Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第107号(2005.01.20発行)

第107号(2005.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆プーケットから1通の年賀状が届いた。プーケット港に勤務するタイ人の知人からである。港は島の東南部にある。津波の影響を受けなかったのだろうか。津波発生の前に投函されたものなのだろうか。マレーシア国境近くのサトゥンという町で水産局に勤める友人に送ったメールの返事はまだない。サンゴ礁の静かな海が豹変して、押し寄せた波が何万人もの生命を奪った。津波への無策が今回の大被害につながったとする首藤氏の指摘は、つらいからこそ学ぶべき教訓ということか。防災の技術移転は津波大国日本のなすべき事業だという主張は傾聴に値する。

◆海に国境はない。スマトラ沖の震源地から数千キロ離れた場所まで津波が到達したことが、その証しといえるだろう。波がどこまでも伝わっていくように、海の生き物も境界を越えて生きる住人である。やっかいなことに、アザラシが人間にも感染するインフルエンザ・ウイルスのキャリアであるという。大陸を移動する渡り鳥も、ウイルスの運び屋であることが明らかとなってきた。鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)などの人畜共通感染症は、ヒトと家畜だけの問題ではなく野生の生き物も関与すると宮崎氏が警告している。津波とアザラシの感染症は、海の恐ろしい側面をわれわれに見せつけた。インド洋やカスピ海は遠い海の世界のことと思うべきではない。海の災害と環境問題にたいして、日本はまさに海を越えた国際貢献を果たすべき時なのだ。

◆もちろん、海は恐ろしいだけの世界ではない。豊かな幸と安らぎを人間に与えてくれるいのちを育む場なのだ。里海ということばが、そのことを如実にあらわしている。東京湾においしいノリが復活する夢は、身近な海の再生事業として取り組むべきであろう。海は生きている。そのことばをかみしめる時、さまざまな顔をもつ海とかかわる人間のありかたを今年も考える場を共有していきたいとおもう。(了)

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