代を生きる私たちは地球規模の産業、経済システムに繰り込まれて、途上国の大地と海を汚染し、現地の人々の健康さえも害しているのだ。山田氏の大型船舶の解体についての生々しい現地報告を読み、目を開かれる思いがした。(了)

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